第41話【大地の試練】天の裁きと海の怒り【攻略配信】
「ついに舞い戻ったぞ!大地の試練、深層二層!!」
階段を降り、そう元気よく叫ぶ。
俺の後ろには、安価で選ばれた四人のメンバー。
ルエル、フラム、そしてサキとラクナだ。
ちなみに安価で選ばれたはずのユリは誰もいない四層をとある理由で2ヶ月以上彷徨っている。人間の感性からしたら頭がおかしくなりそうなレベルだろうが天使は時間感覚が違うようでそこまで特に不満は出ていない。
まあ、スマホを弄りたいようで最近はよくおねだりしに部屋に来るが…流石に引きこもり過ぎである。フラムやルエルといった主体性が皆無な二人でさえ数日に一回はダンジョンを直接見回るというのに、ユリは部屋で2週間スマホをいじり続けるというほぼ依存状態であったためこれは仕方のない処置である。
それと、安価なのに連れてこなかったのかと思われるかもしれないがこれも仕方がないことである。
言い訳としては、フラムが五層のボス役であるのでフラムが出払った場合四層が最終防衛ラインになるのだが、その四層のボス役がユリであるためだ。
つまりどちらかを連れて行く場合はどちらかはダンジョンに残しておかねば宝玉を置いておくには少し心配なのである。
一応マナという番犬もいるにはいるが、強くはあるんだろうが戦ってるところは見たことないので用心に越したことはないだろうということだ。
ユリの実力は軽くフラムとやり合ってもらって把握したのだが、それはそれは凄いものであった。どんなものだったのかは…まあユリが戦うときに説明しよう。え?誰に説明するかって?
「そりゃ君たちだよ」
『お預けってことですか…』
『待てとかできないわん!』
『ユリたんの情報少ないよ!もっとクレ!』
『まあ防衛は大事だもんな…』
そんなこんなでユリに幻想を抱いているコメント欄と雑談をしながら、大地の試練深層二層にたどり着いた俺達だが、本来なら雑談なんてできるはずがないくらいここは危険だ。だがこんなにも余裕で雑談ができるのにはわけがある。
それがこの認識阻害の指輪である。とある俺の豪運によって全てを失った悲しいおっさんから強奪したアイテムだ。
このアイテム、なんとDPでは100,000DPが必要な超高価な代物なのである。
周囲のすべての生物の認識を歪め、何をしてもバレることのない認識阻害。暗殺でも音や臭いを消せない透明化とかそういうアイテムやスキルより上位の力であろう。
とはいえそれでは仲間の攻撃に巻き込まれるのでは?と思う人もいるかもしれないが、一部の人間にだけ認識阻害を掛けないなんてことも可能である。
半径5m以内の仲間にも付与することもでき、弱点なんてどこにもない最強のアイテム…ではない。何故か上位の天使には見破られるみたいなのでそこまで便利なものではなさそうだ。
とはいえ、ここではその能力は健在。今の所モンスターに襲われることもなく配信準備を済ませることができた。
これは結構な収穫である。
あ、ちなみにサキやラクナの初登場はもう大盛り上がりしたあとだ。宥めるのに1時間かかるのはもう定番になってきてしまった。
「それじゃあ、今日の予定について説明していこうかな?とりあえずこの深層二層はルエル以外の三人に戦ってもらう。俺もちゃんと戦いたいけど、ここで戦ってもキリがないし、二層は完全に任せるよ」
「承知致しました」
「あ、視聴者には言っておくけど別に無休で働かせてるわけじゃないから安心してね?ちゃんとご褒美も用意してるから」
『ご褒美?』
「うん。俺としては全然ご褒美なきがしないけど、サキはそれで私達は全力を出せますって言ってたよ」
『そんな特別な報酬が天使にはあるのか…』
「うん。ま、ここで駄弁ってても終わんないし、始めるだけ始めておくか。3人とも、頑張ってね。んじゃ、作戦スター…ト?」
そう言った瞬間、遠くに見えていた山が爆発し…消滅した。
「─────んえ?」
『?』
『え?』
『随分と早い花火だなぁ』
『たまやー』
『???????』
………………………………
……………
……
「呑み込め」
青い少女がそう告げるとどこからともなく湧き出した濁流が辺りにいた棒立ちのモンスターごと一気に緑の平原を呑み込んだ。
そんな少女ではフラムとラクナがモンスターの相手をしながら会話をしていた。
「ラグエ…いえ、ラクナ。相変わらず、貴方の人間嫌いは健在ですね」
「…フラム様。もしかしてバレてました?」
「私は構いませんが、主の不都合になるのであれば貴方も処分しますので。それと、様を付けるのも辞めてください。ただ大天使として召喚されただけで立場は変わらないでしょう」
「うーん…でも階級が違うとやっぱり遠慮してしまうんですよね」
「はぁ……遊びも程々にしてください。私も同僚を殺したいとは思いませんので」
ため息をつきながらそう言い彼女は、もう一人の少女の方に目を向ける。
