第146話 アドバイス、ガン無視

(さすがにミザリーのステータスが高すぎる。これじゃあ神技でも削りきれない。もうちょい粘るか)


(ミザリー相手に対等に渡り合ってくる。さすが琴音の後輩。強いね。でも、これで終わり)


「ミザリー、神技・アンガーアックス!!」


「ここでかよ!?」


 ミザリーのステータスに神技の攻撃力が合わされば、アルバスは耐えられないだろう。

 かといってここで神技を使って対抗するとミザリーを倒す術を失ってしまう。

 一応、アルバスには神技を使わなくてもミザリーの神技・アンガーアックスを防ぐ手段が一つだけある。

 だが、あれをここで使えば、もう後が無い。

 バトルが長期戦になると思っている薫にとってこんな序盤では使いたくない一手。

 それでも負けたら意味が無い。そう判断し、あれを使う。


「アルバス、怠惰への誘い、怠惰の解放」


 掠れるような小さな声で指示を出す。それでもモンスターには通じる。

 ミザリーの神技・アンガーアックスでアルバスを攻撃する前に怠惰の解放の効果が発動する。


 怠惰の解放には二つの強力な効果がある。

 一つはこのバトル中に怠惰スキルで与えた攻撃をまとめてもう一度繰り出す。

 直前に怠惰への誘いを使ったのは少しでも威力を底上げする為。

 もう一つはデバフや状態異常以外のバフを含めたステータスに影響を及ぼす効果の全リセット。


 本来ならもっと怠惰スキルを使ってミザリーにそれなりのダメージを与えてから使いたかったが、贅沢が言える状況では無い。

 怠惰の解放により、自己強化バフなどが全てリセットされた状態で放たれた神技・アンガーアックスはアルバスを倒すには至らなかった。

 それどころか怠惰の解放で回復したHP分を削るので精一杯。

 まあ、あの出鱈目なバフが消えると神技でもそんなものだろう。

 それでもアルバスのHPが通常なら5体くらいは吹き飛んでいてもおかしくないが。


(神技を防がれた!?まだあんなスキルを隠していたのね)


「ふぅー」


 これで一安心といった感じで一息つく。

 想定よりも早く怠惰の解放を使ったけど、神技を防げたのは大きい。


「アルバス、神技・ワールドエンド!」


 バトルフィールドが世界の終焉へと誘われる。

 闇に抗うことができず、ミザリーは闇に飲み込まれる。

 神技を放った直後が最も隙としては大きい。

 そこを的確に突かれた形となったが、ロザリアにとって問題無い。

 ロザリアだって何かしら対抗策を用意している。


「ミザリー、怒りの再燃!」


 怒りの再燃により、再びミザリーには再び強力なバフが付与された。

 それもあってアルバスの神技をミザリーも耐えきる。

 これであの出鱈目なステータスが完全復活を遂げる。



「アルバス、怠惰の祝福、怠惰の囁き、怠惰な悪夢!」


 ミザリーのステータスが出鱈目に戻っても回復手段が無いことに変わりはない。

 コツコツと着実にダメージを与えていけば問題無いのだが、それはミザリーが許さない。

 その圧倒的なステータスからただの通常攻撃ですらエグいダメージを負う。

 一見するとアルバスが押しているように思えるけど、実際は少し違う。

 徐々に形勢はミザリーに傾きつつあるが、空を飛ぶアルバス相手に攻撃を当てるのは一苦労のようだ。

 逆にアルバスの方は必中攻撃で高みの見物をしている。


 何度目かの攻防の末に遂にミザリーがアルバスを捉えた。

 地面に再び叩き落とされたアルバスに対して遂に切り札を切る。


「ミザリー、憤怒の解放!」


 憤怒の解放は自身のステータスの高さに応じて威力が変わる。

 ステータスが高ければ高いほど強力な一撃となる。

 アルバスは怠惰の呪いで封じ、代わりに使えるようになった怒り朽ちるまで戦うの効果でHPだけはミザリーに匹敵しているが、防御力は素のまま。

 出鱈目な攻撃力から繰り出される出鱈目な威力のスキル。

 これを耐えられるモンスターはかなり限られる。

 少なくともアルバスは含まれないだろう。

 奮闘虚しくミザリーの攻撃がアルバスを捉える寸前に


「アルバス、怠惰な道連れ」


「!?待って、ミザリー!」


 一つのスキルが発動する。

 これ以上ないくらいに絶妙なタイミング。

 直ぐに気づいたロザリアがミザリーに待ったをかけるが、もう遅い。


『アルバス DOWN』


『ミザリー DOWN』


 世にも珍しいことが起きた。

 道連れやその系統のスキルは全てクソスキル認定されており、使い手などいない。

 一番大きな理由はタイミングと距離感がシビアすぎる。

 倒されるに至る攻撃を受ける1秒前に相手モンスターが1メートル以内にいる場合のみ発動可能。

 ほんのわずかコンマ数秒狂わせることで道連れ系のスキルは不発で終わる。

 それをこのタイミング、ここしかないという所で使った。

 これはロザリアとしても盲点だった。

 まさか第二の最強種の一角であるアルバスがそれを使うとは思いもしなかった。



(薫ってホントに琴音の後輩?琴音なら使いこなせるけど、絶対に道連れ系のスキルは取得させないと思ってた。だから薫も同じだと思ってた。うう、琴音の話を鵜呑みにし過ぎた…)





 ――――――――――――――――――――――

 鬼姫VSリベリオンのギルドバトルから1年ほど前



「ねえねえ、ロザリア聞いて!薫くんたらまた私にアドバイス求めて来たんだよ!」


「それで何て答えたの?」


「バトルで勝つには力で圧倒するべき!変に小細工を弄して負けたらカッコつかないし。だから道連れ系とか害悪系スキルは取得させない方が良いって話した」


「道連れ系は実用性皆無だけど、害悪系は確かに。あれは生理的に受け付けない。キモ過ぎて無理」


「うんうん、めっちゃわかる。害悪系スキルとか使ったら最後、女の子からは白い目で見られる覚悟はいるね」


「マジでそれ!でも、薫変わったね。数ヶ月前とか琴音、毎日のように私に電話してきて愚痴ってたし」


「そうなの!初対面で私のこと先輩なのに呼び捨てにしたんだよ!しかもタメ口!!許せないでしょ!」


「それがどうして仲良くなった?私、その辺詳しく教えてもらってない」


 ロザリアは興味津々といった感じで琴音を見つめている。

 それもその筈。4月になり、琴音が2年生になったタイミングでこれでもかと後輩がやっとできた話をされていたと思いきや、クソ生意気な後輩の愚痴を言うようになった。

 それが今では謎に信頼されているみたい。

 何があったのか気になって当然。

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