第13話 動き出す環境
——???視点——
ロサンゼルスの一角。
深夜なのに煌びやかな照明に晒され、まるで昼間のような明るさの中、一人の男がロールスロ○スの後部座席から降りてきた。
「お待ちしておりました、我らがマスター。すでに皆、集まっております」
「ああ、遅刻でもしてたら殺していたかもしれないからな。賢明な判断だ」
オーダーメイドの燕尾服を身にまとった執事らしき人が、その豪邸の扉の前で待っていた。
男は執事の言葉に冷たくそう返すと、促されるままに豪邸の中に入っていく。
「それで? 今日、俺を呼び出したのはどんな理由だ?」
「それはとある日本の探索者についてです」
執事に言葉に男は眉を寄せる。
「日本の? 日本の探索者で有望なのなんてアキくらいなものだろう」
「いえ、アキではございません」
「……ふむ。くだらない相手だったら呼び出してきたあいつらも原因となったそいつも、皆殺しにするか」
物騒なことを呟きながら廊下を歩き、一等大きな扉の前で足を止めた。
そして執事が扉を開け中に男を案内する。
その部屋には円卓が置かれ、ぐるりと複数人の男女が座っていた。
彼らは男が部屋に入り椅子に座るのを、固唾を吞んで見守っていた。
「……で? この俺になんのようだ?」
男はドスッと椅子に座ると、足を組んでそう声を発した。
それに眼鏡をかけた賢そうな男が答える。
「今回ダラスク様を呼んだのは、先日ネットにあげられた一本の動画に関する話です」
「動画?」
「はい。ずっとダンジョンに潜られていたダラスク様は存じ上げないかもしれませんが、この動画は今、世界中から注目を集めています」
ダラスク。
彼は米国一の探索者であり、到達階層は人類唯一の第六十層超えである六十二層。
圧倒的な執念と闘争心で成り上がった人物である。
そんな彼を囲むのは、クラン【ゴッド・スレイヤー】の幹部たちである。
そのクランは一応ダラスクがトップということになっているが、実際には業務は一切せず、ただクランの名を上げるためにダラスクの名前を借りているだけである。
スラム育ちの彼は地位も名誉も興味がなく、欲しいものは全てをねじ伏せる力と願いを叶えてくれる宝玉くらいなものだった。
そんな彼に小田の動画を見せ始めた眼鏡の男は、トム。
裕福な家に生まれ、ハー○ード大学を首席で卒業した才人である。
このクランの立ち上げを企画提案し、実質的に支配して動かしているのは、彼であった。
「なんだ、この動画は……」
小田の動画を見たダラスクは、珍しく興味深そうな声を出した。
彼が他人に興味を抱くことは今までほとんどなかった。
しかしその動画に出てくるおっさんには、瞬きを忘れるほどの食いつきを見せた。
ダラスクはトムの手からスマホを奪い取ると、何度も繰り返し動画を見る。
そしてポツリと一言。
「魔物の特性を変質させているのか……?」
難しい顔をして考え込み始めたダラスクに、幹部の面々は呼吸するのですら気を遣う。
しばらく黙って考え込んでいたダラスクだが、唐突にスッと立ち上がり言った。
「とりあえず会いに行くか」
その決断によって、米国一のクランが動き出す。
こうしてダラスク含めた【ゴッド・スレイヤー】の面々が日本へと旅立つことになるのだった。
***
——小田哲視点——
俺は今、三日ぶりにコンビニに向かっていた。
探索者としての稼ぎが出始め少しずつシフトを減らしていたが、今日は新人が来るということでバイトリーダーの俺が呼び出されたのだ。
「小田さんですよね? 今日はよろしくお願いします」
俺がコンビニに入ると、妙齢の女性が丁寧に頭を下げてきた。
なんか仕草が凄く上品だ。
見た目的には年齢は二十代後半。
茶髪のゆるふわロングの穏やかそうな女性だった。
「はい、小田で合ってますよ。こちらこそよろしくお願いしますね」
彼女の丁寧な口調に引っ張られて、ついついらしくない丁寧な言葉遣いを使ってしまう。
似合わない言葉遣いに違和感バリバリだが、女性の方は穏やかに微笑むだけだ。
「あ、ちなみに私は桜坂美優と言います。気軽にみーちゃんとかゆーちゃんとか呼んでくださいね?」
「…………え? みーちゃん?」
唐突な桜坂さんの洒落っ気に俺の思考が止まる。
その様子を見た彼女はぷくぅっと頬を膨らませてそっぽを向いた。
「……そんな虚を突かれたような反応されたら、私が滑ったみたいじゃないですか」
いや、滑ったんだよ?
とは口が裂けても言えなかったので、俺は慌てて今更ながらリアクションを取る。
「お、おおっ! みーちゃんね、任せろ! へい、みーちゃん、今日はよろしくなっ☆」
「…………やっぱりなかったことにしてください。私が悪かったです」
頑張ってリアクションを取ったらドン引きされた。
解せぬ。
とまあ、そんな風に自己紹介を済ませ、夕勤の人たちから仕事を引き継ぎ、夜勤の業務を開始した。
「とりあえずもう少ししたら商品が届くから、このリーダーで検品していこうか」
「はい、分かりました。頑張って覚えるので、いろいろ教えてくださいね」
「そんな頑張って覚えるほどでもないけどね。特に最初は難しいことなんてあまりないんだし」
そんな会話をしつつ、業務を教えていく。
彼女はかなり要領がいいのか、すぐに教えたことを吸収していった。
そしてある程度の業務を終え、一休み。
「そういえば小田さんって、あの小田さんですか?」
ふと桜坂さんに聞かれた言葉に、俺はドキッとした。
「……あのって、どれよ?」
「いえ、最近なんかニュースになっていたと思うんですけど」
そうか、バレてたのか。
なんか気恥ずかしい気分だ。
てかニュースになるってそんなに凄いんだな。
地上波の凄さを改めて実感する。
「そうだよ。ニュースになってた小田で間違いないよ」
「やっぱりそうなんですね! ちょっと話とかいろいろ聞いてみたくて」
そう前のめりに聞いてくる桜坂さんに、俺は若干引きつつもこの間の話をし始めるのだった。
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底辺おっさん、無自覚にダンジョンの常識を変えてしまう〜スレ民たちの軽い冗談が、おっさんのせいで現実になりつつあるんだが〜 AteRa @Ate_Ra
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