仲の良い男女は、新しい眼鏡を買いに行く…だけのはずだった
アフロもどき
壊れた眼鏡を新しくしてから…
☆彡
「うわっ」
放課後、図書委員の仕事をしていた
そのまま尻餅をついてしまう。高い所に居た時の本は当然、空に投げられるように飛んでいくわけで、大好きな本が、今度は瑠璃にとって脅威に変貌し、本が当たってしまう。
そのうちのいくつかが、眼鏡を直撃していった。眼鏡が傷ついてしまい、そのまま本の下敷きとなってしまった。その中の眼鏡を探して掛けなおすのだが…
「…うそ…見えない…」
見えなくなった眼鏡。うるさい音で周りの人が寄ってくる。
「あの…翠夢さんを呼んでください…」
「おい。大丈夫か。申し訳ないが、見世物じゃないから周りの人は撤収してほしい。本棚の間に人が集まっていると動きにくい」
翠夢がたどり着いた。周りに人がいるからか、少し粗暴な態度で接する。当然、眼鏡がない瑠璃を見るのだが、その時に見とれる…のではなく、異変を察知した。本の整理は周りの人がしてくれたらしい。
「俺についてきてくれるか?2人で話したい」
ここで話をするのも何なので、もっと奥に移動する。もうすでに周りの人はいなくなっていた。こっそり手を繋ぐことで、何とか瑠璃は歩いて移動できた。
「眼鏡が壊れたんだな。俺はどうすればいい?」
「新しい眼鏡、買ってきてくれま…2人で買ってくれませんか?」
「そうだな…一応暇だし買うか。俺と瑠璃で、瑠璃が似合う眼鏡を買う。それでいいか?」
「はい。それで…大丈夫…」
瑠璃は文字通り真っ赤になりつつも、何とか応答できた。
周りの安全のことを考えると、手を繋いで行動し続けることになる。好きな人通しでも、ずっと繋ぐのは…瑠璃は眼鏡がない場合でも全く見えないわけではないが、ぼやけが割と激しく、手を繋いだ方が安全で行きやすいのは明らかだった。
☆彡
翠夢と瑠璃は、校門の外に出た。翠夢は、下手に動けなくなっているが、それも瑠璃の視力が下がっているためである。あまり人が多い所には行かないようにしていた。好きなことを他の人に見せたくなかったから。
翠夢が基本的に先に行く。目的地は眼鏡屋であり、とりあえず一番近い場所にすることで話が固まっていた。
瑠璃をしっかり誘導しないといけない。単に手を繋ぐだけでもいいのだが、あまりこの姿を見せたくはないのだ。一直線に行けば問題ない場合は、瑠璃が付いていく形で進めていく。
当然、翠夢は瑠璃をしっかり見る必要がある。
翠夢は思っていたのだが、眼鏡がない瑠璃は大幅に印象が変わる。容姿だけならどこにでもいる平均的な女の子である。眼鏡が非常に似合うのだが、それはフレームで全体的なバランスが整うからだと思っていた。
何も知らなければ瑠璃は他の人から告白される事なぞないだろう。世間的に眼鏡っ娘はあまり人気がないとされている。外したら美人に!なんてこともなく、普通の女の子だ。
つまり、この子の魅力は眼鏡があろうがなかろうが、気が付こうとしないと気が付かないし、気が付いているのは実質翠夢と本人の2人だけ。瑠璃も、翠夢に言われるまで気が付いていなかった。
瑠璃自身、男性を苦手としているのもあり、恋人としては俺だけが知っていて俺だけが独占できる。当然無理なことはさせられないが、それはそれで純情恋愛になる。
☆彡
「…たどり着いたようだな。ここか」
「それじゃ、入りましょう。…うわっ!」
瑠璃はちゃんと見ていなかった…いや、見えていなかったためか、自動ドアにぶつかってしまった。はたから見ればドジっ子にしか見えないが、翠夢は素早く後ろから支えた。
「ありがとうございます…」
「焦らないでいい。眼鏡が似合うと言われて、すぐに眼鏡っ娘になりたいのはわかるが、怪我したら良くないからな。慎重に動いてくれ」
「…なんでそんなに良くしてくれるんですか…?」
「それは後で話そう」
やっと眼鏡を買える。ここでじっくり選びたいが、視力検査だ。
その後、視力に合う眼鏡を選んでいく。一つ一つ。
眼鏡にはいろいろなフレームがある。色、形、材質などなど。これらで合うと考えられるものを買えばいいのだが、何故か眼鏡は掛けない方がいいとか言い出す人がいる。
店員さんによれば、合う眼鏡がないというが、それらはファッションと同じようなものらしい。ファッションセンスの良い美人と言われている人ですら、この言い訳を利用したがるが、それは間違っているという。
もちろん、瑠璃はこの話が分かっており、だからこそ眼鏡を大事に使っていた。眼鏡姿が似合うと彼氏に言われてから、その気持ちは強くなった。今回壊れたのはうっかりであるが、翠夢はそれを責めなかった。
「これはどうですか?」
瑠璃は、ややピンク色で、メタルフレームの眼鏡を掛けてみた。色合いのせいか、前よりも似合って見える。前は銀色だった。
「ああ、似合っている。前よりも似合っている気がする。眼鏡は1つだけでいいか?」
「お金に余裕があるので、これだけじゃなくていくつか買えると思います。予備も欲しいので」
「それなら買っておくといい」
そんな話をしている時、店員さんが翠夢に話しかけてきた。
「眼鏡、掛けてみません?お相手さんが掛けているので、あなたも少し…」
