メガネを掛けてる子がそれを外す時、ちょっとドキッとする現象

ムタムッタ

コンタクト><メガネ


 20XX年──

 世界は視力矯正道具コンタクトかメガネで争っていた。


 あるものはメガネ、

 あるものはコンタクト、

 またあるものは裸眼……は全然違うけど、不要な人もいるので。


 ある反メガネ派のお偉いさんは言った。


「メガネなど不要っ! 芋っぽい女がさらに芋っぽくなる! 所詮はコンタクトの踏み台よ」


 ある反コンタクト派のお偉いさんは言った。


「コンタクトなど不要ッ! キャラ分けにも使えぬ哀れな小道具よ」


 ……双方、関係各所から怒られそうな気はする。

 フェチというのは時に凄まじいパワーを生み出し、争いの種になるのである。コンタクトかメガネの論争は世界を巻き込み、果ては血で血を洗うならぬ、レンズでレンズを洗う戦いへと発展した……



 ……まぁ、それほど混沌とはしてないんだけど。



「いたぞ、メガネだっ!」

「フレームを外せェっ!」


 某県、某所。朝の登校中にメガネ規制派……もとい、コンタクト派の黒服達による運動を見かける昨今。

 戦いの果てにどこもかしこもコンタクトレンズ派が跋扈し、メガネ派が処罰される世界。道行く人間、誰も彼もがコンタクト。フレームを付けることは禁忌ともいうべき世界は、狂っているように見えて正常らしい。国が、メディアがどうしてか、メガネを排除しようと動いていたのだ。


 メガネ派の人間へコンタクトにさせる運動が過激化していた。

 かくいう自分もコンタクトレンズである。


「朝から精が出るなぁ」


 おかしいと思いつつ、普通に受け入れてしまっている自分がいる。なぜなら元からコンタクト派だからだ。


 メガネの方が楽だが、ド近視のレンズで縮小された目は魅力減だと思っている。「モテるならコンタクト」とは誰が言ったか。高校デビューと一緒にコンタクトデビューしたものの、成果はない。


 もっと大掛かりに変えるべきかと思案していると、背中をドン、と叩かれる。

 

「おっはよー拓人!」

「おはよ、れん……おまっ⁉」


 幼馴染みの杜松亀怜ねずがめれんの元気な挨拶だったのだが、問題は彼女の顔だ。いや、顔は整ってる奴なんだが、装備品の方か。


「どうかした?」

「どうかしたって……メガネじゃねぇか‼」


 ラウンド型のワインレッドフレームが両目をぐるっと囲み、ぱっちり二重である怜の目はちょっぴり小さめに映っていた。なんだろう、漫画でちょっとイケナイシーンを捲ったときと同じ心境だ。


「だって、毎日コンタクトじゃ疲れるじゃーん」

「コンタクト派の奴らに粛清されるぞ」

「大丈夫大丈夫、このメガネ最強だから」

「なんそれ…………」

「おい、貴様! メガネを外せ!」


 後ろから現れたコンタクト派の黒服がこちらに叫ぶ。 

 逆らえば強制連行されてコンタクトにされる……! って、俺はコンタクトだったな。


「うっさい! コンタクトつけてたら目が乾くんじゃーっ!」


 唐突。

 怜のメガネ、その両眼のレンズが眩い光を一直線に放つ。ビームよろしく、閃光は黒服達を軽く炙った。


「ぎゃーっ!」

「峰打ちだ……!」


 ……ビームで峰打ちとは?

 元が黒服だからよくわからんが……メガネから出たビームで倒したらしい。こいつ、こんなキャラだったか……?


「あーもう、この技出すとメガネ熱くなっちゃうんだよね~」

「なんじゃそら――」


 前提の外す理由がおかしくても、

 それはとても、とても自然な所作。

 

 不意に彼女は顔の装飾を外し、小さく顔を揺らす。

 フレームとレンズの奥から現れた顔は、怜の本来のそれをさらけ出した。いつも見慣れてるはずなのに、メガネを取っただけでちょっとドキッとしてしまう。


「ん? どした?」

「……いや、なんでもない」

「変なの……わっ、遅刻するよ! はやくいこっ!」

「ちょ、走るなって!」


 怜を追う前から、心臓の鼓動はちょっぴり早め。

 コンタクトでもメガネでも変わらないが、ちょっとした違いギャップが別の見え方を教えてくれる。


 ありがとう、コンタクト派の黒服さん。

 俺、今日からメガネ派になります。


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メガネを掛けてる子がそれを外す時、ちょっとドキッとする現象 ムタムッタ @mutamuttamuta

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