ひまわり

結音(Yuine)

芽と根

「めがね、出できたの!」 


「そう、よかったわね。

 リカちゃん、、どっちが先か知ってる?」


「め?」


「いいえ。よ!」


「ね?」


「そう、なの。

 よりが、さきえてくるのよ。

 覚えておきなさいね」




 そんな会話を思い出した日。

 わたしは、芽を出したばかりのヒマワリを見た。




「いい? 最初に出てきた この2枚の葉っぱが『ふたば』、あとから出てくるたくさんの葉っぱを『ほんば』って言うのよ。『ふたば』と『ほんば』、形も違うからね。よく見て」


『ふたば』も『ほんば』も、区別なく『は』として習うことになる わたしたちのことをあわれんでいたのか、子ども向け教材の絵本の注釈まで細かく目を通していた彼女は、熱心にわたしに教えたものだった。



『ふたば』は 丸くて、互いに向き合っている姿が、かわいらしいな、って思った。

『ほんば』は ぎざぎざしてて、互いにあちこちを向いているのが、気になった。

『ふたば』は よく似ていたけれど。

『ほんば』は それぞれが大きかった。

『ほんば』がたくさんになると、ふたばは消えていった。






 誰に知られるともなく……

 





 わたしの初恋は、消えた。






 でも。

 最初に生えるのは根。

 根深い思いは、簡単には消えない。

 忘れられない。





がね、出てきたよ」

 

 ひょっこり顔を出した、恋の始まりも ほんとうは、先にが生えていたのかもしれない。

 次に好きになる人もきっと、




 初恋の人が忘れられない?


 それは、内緒にしておいて。



 わたしが好きになる人は いつも、眼鏡めがね

 それでもいいじゃない。



「そうね、リカちゃん、人生は思い通りにならないほうが多いのかもしれないわね」



 あの人の声が聞こえてきそうだ。 


 大輪のヒマワリが咲くと、わたしとヒマワリをせい比べさせたあの人。


「リカちゃんの方が大きくなったら、わたしは、サヨナラ、ね」



 あの人の笑顔は思い出せないけれど、あの人がかけていたフルフレームのメガネだけは、覚えている。



 わたしの心に根をはった 初恋の思い出。

 大輪のヒマワリ。

 

 この小さな芽も、大きな花を咲かせるのかしら?

 できれば、小さな花でいいから。

 誰かひとりのために咲いてほしいわ。






 ねぇ、がね 出てきたの。








 







 

 

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ひまわり 結音(Yuine) @midsummer-violet

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