撰銭少女はめがねをかける
土田一八
第1話 撰銭係はめがねをかける
金融都市フレッタにある商人ギルド。
私はここで撰銭係として働いている。
撰銭とは、正規の貨幣以外の貨幣である悪銭や贋金を発見して市中に出回っている貨幣の価値を下げない事が目的だ。
さて、窓口を開く時間だ。私は丸いめがねをかけ、鉄格子にかけてあるタペストリーを上げて一段台が低くなっている鉄格子造りの窓口を開く。
「お待たせしました」
私は、植木鉢の受け皿のような大きな受付皿を出し、客はその皿に盛って来た貨幣を袋からザーと流して山を作る。撰銭の貨幣は大抵銅貨か銀貨である。金貨はあまり例がなく、真贋判定の方が多い。
私は山から一枚ずつ選別する。撰銭は正貨、正貨外の悪銭に区別するだけなので割と早く終わる。どちらか多いかはその時によって違う。正貨の方が多い時もあれば、そうでない時もあるし、殆ど正貨という事もある。悪銭が多い、というのは殆どない。悪銭の場合、額面取引はできないので、額面評価は金属の種類や含有量で評価されて正貨に交換する。
そして、この額面評価が一番骨が折れる仕事だった。
黙って受け取る客の方が多いが文句を言う客も当然いる。
「これだけ?」
「もうちょっと何とかならない?」
「再鑑定手数料は評価額の二割がかかりますが、よろしいでしょうか?」
「分かったよ」
こう言うと、ぶつくさ文句を言いながら引き下がってくれる事の方が多い。悪銭再鑑定手数料は評価額の二割であるからだ。ちなみに、撰銭は持ち込む貨幣量や額面に関わらず手数料無料だ。
「何だこれは!ギルマス出せ!」
結果に納得せず怒鳴る客もいるが、ギルマスはおろか、上司も知らん顔で、脇で警戒している衛兵がすぐやって来て、不当威圧罪の現行犯として連行されて行く。こちらも魔法を使って正確に判定しているからね。
「クソっ!覚えてろ!」
捨て台詞は暴言罪でさらに罰金が科せられる。ざまあみろ。まあ、殆どが金持ち商人だから大したことはないだろうが。
なので、恨みを買って夜討ちを仕掛けられる事がたまにある。
「お疲れさまでした」
その日も定時退勤する。変装魔法を解き、夜は危険なので明るいうちに帰宅となるのだが、暗殺者が街角や路地で待ち伏せをしている事が多い。
「死ねぇ!」
この言葉。割とよく言われます。ハイ。でも、死んだ試しはない。しかたない。
キラッ。
私は短剣を両手で素早く引き抜き、斬られる前に相手を一撃で斬り倒す。
ズバッ!ズバッ!
両手の短剣は暗殺者の身体を切り裂く。
ドサドサ。
襲ってきた暗殺者二名は路面に斬り倒された。
「ゲッ⁉」
「に、逃げろ!」
「逃がすか」
ヒュンヒュン。私は持っていた短剣を生き残って逃げ出そうとした暗殺者に向けて的確に投げる。
グサグサ。
「うぎゃ~ぁ⁉」
短剣が足に突き刺さった男達の悲鳴が路地に響き渡る。
「お、おまえ、何者だ⁉」
暗殺者はのたうち回りながら質問する。私を襲うとは、こいつらはうちのギルドの人間ではないね。
「刑場で分かるよ」
私は短剣を引き抜きながらぶっきらぼうに返事をしてやる。そのうちに衛兵がやって来て男達は連行されて行く。こりゃ死刑確定だね。
それから数日後の刑場。
私は本来の正装で死刑執行に立ち会う。
「あっ!おまえ⁉」
死刑囚として刑場に引き立てられた暗殺者は、どうやら、私の正体に気が付いたらしい。
「フン。今頃気が付いたのか?バカめ」
「ど、どうなっているんだ?」
「フン。貴様らみたいのが多いからだよ」
「く、くそぅ…!」
「おいっ!サッサと歩け!」
死刑囚は刑吏に蹴飛ばされる。
「魔導騎士暗殺未遂の罪により、死刑執行を命じる」
法官の読み上げが終わると、死刑執行人の手によって死刑囚の首は落とされた。私の暗殺を命じた商人は逃亡したが、先日逮捕されたので後日こちらに護送される予定である。彼も同じように処刑される運命にあった。
やれやれ。
二人の処刑が終わってそう思っていると、騎士団の上官である副団長補佐に声をかけられた。彼は気配を消すのが上手い。
「贋金捜査の命令が上から来ている。君が適任だから頼むよ」
「え~~~~~?」
私は露骨に嫌な顔をした。いつもの事だけど。
「じゃ、頼んだよ」
上司は私に文句を言われないうちにそそくさと人ごみの中にあっという間に消えて行った。
「はぁ…面倒だなぁ」
私はウンザリしながら騎士団本営に向かった。
完
撰銭少女はめがねをかける 土田一八 @FR35
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