イケメンマッチョと眼鏡の真面目くん

香 祐馬

第1話

僕は、メガネ。

メガネは、目にかけた眼鏡が印象的な僕につけられたあだ名だ。

遠視だから、メガネをかけると目がババーンと大きく見えて、顔のバランスが悪くなるから余計印象に残るんだろう。

本当の名前は、本田祐樹。

でも、みんなあだ名で呼ぶから、僕の本当の名前って知ってるのかな?


僕は、目立つような性格はしてない。

陰キャ?って言われるような存在なんだろうな。

ショートタイムの休み時間は、文庫本を読むのが好きなんだ。

友達は、多くはないけどいるよ。

お昼を一緒に食べて、カードゲームでバトルするんだ。


今、目の前で、バトルしてるのは、背が高くてマッチョな透くん。

背格好は、陽キャ?なんだけど、前髪めっちゃ長いから、陰気な雰囲気が勝っている。残念と言われている友達。


でも、僕は知ってる。

透くんは、学校から出ると陽キャに変身することを。


僕の家の近くのバスケットコートで3on3をしているんだ。

仲間の子は、みんな派手で笑顔が明るいパリピ?みたいな人たち。大人の人もいて、そこだけ異次元のような空間。

透くんも、この時は、前髪を上げていてかっこいい顔を晒して、弾けるような笑顔でプレイしてるんだ。


きっと陰気なふりしているのは、何か事情があるんだろう。だから、気づいてないふりをしてあげてるんだ。




「メガネ、おはよっ。」

「おはよう。透くん。」


カバンを机に置くと、振り返って透くんが挨拶してくれた。ニカっと見える白い歯が、陰キャっぽくない。

しかし、今日も安定の前髪で、ご尊顔を隠している。


透くんは、「昨日のにゃこタルの配信、面白かったよな!」って、続け様に会話を始める。

僕は、自分から話題を振るような人間じゃないから、非常に助かる。

話しかけられれば、話を広げて会話ができるが自分から話題をふるのが苦手なんだ。

今も、HRが始まるまで、透くんとはにかみながら喋ることが成功した。

普段陽キャな透くんと、こんな風に会話できるのが、なんだかくすぐったくて、すごく嬉しい。





俺の名前は、西尾透。

身長が185センチある、筋肉マシマシ男子だ。

親父が、プロバスケットプレイヤーだった影響で、俺もずっとバスケットをしていた。

中3の全国大会で、全中準優勝を果たした。


肩書は、素晴らしいものだと思うだろうが、現実は違う。

全中決勝、20点差をつけて勝ちムード一色の第三クウォーターで悲劇が起きた。

俺の膝が、限界を迎えた。サポーターもテーピングもガチガチに固めて、騙し騙しプレイしていたが、もう無理だった。

鈍い音が、リバウンドした瞬間に響き、そのまま倒れた...。

膝が、びくびく痙攣し跳ね、痛みで全身から油汗が止まらなかった。

司令塔を失ったチームは、そのまま崩れて結果負けた。

俺のせいで負けたようなものだ。


チームのみんなから責められたら、まだ良かった。それどころか、哀れみの目を向けられ、俺のせいじゃないと励まされた。

みんなは、俺の怪我で負けたけど、それでも全力で戦って準優勝できたという結果に満足をしたようだが、俺は??

負けた結果を、仕方がなかったと思うことが到底出来ない俺は?

不完全燃焼の俺は?

負けの原因である俺の、モチベーションの置き所は?


