おやすみなさい、マイグラシズ

石衣くもん

👓️♥️

 目が覚めて、ぼんやりした頭のまま、すぐさも手を伸ばしてあなたに触れる。少し、ひんやりとしている。

 寝惚け眼の視界は段々とクリアになるが、脳内はまだ覚醒しきらない。のそのそとリビングに移動して、食器棚からマグカップを取り出す。

 メディアの情報に踊らされて、最近、白湯を飲み始めた。白湯はあれらしい。電子レンジやケトルでは作れない代物で、鍋ややかんで沸騰させてから冷ますか、ウォーターサーバーでないと雑味がどうたらこうたらで、本物の白湯にならないそうだ。

 何となく、本物の白湯の方が良いような気がして、小さいミルクパンで一杯分のお湯を沸かす。何に良いのかはよくわかっていないのだが。

 クリアになってきていた視界が、湯気で白く遮られていく頃、漸く私の頭は働き出すのだ。



 外出時は、申し訳ないが浮気をする。外で一緒に過ごすのに、あなたは向いていないから。

 だって、ちょっとしたことで曇らされるし、傷つきやすい。その点、こちらはぴったりと私にくっついて、汚れて傷ついたとしてもすぐに捨てられる。軽薄で、代わりのストックも充分だ。

 あなたはそうはいかない。しっかり私に合うかどうか見極めて、調節して、代わりはなかなか見つからない。ずっと一緒だと重さに痛みを覚えて、疲れてくるくらい。

 それでも、私はあなたの方が、好き。

 だから、外に出る時の浮気は許して欲しい。帰ったら、すぐにあなたの方へ戻るから。



 眠る時は、あなたを壊してしまわないよう、少し距離を置くわけだが、それでも近くにはいてもらわないと。

 あなたがいないと、私は途方に暮れて、何もできなくなる。正常な視界を失って、何も見えなくなるのだから。

 あなたには、絶対に私の手の届くところにいて欲しい。こんな身儘な私を、どうか許して。

 滑らかな鼈甲の手触りを確認して、眠る前の儀式。はあ、と息を吹きかけてマイクロファイバークロスでそっと拭いてから、定位置へ。

 おやすみなさい、マイグラシズ。

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おやすみなさい、マイグラシズ 石衣くもん @sekikumon

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