眼鏡越し覗いた真実(天草縁)


 クラスに一人。もしくは学校に一人、アイドル的な存在っているじゃん?

 ラノベで良く見る設定だよね。


 でも、それが現実リアルで垣間見ることができたしたら。

 正直――やめておけ、って思う。


 ほら、視力が正常なヤツがメガネをかけたらさ、ぐわんぐわん視界が揺れて、頭痛がするような。そんな感覚に陥ること請け合いだから。


「ねぇ、蓮君」

「何? 厳島さん……?」


 おぅ? どうして伊丹、お前はいつも最初に地雷を踏む? そして教室中にブリザードをもたらしているの、いい加減分かって。


「ふんだっ」

「あ、ちょっと、厳島さ――」

「名前を呼んでくれない人は知りません」


 聞いていて、ゲンナリである。


(……何回目だよ、このやりとり――)


 瞳はぷいっとそっぽを向いてしまう。最近、伊丹のことが分かってきた。あいつ、極度のあがり症なんだ。人前で名前を呼ぶことそのものは、問題ない。


 ただ、瞳は色々な人から注目されがちで。伊丹はそんな周囲の視線に、耐えられない。ただ、それだけなのだ。


「あ、そ、その……ひ、瞳……」

「はい、蓮君」


 瞳はニコニコだった。。


「蓮君。それじゃ、ご褒美ですね」


 クスリと笑んで、お弁当を開ける。

 そこから、まず卵焼きを箸で摘まんで。

 伊丹の口に「あ~ん」と言いながら、優しく運んでいく。


「あぁぁぁぁっっ!」


 外野の男子、うるさい。お前らは伊丹以上になれろ。


「おい、えにし! お前、お嬢の親友として、これは良いのかよ?」

「瞳が幸せそうだし? 私は別に――」


「「「「そんなぁぁぁっっっ!?」」」」


 だから、やかましい。


「あ……あの……? 瞳さん、ただの友達はこういうことはしないと――」

「蓮君と私は、ただの友達なんですか?」

「え……?」


 だから伊丹、お前は瞳に乗せられすぎだから。


「え、っと……?」

「お弁当作るの、手間暇かかるんですよ? ただの友達に、そんな労力かけませんって」


「え、うん? えっと、タダじゃない?」

「当たり前ですよ。蓮君だから、です」

「ありがとう?」

「どういたしまして」


 瞳はにっこり笑う。

 この瞬間もまた、瞳はさり気なく距離を詰めようとする。


「え、えっと?」

「私も『あ~ん』して欲しいんですけど、ダメですか?」


「え、えっと……。友達で、そういうのは――」

「私はしたけれど。蓮君は私にしてくれないんですか?」

「あ、いや、そういうワケじゃ――」

「良いです。どうせ、私は蓮君にとって、タダの友達ですもんね」


 しゅんと、俯いてみせる。腹黒お嬢、お見事だった。


「あ、あの、厳島さん……」

「――」


「瞳さん?」

「はいっ」


 即答。早いったらありゃしない。


「あ、あの――」

「いつでも、どうぞ」


 満面の笑顔だった。

 伊丹、そろそろ覚悟を決めた方が良いと思うんだよね。


 伊丹の父さんの会社、厳島グループに吸収合併されたの、偶然じゃないからね?


 町内会の福引で当選したホテルディナー・チケット。

 厳島家と、鉢合わせたのも――偶然じゃないからね?


 学園祭の打ち上げで、気付けば――二人っきり。

 気付けば、睡魔に襲われて。

 瞳が、膝枕。

 それも――偶然じゃないからね?


「瞳さん、あの…」

「はい、蓮君」


「あ、あ、あの――あ~んっ!」


 意を決して、箸を運ぶ。チロッと唇から舌が見え隠れして。何故か背徳感を感じてしまう。


「うんっ。美味しい」


 瞳、毎度だが満面の笑顔だった。


「それは、瞳さんの料理が美味しいから」

「蓮君が優しく『あ~ん』をしてくれたからだよ」


 はじまった。

 私はサンドウィッチを囓る。


 この間――私は、無我の境地へ。悟りへ一歩、近づいた気がする。


 何回、同じやりとりを繰り返せば満足するのか。


 一時期、真剣に瞳の相談に乗ってあげた、当時の私。


(あれ、ムダ骨だったよ――って。教えてあげたい)


 マジ、で。






■■■





 これは、恥ずかしがり屋のメガネ男子と、実は腹黒女子高生の小さな恋のメロディー。

 あと何回、このやりとりを見せさせられるんだろう?


 次のイベントは、体育祭での借り物競走。

 お題は「僕の好きな人」


 もちろん、お嬢様の仕込み済み。そして、生徒会役員は買収済だった。





 断言しよう。



 ――現実リアルで見せられるラブコメほど、碌なものはないからね!






【おしまい】

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【KAC20248】Left & Right ~両目でようやく視える二人の真実~ 尾岡れき@猫部 @okazakireo

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