バスケットをこのまま続けて行こうとは思えなかった。

膝の爆弾も抱えている...。

そして、俺は自暴自棄になって、坂を転げ落ちるかのように荒れた。


家に帰らず、夜の街を彷徨う。

ガタイがいいおかげで中坊にも見えない俺は、補導もされず彷徨った。

すると、あっけないほど素行の悪い連中とトントン拍子に仲良くなれた。

年齢は様々、成人を超えてる人間も大学生高校生もいた。中坊は流石に俺だけだったが、くだらない話をして馬鹿騒ぎをすることが、居心地が良かった。

周りは酒もタバコも嗜む連中だったが、どこかバスケを捨てられない俺は、どちらにも手をつけなかった。

成長を阻害するし、肺活量にも影響がでるかもしれなかったから。

そんな時、仲間の数人が気まぐれに悪事に手を染めた。

警察に追われながら、いつもの溜まり場に逃げ込んできたんだ。

シャレにならない事態に、全員が散り散りに逃げたが、ガタイのいい俺が逃げてる方向に刑事が2人追ってきた。


俺は、荒れてはいたが、悪事には加担してない。居場所を求めてここに居ただけだった。

流石に、警察の厄介になるのは親に申し訳が立たない。

まずい、まずいと、焦燥感で体が強張る。

持久力には自信があったが、固まった体が言うこと聞かない。

それでも、刑事を巻くことに成功して、ホッとした瞬間、膝がズキンと痛みが走った。

「やべっ...。」と、痙攣した足を引きずる。

今、刑事が来たら逃げれない。


そんな時、バタバタと数人が走ってくる音が後方から聞こえてきた。

耳を澄ますと、「どっちに行った!!」と声が聞こえる。まずい、刑事だ。

キョロキョロと周りを見渡し、隠れられるところを探すが、拓けていて無かった。

いよいよ、見つかると言う時になって、グイッと引っ張られた。

見ると、真面目そうな男子が、シーっと指を口につけていた。

道端にしゃがみ込む俺と真面目男子。

ささっと、赤本(高校名が書かれた過去問集)を出し、俺に鉛筆を握らせた。


タッチの差で、「ちょっと君!」と刑事が声をかけてきた。

真面目男子が目を見開き、警察手帳に白黒し

つつも「は、はいぃぃ..。」と返事をした。


刑事は、俺の姿を上から下まで見て、いぶかしげる。

「君...、今何してるの?」と、質問されるが、なんて答えたらいいのか口をぱくぱくする。

それはそうだろう、さっきまで追いかけていた男そっくりな俺なんだから、職務質問される。

ただ、目の前の真面目くんと問題集と鉛筆を持ってる場面を見ると、同一人物だと確定はできないから故の質問だ。


「あの、今彼に勉強を教えてたんです!」


すると、真面目くんがプルプル震えながらも、刑事に返事をした。

俺はただ見ていることしかできなかった。

同じ高校を目指す塾の友達で、わからない問題があったから呼び出されて今教えてると、必死に受け答えしている。

刑事は、多分、俺が逃げた奴だと目星をつけてはいるのだろうが、真面目くんの誠実さ溢れる雰囲気と声音に圧倒され、諦めて引き下がるようだ。


でも、最後に身分証の提示は求められた。

真面目くんは、ささっと塾の学生カードを出す。

この年で、身分証なんて持ち歩かない。

だが、それで名前が本田祐樹だと俺は知った。

俺の番になって、何かないかとポケットを探ったり、財布を探るが、身分証はなかった。

保険証や学生証を持ち歩く中学生なんていない。

困っていると、親に連絡を取ると言われて仕方なく親父の携帯を教えた。

多分、これはもうダメだな...と諦めていたのだが、予想に反して親父は話を合わせた。

『友達の祐樹くんが、息子さんに勉強を道で教えていたので声をかけた...』云々と刑事が説明する。

すると、人のいい口調で「そうなんですよ〜。祐樹くんいい子でしょ〜。」とか言ってる声が携帯から漏れ聞こえてきた。

俺は、勉強なんて全然しないバスケ馬鹿なのに、親父は話を合わせてくれた。


そうなると、刑事も諦めたようで、解放された。

ただ、中学生がウロウロしていい時間じゃないからすぐに帰るようにさとされた。


「はーい。」と祐樹が可愛く返事をして、去っていく刑事。

ホッと息を吐いた。

すると、祐樹も緊張していた息を吐いた。


「はぁぁぁ、ドキドキしたぁ。」


心臓を抑えるように体を抱きしめる。

そんな祐樹を見て、俺は「助かった、ありがとう」と心から感謝をした。


「はは...まさか、警察が追ってきてるとは思わなかった。君を見た時、あまりに焦ってるから悪い人に絡まれてるのかと思ったんだけど...。バタバタ足音と声もしてたからね。

