現代眼鏡概論

椿 恋次郎

現代眼鏡概論


 それでは講義を始める。

 

 まずは諸君に眼鏡の社会的な役割と言った物を念頭に置いた講義である事を明言しておこう。

 当然、眼鏡の技術的進歩や材質の変化、価格の変移等も考慮すべき点であるが深くは言及しないものとする。


 大きな役割として挙げられるのは仮面としての眼鏡である、眼鏡と言う言葉から一般的に連想される言葉と言う、事前に行ったアンケート結果を羅列していこう。

 頭良さそう、真面目、地味、ガリ勉、引っ込み思案、根暗、運動苦手そう、AVの1ジャンル…最後の回答した者には言っておく、今期の時空研究ゼミのテーマは「時間停止世界は存在するのか」である、君のような逸材を待っている、と。


 話を戻そう、一部を除き概ねネガティブな言葉が多い。

 非常に残念だと言わざるを得ないが、この様な結果に至る大きな外的要因が二つある。

 第一に、眼鏡に初めて出会うのは多感な十代の頃が大半である、それは本人が掛けるか掛けた人物に出会うかを含めてである。

 本人が掛ける場合は、そう、初めての眼鏡は親が買い与えるケースが殆どを占める。

 様々なケースや思惑が交錯すれども一部の例外を除いて親目線で“無難なデザイン”に落ち着くものである。

 そうなると良くて面白みのないデザイン、ともすればダサいデザイン、そして大半は地味なデザインに落ち着くのである。

 もちろん尖ったデザインで超クール!な選択がなされる場合もあるが、それはそれで黒歴史として封印されがちな点も挙げておこう。

 

 第二が、眼鏡にある従来からのイメージを固定しておく事でステレオタイプなレッテル貼りが簡単になるからである。

 諸君にも覚えがあるだろう?とりあえず眼鏡キャラ出しとけば知識があって蘊蓄うんちく語らせるのに便利なキャラの出来上がり♪とかね。

 逆に眼鏡なのに賢くないキャラとか「王道を外す」のも事前の眼鏡キャラのイメージあってこその変則なのであるのだ。


 ここで敢えて第三の要因を挙げれば第一と第二の相乗効果であると言えるね。

 そして、それらのイメージの仮面を被るのに疲れた人達はコンタクトに逃げるんだよ。


 非常に嘆かわしいとしか言えない。


 眼鏡の技術的進歩により様々なデザインの眼鏡が廉価なバリエーションとして陳列されてる昨今で、古臭い価値観でスルーされるなんてナンセンスの一言で断じれます!

 ◯性の権利保護?身体は◯で心が◯性の権利保護?傲慢な◯食人種に対する◯食主義者の魂の警告?◯◯保護の名の元に人類はその歩みを一度止めろ?

 冗談じゃない!人類はそんなに賢くない!そんな事に熱量エナジーを注ぐ前に文化としての眼鏡を見直せよ!…失礼、些か白熱してしまったようですね。


 要は良くも悪くも眼鏡は大人のファッションなんですよ、ある種の珍味が大人の楽しみと言われる様にね。

 フレームやカラーで与える印象は千差万別、丸顔で童顔ベビーフェイスに悩んでる貴方には敢えて少し大きめのフレームでシャープな曲線でスマートなルックスに仕上げませんか?

 スマートな三半眼で冷たい印象を与えすぎてないかと悩んでる貴方、フェイスラインを邪魔しない柔らかなラインのフレームで優しい笑顔を演出してみませんか?

 いずれにしろ眼鏡を外した時にファーストインプレッションとは違う貴方の視線にお相手は射抜かれます。


 まぁ、私程の上級者になれば普段コンタクトの女性が気を抜いて眼鏡でデートしてくれた時にこそ射抜かれますがね。


 それはさて置き、眼鏡を愛用する者の殆どが乱視や近眼である。

 その様な人は裸眼で焦点が合うのは、所謂“キスをする直前の距離”なのであります、秒速5㎝ならカウントダウンが始まってる距離なのです。

 壁ドンとの相関性は研究の進捗を待つばかりでありますが、これまでの実験から“その距離は最大のキュン値が観測できる距離との近似値である”とのレポートもあります。


 要は諸君に期待する事は少なからず世間にさらされた事により掛けてしまった、その色眼鏡を外して目からウロココンタクトを取っ払って世界を見て欲しい、それだけです。


 私の様な研究者から見れば、目を眇める姿すら愛おしい、とエールを贈らせてもらおう。



 最後になるが、この講義に迷い込んだ諸君に言っておこう。

 この講義の第二講はない…なぜならば非公式な講義だからな!

 この春からの新入生諸君!この手の空き教室を使ったイタズラに気をつけ給えよ!




 

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現代眼鏡概論 椿 恋次郎 @tubaki_renji

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