さっき怪しいじいさんから「女子の服が透けて見えるめがね」ってのをもらったんだけど!

奇蹟あい

むかーしむかしあるところに、膝まで伸びた白いあごひげを蓄えたおじいさんがいました

「おい、カズ! ちょっとこれ、見てみろって」


「めがね? アツって視力1.5じゃなかったか?」


「違うって。これは近視用のめがねじゃないんだって。ちょっと耳を貸せ!」


 わたしの後ろの席で、男子2人が内緒話をし始める。

 まあ、いつもの光景だ……。


 めがねを持ってきたほうが吉田アツシ。もう1人が佐々木カズヤ。

 2人ともサッカー部所属で、1年の時からレギュラーで活躍しているらしい。先輩たちからもかわいがられていて、いわゆる陽キャってやつ? 普通にしていればわりとモテそうな容姿なのに、究極的にバカすぎて……わたし? ぜんぜん。どっちにもまったく興味ないですけど。毎日毎日2人でつるんでてうるさいなーってだけ。早く席替えしてほしい……。


「えっ、『女子の服が透けて見えるめがね』⁉」


「バカッ! 声がでかいんだよ! 誰かに聞かれたらどうすんだ!」


 余裕で聞こえてるから。

 なんなら「むかーしむかしあるところに」のくだりから全部聞こえてるから。キミたちは声がでかい。内緒話に向いてなさすぎだよ。


 えーっと、なんだったっけ?

 今朝、アツシが学校の前の公園でリフティングの自主練をしていたら、膝まで伸びた白いあごひげのおじいさんがやってきて、「お前は実に見所がある。この『女子の服が透けて見えるめがね』をやろう」と言って、その怪しげなめがねを手渡してきたってところまで全部聞こえてたからね。

 そんなもの受け取るんじゃない。あとで高額請求されても知らないからね。


「このめがねの弦のところに100円玉を入れると、10秒間服が透けるんだってよ!」


 アツシが立ち上がり、興奮気味に話している。

 なんかもうさ、キミたち内緒話する気ないでしょ。クラス中から視線集まってるからね。ほら、女子たちからの冷え切った視線に気づかないの? だからモテないんだよ? まあ? わたしは別にみんなほど「今すぐ死ねばいいのに」とは思ってないよ? 男子なんてどうせそんなもんだって知ってるし。隙あらばパンツ覗こうとしてくるじゃんね。タンスには鍵つけたからね! チビのくせに急に色気づきやがって!


「10秒100円⁉ それは安いな!」


「お、じゃあ100円貸してくれよ! オレ、もう今月小遣いなくてさ……」


「俺ももうないわ……」


 いやいや、貧乏すぎるでしょ!

 小遣い支給日はおとといだったよね。1000円もらって、まだ2日しか経ってないんですけど? 何に使ったのさ。ああ……練習後にパン買ってたか。そりゃ、部活の後はお腹すくだろうけど。……夕飯の量を増やしてあげるとしますか。


「なあ、ナミ。100円貸し――」


「やだ」


 アツシ、急に話しかけてくんな。あと教室では下の名前で呼ぶな! わたしたちが幼馴染みだってバレるでしょ!

 まったく。なんでこんなろくでもないヤツと幼馴染みなんだろ……。もっと背が高くて勉強ができて、将来東大に入るような知的な人が良かったなー。中二になってもわたしより背が低い男子なんて小人族かよ……。サッカーのポジションもサイドバック? フォワードじゃないならサッカーやる意味ないじゃん。いつ見に行っても点取らないし、パスばっかりしてるし、地味ったらないんだから。


「夕飯の時に返すから100円――」


「やだ」


 だから話しかけてくんなって言ってるでしょ! 夕飯とか言うな! お互いの両親の帰りが遅いからって、毎日2人で夕飯食べてるのがバレるでしょうが!


「くそ~。100円さえあれば女子の裸が見れるのに!」


「おい……吉田、佐々木……そんなに女子の裸が見たいのか。そうかそうか。ところでお前ら……今が何の時間かわかってるか?」


 あーあ。とうとうアケミ先生に見つかっちゃったね。めっちゃキレてるー。ご愁傷さま。


「おっす。神聖なホームルームの時間でありますっ!」


「なあアケミちゃん、悪いんだけど、ちょっと100円貸してくれない?」


 アツシ! バカもそこまで行くと、逆に尊敬……はしないけど、それはさすがに無謀だよっ!


「おお、吉田。良い度胸だな。……いいぞ。100円な。貸してやるからちょっとこっちこい」


「やったぜ! アケミちゃんサンキュ~!」


 意気揚々とスキップしながら教壇のほうへ向かうアツシ。

 アケミ先生がゆっくりとした動作で財布から100円玉を取り出して、アツシに見せつける。


「受け取れバカモノ!」


 アケミ先生が腰をかがめたかと思ったその瞬間、ありえない速度で腕が回転。アンダースローで100円玉を放り投げた。


「あふぁんっ!」


 アツシはおかしな断末魔を上げ、教室の後方付近まで吹き飛んでいく。遅れて、音速を超えた衝撃波が教室内を駆け抜けていった。


 さすがソフトボールの元大学選抜優勝ピッチャー。100円玉でも人って死ぬんですねー。


 じゃ、机に置きっぱなしになっているこの怪しげなめがねは預からせてもらいますね、と。


 女子の服が透けて見えるめがね、ねぇ。


 まったく、こんなのを使ってまで誰の裸が見たかったのかな……サキちゃん? ヒメちゃん? それとも……よし、今夜はとことん尋問だ!



 ハッピーエンド?

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さっき怪しいじいさんから「女子の服が透けて見えるめがね」ってのをもらったんだけど! 奇蹟あい @kobo027

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