私のめがね

鬼灯 かれん

私のめがね

「フラれちゃったあ」


 第一声にそう言って、君は家に帰ってきた。大きな目が涙でいっぱいになっている。


「お、いい匂い! 今夜はカレー? 嬉しい。カレー大好きなんだよね」


 涙を拭いながら、急いで君は洗面所に向かう。それから君はすぐ食卓へやってきて席につき、いただきますと華奢な手を合わせて、カレーを食べだした。


「美味しい……こんなカレーが食べられるなら、私の奥さんになってほしいわあ」


 冗談半分でそう言って、君は笑う。

 カレーをハフハフと美味しそうに頬張る君は、やっぱりかわいい。


「……彼女、いたんだって、それも最近になってから。

 相手は誰か教えてくれなかったけどさ……やっぱり悔しいや。せっかく私に紹介してくれたのに……こうなっちゃってゴメンね」


 それはそうだよ。だってアイツは、最近私に告白してきたようなヤツなんだから。


 君は彼のことを本気で恋するくらい好きになってしまったようだけど、とんだ眼鏡違いだよ。

 アイツは君に見合うような人間じゃない。気にいった人を見つけたら何振り構わず付き合って、すぐに捨てるようなロクでもない男なんだよ。

 それが分かっていて、君に勧めたんだ。


「あーあ、早く彼氏欲しいなあ。いい人いたら、また紹介してね。

 ……それにしても今日のカレー、ちょっと辛めだね。お水くれる?」


 私はあらかじめ用意しておいた水を渡し、それを君は一息に飲んだ。


「たまにはこういうカレーもいいね。失恋カレーってことで、次も頑張るぞー! 

 ……あれ、なんか……眠く、なっ…………て……」


 君は最後まで言い終わらないうちに、食卓に突っ伏した。カレーは最後まで食べてくれたみたいで嬉しいな。

 特製水も、ちゃんと効いたようでよかった。


 今日から君と私は、ずっと一緒に暮らすんだ。もう男に惑わされずに済むよ。私の料理でたくさん、たくさん、幸せにしてあげるからね。


 君は私の大事な大事ながねだから、君のために部屋も用意したんだ。そこでゆっくりと、おやすみ。

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私のめがね 鬼灯 かれん @Gerbera09

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