そしたら、警察なんだもん。


もしかして、本当は君悪いことしたの??」


「違うっ!俺はしてない!」


慌てて、透は否定する。

巻き込まれただけだと説明して、気づけばバスケットの試合で怪我をして、不安定になってる心まで目の前の祐樹に曝け出していた。


黙って祐樹は話を聞いていたが、やがて口を開いて透に問うた。


「ねぇ、バスケットボール選手に絶対なりたかったの?」


その問いかけてくる顔は、きょとんとしていて、透を同情しているような雰囲気はかけらも無かった。


透は、初めてのことに息を呑んだ。

腫れ物に触るように、話題をあえて逸らしたり、哀れんだ目で薄っぺらな「大丈夫だよ」って言葉しか声をかけられてこなかった。

真っ直ぐに、透に何かを聞いてくる人物は皆無だった。


「いや、親父がプロだから、俺もそうなれたらいいな...って思ってたくらいで、絶対では無かったかな。」


「そっか、バスケットを頑張ってる延長線上で、プロになれたらいいなって程度だったんだね。」


祐樹の言うことは、的を得ている。

透は、コクンと頷いて同意した。


「じゃあ、まだ大丈夫!」


ニコッと笑って、祐樹が言う。

何が大丈夫なのか?今まで言われた大丈夫と言い方も意味合いも違うのはわかるが、何がだ?


「思わず非行に走っちゃったみたいだから、絶望していたのかと思ったけど、君はそうじゃないよね?君は、まだ僕と同じ中3だよ?これからなんでも選択肢はあるよ。

バスケットが好き。大いに結構じゃないかっ!

膝が完全に壊れるまでやってみたら?まだ動くんでしょ?車椅子バスケってのもあるし?

激しい練習に耐えられなくなっちゃったみたいだけど、少しの間ならボールを追いかけられるんだから続けなよ。

僕の家の近くに、ストリートバスケができる場所があってね、1時間くらいプレイしたら帰っていく陽キャ?って言うのかな、そんな人たちいっぱいいるよ。

年齢層も様々だし。こないだは、小学生も混じってたけど、大人の人たちと楽しそうだった。」


終始ニコニコと話す祐樹に、透は目から鱗が落ちたかのようにストンっとモヤがはれた。


そうか...、別にいいのか。バスケが好きで。


「それにさ、大人になってもバスケットをマジでやってる人間は、君の親父さん含めて一握りだよ。

そこに入れなかったからと言ってなんなのさ。落ちこぼれ?そんなわけないじゃん。

君は、今現在、怪我してても普通にバスケットやってる同学年より遥かに技量があるんだよ。全中準優勝、すごいすごい!

そこに至るまでの君の努力を誇るならまだしも、君の努力を自分で否定するなんて、君にもチームにも親父さんにも、大きく言えば全国の中学生プレイヤーに失礼だね。

生きてれば、そんなこといっぱいあると思うよ?僕も中坊だから推測だけどね!」


確かに、振り返ると身体を毎日いじめ抜いてプレイしていた。それは、生半可なことじゃ無かった。

そうか...、誇っていいのか。


「ふふ、なんか角が取れたね。

最初の君は、眉間に皺はよってるし、肩肘張ってるし、心配しちゃったけど。大丈夫そうだね!」


よいしょっと、祐樹は膝を伸ばして立ち上がった。


「もう、非行に走っちゃダメだよ。君の今までの努力が勿体無い!」


ズビシッと、指を突きつけ透は、プンスカ怒った。

初対面の人間に、偉そうに説教をする目の前の真面目くん。改めて考えると、アンバランスな面白さで笑みが溢れた。


「ははっ。勿体無いかっ!そうだな、勿体無いよな。なんかもうありがとな、祐樹?

