大好きなあゆみとインド旅行 KAC20248

愛田 猛

(一話読み切り)

「さっきのカレー、お米が寝てたよね。」レストランから出たところで、大きな帽子をかぶり、サングラスをしたあゆみが不満そうに言う。


「コメの種類も炊き方も違うんだから、お米が立ってないからって文句言うもんじゃないよ。」僕はあゆみをたしなめる。


「ああ、眠い、眠い、メガ眠い!」あゆみがサングラスを取って目をこすり、文句を言う。まあこんなのはいつものことだ。

整ったあゆみの顔を改めて見ると、確かに、目が眠そうだ。


僕、猛とガールフレンドのあゆみは、インド旅行に来ていた。

学生時代の思い出作り、というやつだ。


飛行機で寝すぎたせいか、時差のせいか、あゆみの睡眠サイクルが狂っているようだ。


僕はあゆみのご機嫌をとろうとしたが、そこであいにく雨が降ってきた。

8月のインドは雨期にあたる。晴れていたと思っても、いつの間にか雨が、熱をもった地面に降り注ぐ。


僕とあゆみは、急いで土産物屋にとびこんだ。観光客用のいろいろ変なものが並んでいる。


「こんなのどう?」僕は、象の顔をした置物を手にして言う。でもあゆみは「そんなのダメ。ガネーシャなんて気持ち悪い」と言う。


「え、ガネーシャって、群衆を導くとか障害を取り除くとかの功徳がある、商売繁盛とか富の神様なんだよ。」僕は眼鏡をクイと上げながら反論する。


「えー。でも象の頭ってヤダ。」


やれやれ。またあゆみのわがままか。せっかくのインド旅行なんだから、喧嘩なんかしたくない。


「じゃあ、こっちのカメが寝ているやつはどう?」僕は目をつぶったカメの像を指さす。く。


「寝てるの?寝るときは頭をひっこめるんじゃないの?」あゆみがいう。


「頭や手足をひっこめないカメだっているんだよ。手足をひっこめて火を噴いて回って飛ぶカメもいるぞ。」


僕は笑いながら言う。


「何それ。映画とかアニメがネタなの?」


ガメラを知らないあゆみが笑った。

「そのカメ、重いでしょ? 粘土な落とすと割れるよ?」

カメも、どうやらあゆみのお眼鏡にかなわなかったようだ。でも僕は一応、名言を使って反論してみる。



「僕は、カメが粘土でも木でも、プラスチックでも構わない。落とさなければどうということはない。」


「そうかもね。…きゃっ!」あゆみのハンドバッグの留め金が外れ、中身が床にぶちまけられてしまった。


化粧品やペンケースに本などが転がる。


僕とあゆみは慌てて拾う。


本を拾ってくれたインド人の店員が、さし絵を見て「オー、ナーガ!」という。


あゆみは童話作家を目指しているため、ガネットの名作「エルマーのぼうけん」を愛読している。


「ナーガって蛇よね?竜じゃないよね?」あゆみが不思議そうにいう。こんなあゆみの顔も可愛い、と僕は思うけど、口に出すといろいろからかわれるから言わない。


「インドじゃ竜と蛇は同じみたいだよ。」僕はいう。西洋の羽根の生えたトカゲの親玉竜ではなく、インドや中国、日本では、蛇のようにただ長い竜がポピュラーだったりするのだ。


お礼をかねて、僕らはカメの像を買う。

店を出たあゆみが言う。まだ雨は降っている。

「インドって、ITが発達してたり、牛がいたり、死体が川に浮いてたり、不思議なところね。」


「そうだな。政治も経済も軍事もみんなぐちゃぐちゃだよね。ボードゲームのメガ・ネーションみたいだ。」僕は、好きなボードゲームのことを思い出した。


「ホテルに戻らないとな。どっちだろう>?」

僕はスマホの地図を開く。オメガ・ネットという海外でも使えるサービスを契約してきたので、いつでも通信料を気にせず使い放題だ。


スマホを見ようとしたが、視界がぼやけた。蒸し暑いので、眼鏡が曇ってしまったのだ。僕はクロスを出し、眼鏡を外す。


「ちょっと待って。」あゆみが言う。何だろう。


よく見ると、あゆみの目が熱っぽい。


「猛、私は、眼鏡をはずしたときのあなたの優しい目がね、大好きなの。こっちを向いて。」

僕は眼鏡を片手に持ったまま、愛しいあゆみの目を見つめる。

自然に抱き合ってキスをする。


あゆみの甘えモードが始まった。

旅行する前の取り決めが、寝る前のキスだったけど、昼間だってこうしてキスをせがまれる。


暑いし、雨も降っている。でも僕たちはそんなことは気にしない。僕は、眼鏡を片手に持ったまま、大好きなあゆみをもう一度抱き寄せた。


…ちなみに、キスは少しだけカレーの味がした。


(完)


===

KAC20248 最終のお題は「めがね」でした。


「眼鏡」「お眼鏡」以外、全部気づいたかな?

今回は答え合わせしてみましょう。


1 お米が寝て

2 メガ眠い

3 目が眠そうだ。

4 雨が、熱をもった地面に

5 そんなのダメ。ガネーシャなんて

6 カメが寝ている

7 アニメがネタ

8 カメが粘土でも

9 ハンドバッグの留め金

10 目指しているため、ガネットの名作「エルマーのぼうけん」

11 ボードゲームのメガ・ネーション

12 オメガ・ネット

13 あゆみの目が熱っぽい。

14 優しい目がね、大好き

15 取り決めが、寝る前のキス


全部わかりましたか?

わからなかった人は★三つとコメントとレビューね!(笑)



改めて。


お読みいただき、ありがとうございました。

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特に短編の場合、大体が一期一会です。


袖すりあうも他生の縁。

情けは人のためならず。


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…もちろん私が最初に幸せになるんですけどね(笑)。




















今回は「ガネーシャ」からこの作品を作りました。この単語使う人、何人くらいいるかな~。

ちなみに、ガメラ、知ってますよね?(笑)

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