第145話 大注目のバトル

 鬼姫控え室にて


「莉菜、お疲れ~」


「勝利おめでとう、莉菜!」


「ありがとう。これで2勝目!…郁斗はまだ?」


「ああまだ来てない。だから第4試合は俺が出る」


 薫先輩が出る。リベリオンの残るメンバーはギルドマスターのロザリアさんとサブマスターのルーカスくん。

 まだ郁斗が来ていない以上、もしリベリオンがロザリアさんじゃなくてルーカスくんを選出したらどうしよう。

 そう思い心配したりもしたけど、杞憂に終わった。

 第4試合、先にリベリオンがロザリアさんを選出したとこちらに通知が来た。

 この展開はかなりありがたい。

 ギリギリまで悩んでいるかのように思わせて、時間を稼いでからこっちは薫先輩を選出すればいい。


「薫くん、ちゃんと私の仇を取るんだよ!」


「それに関しては善処しますよ。俺だって戦うからには負けるつもりないし」


 今になって俺は改めて気づいた。

 薫先輩とロザリアさんのバトルがこの後、見られるんだ。

 常夏の白黒モノクロフェスでは見ることができなかった薫先輩の本気を。

 そして琴音先輩でも勝てなかったロザリアさんのバトルを。

 実際にモニター越しとはいえ、生で見られるんだ。

 なんか改めてそう考えるとすごいことだよな。





 リベリオン控え室にて


「ドンマイ、あれは仕方ない。少なくとも僕も勝てないかな。実際に第1試合で戦ってたらヤバかったよ」


「まだギルドバトルに負けた訳じゃない。バトルを終えた人は私みたいに応援だよ」


「あとは任せて、シャーロット」


「良いバトルだった」


 ウィリアム、ユリア、ロザリア、ルーカスの順にシャーロットにそれぞれ声を掛ける。

 中でもロザリアは悔しさを押し殺しているシャーロットを優しく抱きしめる。

 ロザリアの胸に顔をうずくめて涙を流すシャーロット。

 1勝1敗で迎えた第3試合。勝たなきゃいけなかった。

 自分が勝ってギルドバトルの勝利そのものにリーチをかける予定だった。

 どうしてもシャーロットの中でルーカスなら勝てたのではないかという考えが頭をよぎってしまう。


「最後の神技・レッドプリンセス連発を防ぐのは知らなきゃ無理。初見じゃ防げない。あれは私でもくらう」


 優しくシャーロットの頭をなで続け、一言だけロザリア自身が思っていたことを素直に告げる。


「次は私!勝つよ」


 シャーロットを慰めながらリベリオンの第4試合の選出が決定する。






「神技と神技が激しくぶつかり合った第3試合の余韻に浸る間もなく、第4試合の対戦カードが決定しました!!!勝利にリーチをかけている鬼姫からは遂にこの男が登場だ!白黒モノクロ学園、最強の男、生保内薫!!!それに対するのはもちろんこの人。リベリオンからはギルドマスター、ロザリア・ブラン!!!ギルドバトルが始まる前から大注目のバトルがこの後、第4試合で行われます!!」


「楽しみね。唯一のBランク同士のバトル。この為に薫くんは鬼姫に加入したと言っても過言じゃないだろうし」


「生保内さんの実力は未だに底が見えない状態です。トーナメントでは負け知らず!噂ではまだ本気じゃないとか!謎に包まれた生保内さんの真の実力が明らかになります!」


 時間となり、両プレイヤーがバトルステージへと入場する。

 大観衆が観ている中のバトル。

 この2人にとっては慣れたこと。いつもの光景。

 何一つ特別なことは無い。

 ただ、強いて挙げるなら後輩(琴音先輩も)の想いを背負ってそこに立っている。

 2人にとって何がなんでも負けられないバトルが始まろうとしている。

 そんな時に何やら話をしていた。


「薫、君とこうしてバトルできるのは嬉しいし、楽しみ。でも、何で鬼姫に加入したの?そこが不思議」


「?何で加入したか、か。…後輩に頼まれたからかな。先輩なら困ってる後輩がいたら手を差し伸べるだろ。あと先輩にも頼まれたってのはあるな」


「うん、そうだね。お互い負けられないね」


『第4試合 生保内薫VSロザリア・ブラン バトルSTART』


「働け、アルバス!」


「怒り狂え、ミザリー!」


 薫の1体目は悪魔のアルバス。

 本?がアルバスの正面に浮かんでおり、黒いローブを羽織っている。

 明らかに遠距離から攻撃することに特化しているように見える。


 それに対してロザリアの1体目は人類種のミザリー。

 武器は戦斧。盾などは一切装備していないところから防御よりも攻撃に重点を置いていると思われる。


「アルバス、神技・スロース!」


「ミザリー、神技・ラース!」


 薫とロザリア、注目の一戦が始まると同時になんと神技を発動!