祐樹で合ってるよな、お前の名前?」


いきなり名前で呼ばれて、目を見開き驚いたが、

「そ、そう。僕の名前は、祐樹だよ。えっと、君は...」


「透。西尾透だ。」


食い気味に透が、自分の名前を祐樹に伝えた。

なんとなく自分の名前を、目の前の真面目くんに覚えていてほしかったから、しっかりと目を見て念を込めた。


そして、二人はそこで別れたわけだったが、透は自分の気持ちを救ってくれた祐樹を忘れなかった。

これから何を目指して生きていこうか考えた時、それを見つけるのは祐樹の側なら居心地が良さそうだとおもえた。


赤本の表紙に書かれた高校名は、覚えていた。そこに入れば再び会えるんじゃないかと思い、透は受験を決めた。

だいぶ脳筋だった自覚もあり、学力が足りなかったが、バスケットの時間全てを学業に充て、なんとかその高校に入ることができた。


そして、もう一度祐樹に出会ったのだ。

しかし、その時の祐樹は、あの時と違い 

オドオドしていた。

入学式前の教室で、声が大きくて明るそうな集団から逃げるような反応をしていたのだ。

咄嗟に、横にわけていた前髪を透は下ろした。

それが、正解だと迷うことなく行動できた自分を褒めたい。

ただでさえ、図体がでかいマッチョなんて威圧マシマシだ。


そこからは、涙ぐましい努力で少しずつ祐樹に近づいた。


自然に、挨拶ができるように。

ちょっと雑談できるように。

一緒に弁当を食べれるように。

祐樹が好んでるカードゲームを一緒にできるように。

高校で一番仲がいい友達と言えるように。


結果、今透は、祐樹の隣の位置をキープできていた。


あるとき、透は街を歩いていると、祐樹を見つけた。

最初は見間違えかと思った。

一緒にいる人物が、祐樹が苦手な部類の派手な奴だったから。

だが、何度見ても祐樹だ。


祐樹は、そいつに腕を掴まれ黙って後ろをついていってた。


透は、二人を尾けた。

何より祐樹にとって、一番仲がいい友達は俺だと自負している。

それなのに、自分が知らない交友関係にイラッとしたからだ。


そいつは、誰だ?

俺とも休日遊びに行かないのに、ソイツはいいのかよ。


コソコソと付けしばらくすると、彼らはある場所で止まった。


男が、「ほら!早く入れ!」と、ドンと背中を押して建物に祐樹を突っ込む。

「わかったよ...。入る..から、叩かないで...。」と祐樹がオドオドと男に言い返す声が聞こえた。


叩く??

もしかして祐樹は脅されてるのか?


そっと、二人が入った建物に続けて入っていく。5階建の商業ビルみたいで、お店が各階に一つずつテナントとして入ってるようだ。

どの店に行ったのか?エレベーターが止まってる階をみると、3階だった。

3階のテナントをみると、ピンクのかわいい装飾がされたカフェだ。

男二人でカフェ?と疑問に思いながら、透は向かう。


すると、そこにはメイドカフェがあった。


「いらっしゃいませ〜。ご主人様ぁ」


メイドさんに歓迎されて、透は席に座る。

キョロキョロと見渡すが、祐樹はいない。

指名制だと言うので、キャスト名簿をさらっと見る。

適当に選んで飲み物を飲んで帰ろうと思っていたが、あるページで止まる。

【男の娘キャスト】と、青いハートの台紙にポップな見出しが書いてあった。

その中の一人が気になった。トレードマークのメガネはないが、多分...祐樹だ。

写真でもオドオドした感じが出ている。

すかさず、透は男の娘メイドのめーちゃんを指名した。


「めーちゃん、ご指名だよ〜」と可愛い声で厨房の中に声をかける女の子。

そして、頼んだコーヒーを持ってメーちゃんがやってきた。


「お待たせしました..。ミルクを注がしていただきます。め、めーの、さ、搾乳って、か、掛け声で入れていくので、適当なところで、止めてください。で、では、...サクニュー...」