「サキ。貴方もですよ」
「私もですか?」
「えぇ。貴方は主の優しさに甘え過ぎです。使者である我々が主に命令するなど本来ならあってはならないことで…」
「でも、欲しいでしょう?」
「………それは…」
サキにそう言われると、フラムは口ごもる。
今回、一番モンスターの討伐数が多い天使にはとある特別な報酬が用意されていた。
それが『ノスターへの命令権』である。
サキは現在15枚所持しているそれだが、フラムにとっては天使が主に命令、いや、それ以前に何かを願うなど言語道断であった。
だが、だからといって欲しくないわけがない。
主は優しい。全天使の翼、そして光輪すらも積極的に触れてくださるほどに。
だからこそ、私のような存在が手を伸ばしても、主は拒絶するどころかすべてを受け入れてくれるであろう。
それに、何かをしなくても主は私の望む全てを叶えてくれる。
ならこれ以上求めるのは罪となるかもしれない。そう頭では考えていても…
(………主に触れてみたい)
そう彼女は願う。
今まで、ノスターからの接触はあるものの、フラムからは一度として触れたことはない。
それは天使として当然のことであり、主を穢してはならないと考えている彼女にとっては当たり前のこと。
だからといって、触れたくないわけではないのである。
「いえ、そのようなことはありません」
「ふふっ…そうですか?でしたらその手を止めてみませんか?」
そう彼女に指摘されたフラムだが、剣を薙ぎ大地を焼き払う。
また、彼女たちの離れた場所では絶えず爆発音が鳴り響き、天からは光の柱が降り注いでいたのであった。
………………………………
……………
……
『にしてもラクナちゃん可愛すぎないか?』
『いやいや、サキちゃんも全然負けてないだろ』
『はぁ…理解ってないな。どう考えてもNo.1は王道のフラムたんだろ』
『王道ならルエルたんだろ!いい加減にしろ』
『ノスターは誰が一番好きなんだよ!?やっぱりルエルたんだよな!?』
「別に誰が一番とかないんだけど…」
彼女たちが戦っている間、俺は階段の前に腰を下ろし、コメント欄と会話をしていた。
誰も今行われている現状に触れない。いや、触れれないのだろう。
背後で行われている戦い…いや、一方的な虐殺は、まさしく天の裁きとも言えるような光景であった。
うん。現実逃避したくなるのもわかる。
何あれ?頭イカれてるでしょ。
『え?後ろの光景誰も触れないの?』
と、そこでようやく踏み込む勇者が現れる。すると、続々と全員が正気に戻っていった。
『……正直俺も気になってた。え?天使ってあんなに強かったの??』
『ラクナちゃんはしごできな普通の美少女だなってくらいしかなかったんだけど…?』
『これが地獄か…終末かな?』
「いやぁ…ここまでやれるとは思ってなかったな…」
中でもフラムには驚きである。軽く戦ってもらったときとは全く違う威力の炎…というより光がモンスターの上から落ちてきて爆発し、そこにいたはずのモンスターを一撃で消滅させている。
ルエルを基準に考えていたが、天使というものは思った以上に強大な力を持っているようだ。
それにサキの力もフラムに比べても見劣りしないレベルだ。
無限に湧き出る水が地面を削り取りながらすべてを呑み込んでいる。
流れたあとの大地は草一本生えていない。
ラクナはどうやら完全にサポートに徹しているようで、目に見える範囲に立っているモンスターはすべてピクリとも動かず棒立ちだ。
そんなモンスター達を無慈悲にも光と波が虐殺していた。
この景色を見て理解したが、天使の階級は筋力や耐久、俊敏ではなく、能力によるものなのだろう。
そういえば天使のステータスは筋力、耐久、俊敏に多少違いはあるが全員7以上の高ステータスであった。
だが精神は1〜10と大幅に違いがあったので疑問であったが、多分FWの量によって上昇するというわけか。そして、1〜10と表示は人間と同じだが、実際は全くの別物、というわけだろう。
人間の10が100だとしたら天使の10は1000とかそういうことだ。
確かサキの精神は8だったはずだが、津波のような大波を何もない草原で起こすなんて人間の探索者では見たこともない。
水系のスキルを持った帝級探索者でも、あれほどの水は出していなかったと思う。まあ本気かどうかは不明だが…
と、そういうわけで今までそれに気が付かなかった俺は結構本気を出してとお願いしてしまい、その結果がこのドン引きの景色というわけだ。
『………これ、ノスター一人で制御できるの?』
「うん。俺もそう思う」
これ、反逆されたら終わるやん…
俺はそう心の中で呟くのであった。
ダンジョンマスターになったので安価でダンジョン運営するwwwwww 座頭海月 @aosuzu114514
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