「俺は視力が高いから、別になくてもいいんだ。一応1.5ある」
「そういうのではなく、イメチェンとして。彼女さんとは別の」
店員に誘われ、翠夢も眼鏡を買うことになった。別に視力が落ちていなくても使える眼鏡があったのだ。さすがにそういう知識は翠夢にはなかったので、店員さんに選んでもらう形となった。
「…これ、似合っているか?」
「すごい似合って…るよ?眼鏡カップルとなるのもいいかも」
「まあ、違いを作りたいときなら悪くないな」
悪くない買い物だが、さらに新しい眼鏡を買うこととなった。
その眼鏡は、いわゆるキス眼鏡だった。カップルにお勧めというもの。大昔、かつては高額だったようだが、今は問題なく作れるらしい。全然売れていなかったらしく、眼鏡を2人で買ってくれた人にプレゼントという形になったようだ。
☆彡
そんなこんなで、2人は有意義な買い物を済ませた。学園へ戻る。
眼鏡を取り戻した瑠璃は、眼鏡がなかった時のような空気はすでになかった。わかる人だけが感じられる良さを持っている。
もう夕暮れであり、そこまで時間はない。それでも、瑠璃は一旦図書委員としての仕事をすることにした。一度転んでしまった所へ、今度は2人で行く。残っていた作業を終わらせるために。
本棚に本は収まっていたが、並びがおかしくなっていた。これらを戻さなければならない。図書館となれば、普通に戻すだけではなく、正しい順番にしなければならないだろう。
正しい順番は、本の背表紙についているものと、名前を参照していく。瑠璃はもちろん、翠夢も整理をしたことはあった。そのためか、残っていた作業はいつもの1.5倍の速度で終わらせることが出来た。
☆彡
終わった後の図書館の奥の奥では…
「あの、ありがとうございます。ここまでしてくれなくても…」
「俺がやりたかったから、気にしないでくれ」
「それでも、眼鏡を買いに行ってくれましたし、何かお礼を…」
瑠璃は、お礼を思いついた。そのお礼は…
好きな人、翠夢に抱き着くことだった。慣れていない動きで、恐る恐る後ろに手を回していく。
「…はぁ…あっ…」
「そうか…周りに人の気配はないな」
翠夢側も感づいたため、背中に手を回す。見つかってはならない。
それを見て、瑠璃は、目を閉じて、瑞々しい唇を、好きな人の口に…
☆彡
カチャッ
「んあんっ!?」
「!?」
待っていた翠夢の眼鏡と、しようとしていた瑠璃の眼鏡がぶつかり、意を決した瑠璃の行動は失敗した。
「ごめんなさい…って、翠夢さんも眼鏡をずっと掛けていたんですね」
「…そうだった。忘れていたな。俺に合っているのかもしれないな」
翠夢が買った眼鏡は、本人がずっとしていた。図書館で整理している時も気が付かないくらい、眼鏡をしていることを忘れていた。そんなことを考えていたのだが、新しいことに気が付いた。
「キス眼鏡、使ってみないか?」
「あ…それは…いいですよ?」
「一度もらったものだ。試してみるのもいい気がする。くっついてから掛ける形になるが、それでもいいか?」
「ちょっと怖いですが、やってみるのも…」
☆彡
そして、2人はいったん眼鏡を外し、ハグをした。そして、口と口が寸前になるまで顔を近づけていったのだが…
ちゅっ!
瑠璃は一瞬の時間だけ、翠夢の唇を奪った。今までのことを考えると、珍しい行動だった。
「眼鏡なしでのキスは今回くらいしかできませんからね。急にされた時の顔、かわいかったですよ?」
「…余裕のフリをしているな。耳まで赤くなってる。したいなら、そう言ってくれればいいのに」
気を取り直し、キス眼鏡を掛けた。
翠夢は心拍数が上がっている程度で待っている。瑠璃からしてくるものだと思っていたのだが、その瑠璃は…
「大丈夫か?怖いか?」
「…うん。急にしちゃったのが今になって…すごい恥ずかしい」
「わかった。俺からするから、準備が出来たら、目を閉じて」
瑠璃は目を閉じ、準備が出来た。翠夢は、顔を近づけていき、瑠璃の瑞々しい唇に、キスをした。
すると、瑠璃は少し力を強めた。あまりに柔らかい唇が当たり、2人は心拍数が高まる。唇はマシュマロのように柔らかく、甘い。
口もそうだが、眼鏡も一体化している。このまま、さらに進めたいが、早まる気持ちを抑える。好きな人同士で唇の感覚を全身で味わう。
数十秒後…
「んんっ…」
瑠璃が鼻から苦しそうな声を出したところで、翠夢は口を離す。同時にキス眼鏡をもって離した。眼鏡は曇っていた。
「ん…もう…好き」
「俺もだ。不安や怖い要素があると思うが、それも超えていきたい。話は変わるが、このキス眼鏡はどうだった?」
「キス眼鏡は、ちょっと…デザインは良いとしても、体勢がかなり限定されてしまうのがつらいですね。それでも価値はあると思います」
「まあ、条件は満たせたって感じか」
キス眼鏡は一応使える。そんな価値を見つけ、さらに2人の絆は深まったと言える。
遅くならないうちに、2人は帰宅した。新しい眼鏡と、個性的な眼鏡と、さらに強くなった絆を持って。
☆彡
仲の良い男女は、新しい眼鏡を買いに行く…だけのはずだった アフロもどき @ahuromodoki
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