君は眼鏡をかけようとしない

136君

僕の彼女はメガネをかけようとしない

 僕には彼女がいる。


「おーい優利、前、前!」

「ん?あっ!」


今、数学のプリントを持ちながら歩いている生徒にぶつかりそうになったのが僕の彼女、花江優利だ。


「ほら危ないから。」

「ごめん。」


優利は根暗な僕には勿体ないほどの美少女である。カラメル色の髪を腰の辺りまで伸ばしていて、身長はたしか155くらいだったはず。綺麗ってよりは可愛いって感じの、まだあどけなさが残る顔。これは言ったら殺されるのだが、幼児体型である。


「もう、メガネかけろって。家あるだろ。」

「いや。」

「じゃあせめてコンタクト。」

「そっちの方が絶対いや。なんで、眼球に自分から異物入れないといけないの?」


そんなことを言いつつ、僕たちは廊下を歩く。たまに人にぶつかりそうになったりするので、僕が引っ張ってやらないといけないのだ。


「いつか怪我するぞ。」


ちょうど階段に差し掛かったので、僕が少し前に出て降りる。前と言っても1段くらいだが。でも、その位置がコケた時に1番支えやすいのだ。


「大丈夫だって。私には颯がいるし…ってうおっ!」


案の定、優利は階段を踏み外した。僕は即座に優利の背中に右腕を入れ、頭を打ち付けないように支える。何百回、何千回と支えてきたその背中は、やはり優利は女子なんだなと思わせるほど小さい。


「あんまり心配させるな。」


優利の耳元でそう呟く。優利とは幼馴染なので、弱点は知り尽くしているのだ。


「ひ、ひゃい!」


優利は顔を真っ赤にして僕の腕の中で小さくなる。顔は押さえているが、耳が真っ赤なので照れているのはバレバレだ。


「ってことで持ってきました!優利のメガネ!」


僕は優利を立たせてから、鞄の中からメガネケースを取り出した。正真正銘優利のものだ。


 暴れられてもいいように、踊り場まで降りてからメガネを優利にかける。金色の縁の丸縁メガネだ。


「やめて!」

「えーっ、似合ってるのに。」

「私が嫌なの!」


やっぱり、僕の彼女はメガネをかけようとしない。

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