「む、これは」


「アルバス、怠惰の囁き、怠惰な悪夢!」


「ならミザリー、怒りの化身、怒り朽ちるまで戦う!」


 開幕と同時に神技を使ったにも関わらず、第3試合のような激しい攻防は起こらなかった。

 寧ろ神技を使った点を除けば、バトルの始まりは穏やかとも言える。

 各スキルの効果から目を逸らせば。


 神技・スロースの効果でデバフや状態異常を付与されたミザリーは怠惰の囁きで一時的に更に防御力が大幅に低下し、そこに怠惰な悪夢が襲いかかる。

 これだけ距離が離れている中、ノータイムで当たった。

 つまり、怠惰な悪夢はナイトメアのような必中攻撃であると示している。


 そしてその直後、神技・ラースの効果でミザリーに付与されたデバフを大きく上回る効果のバフがミザリー自身に付与され、どんどんとステータスは上昇していく。

 しかもこれには恐らくデメリットが存在しない。

 推定でステータスが約3倍ほど上昇したであろう所で止まる。


 ミザリーはとにかく自己バフでステータスを強化し、戦うスタイル。

 デバフや状態異常が付与されていると通常よりも遥かにステータスが大幅強化される。

 その光景を見ても薫は至って冷静のまま。

 ステータスがどんなに上昇しても付与したデバフや状態異常が消えている訳じゃない。

 今のミザリーの推定HPは軽く1万を超えているだろうが、これはある意味想定の範囲内。


 怒りの化身は自身の攻撃力を更に2倍にし、怒り朽ちるまで戦うで相手にダメージを与えた時、与えたダメージ分HPを無限に回復するバフを自身に付与。


 開幕と同時に神技・ラースを使った時点でミザリーが人類種のモンスターでは無く、第二の最強種だとわかっていた。

 そしてアルバスもまたミザリーと同じカテゴリーの最強種の一角。


「アルバス、怠惰の祝福、怠惰への誘い!」


「ミザリー、怒りの破壊!」


 今度は祝福をあげることで自身の攻撃力を2倍にし、怠惰への誘いを放つ。

 しかもノータイムでミザリーに直撃したところからこの攻撃も必中効果を持っている。

 そして上限を超えてアルバスのHPは回復するが、一瞬にして距離を詰めたミザリーの怒りの破壊が直撃し、上限を超えて回復した分は直ぐに削られた。


「ミザリー、狂戦士化!」


「アルバス、怠惰の呪い!」


 狂戦士化は本来なら毎秒HPが1パーセント減少する代わりに全ステータスが2倍になるスキルだが、神技・ラースの効果でデメリットは消える。

 つまり、ノーリスクで全ステータス2倍。

 今のミザリーの推定ステータスは通常の約6倍ほど。


 それに対して怠惰の呪いは相手モンスターのスキルを任意で一つ封じ、封じたスキルを代わりに使うことができる。

 もちろん神技を封じるのは不可能。

 今回、封じたのは怒り朽ちるまで戦う。

 これでミザリーの回復手段は封じられた上にアルバスは怠惰への誘い以外の凶悪な回復手段を手に入れた。


「ミザリー、怒りの武舞!」


「アルバス、怠惰の祝福、怠惰の囁き、怠惰な悪夢!」


 推定だが、通常の6倍近くまで上昇しているステータスの前にアルバスの攻撃はあまり効いていないように思えるが、実際にはHPを1割ほど削っている。

 普通のモンスターなら2、3体くらいは倒せてもおかしくないのに、それをたったこれだけのダメージで抑えるミザリーは防御力が頭一つ…六つくらい抜きに出てるだけ。


 そしてアルバスの攻撃をもろともせずに真っ直ぐ突っ込み、斧を振り下ろす。

 遥か空中を飛んでいた筈のアルバスが気づいたら地面に叩き落とされていた。


――――――――――――

後書き失礼します。

今朝、サイドストーリー郁斗編を近況ノートに投稿しました。

下記リンクから読めます!

郁斗編第1話のみ通常公開で2話目以降はサポーター限定となります。


https://kakuyomu.jp/users/Yumaku00/news/16818093083636252291

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