胸の乳首あたりでハートマークを両手で作って「搾乳」と、死んだような目で言う男の娘。


どっから見ても、背丈や顔の雰囲気や、声が祐樹である。

それなのに、ポーズ付きで搾乳と言う祐樹に、透は驚いた。

誰やねん!と思わず、心ん中でツッコんでしまった。

それにしても、祐樹が可愛い。

コンタクトをしているみたいだが、目が異常にデカく見えるほどの瓶底メガネを外した祐樹は美少女だった。

なぜ、こんなところでバイトをしてるのか気になる。


「メガっ.、メーちゃん。」


透は、ガッと、祐樹の手首を掴んだ。

その時いつも呼んでるようにメガネと言いそうになったが、寸でのところで、言い直した。

前髪を上げたままだったので、きっと祐樹には自分は認識されてないと、思ったからだ。


祐樹は「は、はいっ。」と返事をし、急に触られて動揺をした。

そこで、初めて顔を挙げてご主人様を確認した。


「え? とと、透くん!?」


予想に反して、祐樹に認識されて、透は素でおどろいた。

祐樹の方も、目の前に親友が座ってることに驚いていた。


こんなところに来る趣味があったの?とまず思い、次いで自分がフリフリしたメイド服を着ている姿を見られたことにヤバいと動揺した。


「え?わかるのか?」


そして、透も驚いた。前髪を上げて素顔見せたのは今が初めてなのに言い当てられて驚愕した。


「わかるよ。いつも喋ってるじゃん。」


「でも、俺。メガネの前で顔晒したことないだろう?」


すると、祐樹は透が想像してなかったことを喋り出した。


「えっと、去年の秋かな?会ってるよね?」


今度こそ、目玉が飛び出るんじゃないかと透は驚愕した。

俺にとっては、祐樹に会った出来事が奇跡のようなもので、決して忘れることができない出来事だったが、祐樹は違うはずだ。


「覚え...。「めーちゃん♡おしゃべりするなら、お金貰ってねぇ〜。」


急に、誰かが会話を被せてきた。

祐樹の肩にもたれながら、ニヤニヤしている男。


「圭介くん...。」


祐樹はヘニョっと瞬時に困った顔を晒す。


「メガネ。コイツなに?」


「中学の同級生...。」


「はーい。めーちゃんの同級生のケイちゃんでーす⭐︎」


ひらひらと手を振りながら軽薄そうに笑う。


「めーちゃん、今、俺の下僕期間なの。俺のためにいま、稼いでくれてるからぁ、喋るならコレ。メイドさんと10分フリータイム買ってねぇ。」


「は?下僕??」


「そうだよ〜。めーちゃんは、俺の大切なもの壊しちゃったから、1年間お詫び中なの。」


ね?めーちゃん♡と、祐樹に微笑む。


乾いた笑いを漏らしながら、祐樹は「そうだね...。」と答えた。


「じゃあ、透くん。僕、仕事戻るね。」


祐樹は、バックヤードの方に下がっていった。



翌日、登校してきた祐樹を捕まえた。


「メガネ。昨日のことなんだけど、脅されてるのか?」


「うん、そうなるのかな...。」


「なんで?メガネが俺のこと覚えてるって思ってなかったから、言わなかったけど。

メガネ、あの時明るかったよな?それこそ俺みたいなガタイのいい奴助けちゃうくらい。ちゃんと地に足つけて笑ってた。」


そうだよね、と祐樹は一言ぼそりと言うと、少しずつ何があったかを話してくれた。


発端は、床に落ちてたボールペンを踏んで折ってしまっただけ。

人がいい祐樹は、持ち主を探して謝ろうとした。

それが、昨日の男だった。

多分、というか十中八九嘘だが、祖父の形見だと言い出して、どうするんだと詰め寄られた。

毎日毎日絡まれてうんざりしていた時に、奴の友達が祐樹に手を出した。思いっきり尻餅をついて、床に転がった。

その時、眼鏡がズレた。あとは、テンプレのように、眼鏡がない祐樹が美少年だと発覚し、執着されたようだ。

卒業しても絡まれて、家にも押しかけられて、根負けして今に至る。


「なんだそれ...。お前、悪くないじゃん。働いた金も盗られて、それおかしいだろ。」


しかも、なんだよ。眼鏡がない姿を見てから異常な執着?

ふざけんなっ、コイツは眼鏡があっても可愛いんだ!!


透は、ムカムカとして憤ったが、ハッとした。可愛い?俺今可愛いって思ったか?


チラリと、しょんぼり肩を落とす祐樹を見る。


うん、やっぱり可愛いな。守ってやりたくなるな。

え?俺、友達としてじゃなくて、え??

そっち?いわゆる同性愛とか??


唖然として、固まる。


「どうしたの、透くん?」


そんな俺を心配して、顔を覗き込む祐樹。

くそっ、可愛いかよっ!


「かわっ...。」


「川?」


「いや、違う。なんでもねぇ。

とにかく!俺がなんとかしてやる!!

