イロメガネ【KAC20248】
灰月 薫
KAC20248
イロメガネ。
そう言ったってしょうがないじゃない。
私だって好きで掛けてるわけじゃないんだし。
私のメガネは虹色だ。
いやいや、そういうサングラスみたいな感じじゃなくて——ブルーライトカットメガネって知ってる?
スマホとかパソコンからの光を上手い具合にカットしてくれるやつ。
実際に見てみたら分かるんだけどさ、アレって光の反射が変な感じなのさ。
カメムシの羽みたいな虹色に反射するのさ。
あ、例えがキモいか。
実際似たようなもんだからさ——ごめんね。
おまけに私のメガネは分厚い。
メガネ屋に言えば薄いレンズにもしてもらえるらしいけれど、薄くしたところで一般的に見たら「厚い」のだから無駄だろうと思ってそのままにしている。
そういうわけで、私のメガネはどこから見てもキラキラしている。
だから、イロメガネ。
初めの頃は揶揄の意図が滲んでいたのだろうが、今じゃ善意も悪意もない唯の愛称だ。
小学校の頃から今に至るまで、ずっとこの渾名。
今じゃイロメガネと呼ばれれば反射的に返事も出来てしまう。
メガネをしている人ならきっと「あるある」にあたるのだろうが、メガネをしている人間は、メガネが本体だとほざかれる事がしばしばある。
それは私だって例外でなく——寧ろ、他のメガネ人より多いくらいだ。
そう言われる時、決まって私はメガネを取って見せる。
そうして言ってやるのだ。
「ほらほら、私の本体だぞ」
友人から返ってくる心地の良い笑い。
やけにむず痒くなって、私は目を細める。
むず痒いのは友人でもなく、趣味の悪い冗談でもなく。
——その白黒の世界。
空の灰色も、制服の黒も、肌の白も。
イロメガネを通さない白黒の世界は、あまりにも無機質で。
色を許さない世界は——正しいようで、気持ち悪い。
「本体だからね」
冗談めかして私はイロメガネを掛ける。
メガネを通さないと得られない色彩が、私の全てを構成している。
その空気の中でしか生きられないから。
私は今日も、イロメガネ。
イロメガネ【KAC20248】 灰月 薫 @haidukikaoru
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