クイーン・アンヌの聖剣

Ito Masafumi

序章/未知なる世界への契機

〈1〉

―私の人生に友達は必要ない。べつに人見知りってわけではないけれど、友情というものは私にとって正直疲れる。精神的にも、肉体的にも。だから私は独りでいい。心置きなく好きなことを、好きなときに、好きなだけできる。まさに自由だ。寂しいとか、虚しいなんて思ったことは一度もない。他人がなんと言おうが気にしない。私は孤独を楽しんでいる。この先もそうありたいと願っているくらいだ。


 東京都にある一軒家。十八歳の少女、小鳥遊楓たかなしかえでは自分の部屋のベッドに寝そべりながら、目を閉じてその思いを改めて確認していた。一階から父が自分を呼ぶ大きな声がする。目を開けてベッドから降りると二階の部屋を出た。楓は首元まで伸びた黒いストレートボブの髪型に、幼さが残る可憐な顔をしている。階段に差し掛かると、下で父の良一りょういちが待っていた。

「なに?」

部屋着姿の楓は、階段を下りながら良一に声をかけた。

「お父さん、ご飯作らなくちゃいけないから、お母さんの遺品まとめといてくれる?あと小物ばかりだし、すぐに済むと思うんだ」

楓の母、詩子うたこは一週間前に亡くなっている。重い病による死だった。

「わかった」

「よろしくー」

答えた楓に背を向けて、良一はスタスタと台所へ向かった。


 楓は和室で詩子の遺品を整理していた。もう少しで終わりというところで、楓は木製の細長いケースを見つけた。開けてみると、チェーンタイプのブレスレットが入っていた。

「うわっ、高そう・・。これブランド物かな?」

そのブレスレットを手に取った楓がまじまじと見る。中央に装飾された赤い宝石と銀の細いチェーンが輝き、煌いている。楓の顔が自然と笑顔になった。デザインに目を惹かれ、すっかり気に入ってしまった様子でいた。妙な気持ちが湧いた楓は左右を見回して辺りを窺うと、この世にいない母に謝った。

「ごめん!お母さん」

楓はブレスレットを服のポケットに入れた。


 その夜、楓は夢を見た。おぼろげにかすむ男女の顔が、自分に微笑みを向けているようだった。父や母でないのはわかる。では誰だろう。そう思っているうちに、ふたりの笑顔は瞬時に過ぎ去り、消えていく。これは、今まで体験した出来事や過去の記憶ではない不思議な光景だった。だけどもこれは夢だ。多少訳のわからないものを見るときだってある。楓は睡眠中の無意識状態のまま、そう脳裏をかすめ、忘却していくのだった。

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