まかせろ、メガネ!」


それから、俺は無駄にデカい体を利用して、ヤツのダチを威嚇して、時にはバスケの強面のダチも連れていって、上から見下ろして怯えさせ証拠を集めていった。

やっぱり、形見云々は嘘だったし、眼鏡を取った祐樹に下心を持ったヤツが悪い。

聞けば、バイト代のほとんどをヤツに渡してるっていうし、金銭が絡むとなると恐喝罪だ。

これも、俺のバスケ仲間の一人が弁護士だったから、手伝ってもらった。

書類にチャチャっと、今までの経緯と日付金額を記載して、後は、正式に祐樹が依頼すれば罪に問えるまで揃えてくれた。

持つべきものは、さまざまな年齢職種のバスケ仲間だ。これだって、祐樹が縁だ。

祐樹の家の近くにストリートバスケットコートがあるって教えてくれたおかげだ。


俺の今の生活は、祐樹がいてこそ成り立っている。

ほんとに、ありがとう。

ありがとうという言葉じゃ足りないけど、感謝してる。それに、それを上回るほど愛しい。


俺は、準備が整ったと祐樹に伝えて、一緒にヤツに会いにいった。


「おい。もう、祐樹にまとわりつくのをやめろ。」


今まで、祐樹の前で呼び捨てたことはなかったが、ここでメガネと呼ぶのは迫力にかける。あえて、祐樹と呼ばしてもらった。

横を見ると、目を見開く祐樹。ほんのり目元が赤くて、可愛いかよっ!


「は?何言ってんだ。めーちゃんは、自主的に俺と一緒にいるんだ。」


「そんなわけないだろ!祐樹の顔が曇ってんの、わかんねぇ?元々、祐樹は自信が溢れて明るいヤツだ!お前が、形見云々嘘言って絡んだせいで、萎縮癖がついちまったんだ。」


「嘘じゃねぇよ!」


「嘘だろ。」


カチッと、携帯の録音アプリを起動する。

コイツの中学の時の友達の証言が流れ出す。


「な?お前、笑いながら祐樹こと馬鹿にしてたんだって?しかも、ボールペン自体お前のじゃないとか、クソだな。それに、祐樹の素顔見て、惚れたって?お前の友達が、言ってたぞ。執着がヤベェーって。」


「な!俺は、こんなヤツに惚れてねぇ!」


「そうかよ。まぁ、どっちでもいい。お前は、もう祐樹とは関われない。」


「は?どういうことだよ。」


用意していた書類を目の前にかざす。


「俺のダチの弁護士が作ってくれた。お前が、祐樹の金を巻き上げてくれてたから、恐喝罪が適用する。証拠?そんなもの法廷で証言してくれるヤツいっぱいいるぜ?

お前がここでもう2度と祐樹と関わらないって約束するなら、正式に依頼しないでいてやる。」


ヤツの顔がみるみると蒼白になる。


「な、な...。」


今頃、祐樹が好きだと後悔しても遅い。

お前は2度と祐樹とは会えない。


「いいか?もし、しつこく関わるなら今度はストーカーとして接近禁止令が出るからな。」


悔しそうに、地面を睨みつけるヤツに引導を突きつけ、俺は祐樹の肩をそっと支えて踵を返した。





「透くん。ありがとう。」


「いいよ。俺が、祐樹にあの時救ってもらったから、お返しだ。」


「でも、大変だったでしょう?僕の中学の時の友達探すのも大変だったと思う。」


「あー、まあな。それは、うん。それもちょっとズルした。」


バスケ仲間には警察関係者がいたので、職権濫用で、祐樹の学校の先生にコンタクトをとったのだ。これは、結構まずいみたいで、祐樹には内緒だ。


「そっか、きっとあそこのコートでバスケしている人たちにたくさん迷惑かけちゃったんだね。今度お礼に行かなくちゃな。」


「あー、知ってたか?」


「うん、よく透くんが前髪上げて楽しそうにプレイしてるの見かけたよ。

なんで、学校では前髪下ろしてるの?」


「俺さ、お前にもう一度会いたくて、がむしゃらに勉強してあの時見せてくれた参考書の学校受けたんだ。そしたら、同じクラスでめっちゃ嬉しくて。

廊下からお前がいるか確認してたら、そばにいたやかましいグループにオドオドしてたから...。

もしかして、威圧的なヤツ苦手なのかと思ってな。咄嗟に、前髪垂らして、大人しいヤツに擬態したんだ。」


「そっか、それ僕のためだったんだね。

ありがと、透くん。」


祐樹がふわりと笑う。

その笑顔は、去年初めて出会った時の笑顔に近い。


「僕、さっきの同級生グループに3学期ずっと虐められてて。ちょっと、声が大きかったり態度が大きい人が苦手になっちゃったんだ。でも、透くんみたいな陽キャ?な人が、僕と一緒にいてくれて、すごく嬉しかったんだ。

