めがねのごめん

木曜日御前

ごめん


「めとねって、にてるよね」

 隣から聞こえてきた声に、僕の心はどきりと跳ねる。

 小学校二年生最後の日。隣の席に座る芽衣子ちゃんは、ぐぐっと眉間にしわを寄せ黒板を睨み付けていた。

 黒板には春休みの宿題や、三年生への準備についてなどがぎっしりと書かれていた。


「あれ、めいこちゃん、メガネは?」

「家に置いてきちゃった」

「ああ~」

「眼鏡がなくて、目がねぇ、なんてね。ハハハッ」


 楽しそうに笑う芽衣子ちゃんは、わざとらしく目を細める。

 目が悪いのに、眼鏡が好きではない彼女。黒板を見る時にだけ、ピンク色の眼鏡を使っていた。


「で、めがねに、にてる?」

「うん、にてる」

「めとぬ、ねとれ、ぬとねとか、はにてるけど」

「うん、それと同じで、めとね、にてるよ」


 にこにこと笑いながら宙に「め」と「ね」を指で書く芽衣子。似ているのかわからないけど、指の動きを目で追ってしまうし、楽しそうな声のせいで耳を熱くなるのも仕方ない。

 友達というには距離がある僕ら、今は運良く隣に座れただけのクラスメイトでしかない。近づき方もわからずに、一年が過ぎてしまった。


 先生が入ってきて、帰りの会が始まる。あとは、掃除をし帰るだけ。三年生になる時はクラス換えがあり、離ればなれになってしまうかもしれない。


 意気地なしの僕は、勇気を振り絞って、ノートの端を小さく破って文字を書く。


『きょう、いっしょにかえろ?』

 小さく折った紙を彼女の机の上に置く。彼女は少し驚き紙を受け取ると、紙を先生に見つからないように読む。

 彼女はすぐに同じ紙に返事を書き、僕にこそっと返した。


『ごねん、まって』

 小さく折り畳んだ手紙を、ボクはポケットにしまった。



「というわけで、今日まで待ってみました」

 今日で中学校二年生になった俺は、下駄箱にいた芽衣子ちゃんに話しかけた。

「ごめん、先生が見てるから、今は待ってって意味だったの!」

 久々に同じクラスになった彼女の頬は赤くしながら、大きく笑っていた。

 

 

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めがねのごめん 木曜日御前 @narehatedeath888

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