いつもありがとう。」


祐樹は、どんどん、笑顔が明るくなる。

しかし、すぐに自嘲気味な笑顔に変わる。


「ところで、透くん。

僕の名前知ってたんだね?僕、クラスの子にメガネって呼ばれてたから知らないかと思ってた。」


祐樹は、自分の名前を誰一人呼んでくれないことに、自信がなくなっていた。

存在自体が、眼鏡という物体に負けてるような気がして、情けない気持ちになっていた。


「そりゃ、知ってる!当たり前だろ。

去年出逢ったあと、お前の名前、何度も口の中で繰り返したし、勉強しながらノートの端に漢字で書いたこともある!!」


「えぇっ!!」


祐樹は、ボンっと顔が赤くなる。

そんな祐樹の顔を見て、透も何を言ったか理解して、赤くなった。


「そっか...、透くん。ありがとう。

僕を認識してくれて。」


「..ああ..。そりゃぁ、な...。

これからさ、メガネじゃなくて祐樹って呼んでいいか?心ん中ではいつもそう呼んでたんだ、おれ。」


「呼んでくれるの?

わぁ!嬉しい!僕、中学の時も苗字でしか呼ばれたことなくて、初めてだよ!!

ありがとう、透くんっ!!」


祐樹は、とうとう本来の笑顔に戻った。

弾けるような笑顔で、全く憂いがない。

透は、胸が熱くなった。


「ようやく、祐樹の本当の笑顔が見れた...。

やっぱり、お前、可愛いな。」


透は、幸せそうに笑う。

イケメンに破壊力ある笑顔に、透はドキマギした。


「あ、あう..。可愛..いくないよ。眼鏡なんか瓶底だよ?」


「確かに、眼鏡を外した祐樹は可愛かったな。メイドの格好してたら、クラスの女子の誰よりも可愛かった。でもな、俺が惚れたのは瓶底眼鏡をかけて、明るい祐樹だ。


お前は、可愛いよ。」


透は、祐樹を真っ直ぐ見つめ、念を押すように可愛いという。


「え?ほ、惚れた??」


祐樹は、さらっと言われた言葉に衝撃を受けた。


「あ、やべっ。思わず言っちまった。

あー、最近気づいたんだが、俺どうやら祐樹が好きみたいだ。男が好きってわけじゃなかったんだが、性的対象は女だったし。

でも、そんなものも凌駕するほど祐樹が好きだ。

これからも、俺の横で笑ってほしい。できればずっと。


ダメか?」


祐樹は、透の誠実な告白に胸が高鳴った。

愛しい気持ちがダイレクトに伝わった。

女の子よりも、自分を選んでくれた事実に悶える。


「あ、あのね。僕ね、透くんのこと、そういった目で見たことなかったの。でも、今、すごく嬉しい。優越感とかじゃないよ?

胸がポカポカして、ドキドキして本当に嬉しいんだ。

多分、...僕は、透くんのこと..そういった意味で好きになる..んじゃないかな。


だから、まずは一歩進んでみようと思う!

何よりも、試してみないとわからないから!!だから、これから僕とお付き合いしてください!」


祐樹は、必死に答えを伝えた。

ガシッと、透の両手をとって交際をお願いする。


「はは!!なんだよ、それ!

祐樹、男前すぎねぇ?俺が、告白したのに、付き合ってくれって。

ふはっ!もう最高ーっ!!

お前っ、本当に好きだ!!」


透は、ガバッと祐樹を抱きしめた。

ぎゅーぎゅーと力強く抱きしめて、祐樹を感じる。


祐樹も、すっぽり包まれながら負けじと背中に手を回して抱きしめ返した。




その後は、透が前髪を下げなくなったことで高校でイケメンっぷりを発揮して驚愕され、爆モテした。

しかし、いつも横には瓶底眼鏡がいたので、睨まれる生活がしばらく続いた。

当然、透は、睨んでくる女の子に、威嚇して祐樹を守った。

そのうち、透の性格が悪いと噂され始めたので、祐樹は睨まれても気にしてなかったが、マズイと思って、眼鏡を外した。

顔横の髪の毛もヘアピンで止めて、顔を晒して大幅にイメチェンした。

すると、今度は祐樹が爆モテして、透はさらに威嚇が激しくなった...。

そんな透の横には、弾けるような笑顔で透を諌める祐樹がいつもみられた。


そのうち、同性カップルだと認識されたが、徐々に受け入れられ、誰にも非難されなく、幸せな高校生活を二人は送ったのだった。

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イケメンマッチョと眼鏡の真面目くん 香 祐馬 @tsubametobu

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