• 現代ファンタジー

サイドストーリー 郁斗編 第1話

「この!あ、くそ!ここだ!くっ、ああこのくそ、これでどうだ!ああーーーー負けた!くっそ!」

 乙
 ドンマイ
 いや、1人でキャラ2体同時操作でこの結果はすごいだろ!
 相手もかなり強かったな。
 まあ次の第8回バディ王決定戦でリベンジしようぜ!
 それにしても無名のバディがバディ王に輝くとはな。
 それな!鬼夜叉か、覚えておかないとな。
 それにしても片割れのアルマって子の|職業《ジョブ》って何だ?あのやたらと攻撃を防ぎまくるスキルとか気になる。
 あ、それ!なんか盗賊系統の特殊|職業《ジョブ》って聞いたことある!たしかトリックスターだった気が。
 へえ、盗賊系統にそんな激強|職業《ジョブ》があったのか!!
 いや、トリックスターはそんな強力じゃないぞ!あれはプレイングが化け物なだけだ。
 え?そうなの?
 ああ、予告状というスキルがあるんだが、相手がこれから使う攻撃スキルを先読みしコマンド入力する必要がある。それができてようやく効果を発揮し、相手の攻撃を無条件で防げる。おまえらできるか?
 ん?
 は?
 いやいやいや、無理!
 無理だな!
 人間にはできない。

「ははマジか!そんな|職業《ジョブ》あったのか!盗賊系統か、そりゃあ見落とすわけだ。来年こそはリベンジしないとな!そんじゃあ今日の配信はこの辺で終わります!ありがとうございました!」

 とある配信者は来年開催される第8回バディ王決定戦でのリベンジを誓い、その時に向けて猛特訓を行った。
 そして中学3年生の冬、遂にリベンジの時が来なかった。
 昨年、優勝しバディ王に輝いたコンビは何故か出場していなかった。
 そのコンビが出場していなくとも大会のレベルは高い。
 彼は残念ながらベスト4という結果に終わった。
 廃人ゲーマーが多く参戦している大会で中学3年生の男の子がこの結果を残すこと自体すごいことだが、彼は満足していなかった。
 鬼夜叉が出場していなかったから。


「はあ、ベスト4か。まあ仕方ないか。…冒頭でも告知したけど、今日は視聴者の皆さんに大事な話があります!俺は今日を最後にゲーム配信者を卒業します。そんで来年から――――――」



 あれだけ大口叩いて小学生の時からやり続けていたゲームと配信を辞めて、LMBをやってるのにこれかよ。
 今日は薫先輩にはっきりと言われちまったな。実力不足だって。でも、それは俺が一番よくわかってる。
 今の俺は蓮より弱い。いつからこんな差がついたんだ?
 入学式の日に蓮に声をかけたのは純粋な興味本位からだ。スライム1体で『嘆きの墓地』を攻略した。それを成し遂げたのがどんな奴か知りたかった。
 正直、蓮は新入生代表トーナメントの予選で負けると思ってた。当たるとしたら予選だろうなって。
 でも、結果は俺の予想を大きく裏切るものだったけど、俺は嬉しかった。
 蓮なら俺一緒に上を目指せるかもって思えたから。
 だから蓮がエンジョイ勢って聞いた時はショックだったけど、ゲームの遊び方は人それぞれ。コレばかりは仕方ない。

 蓮は本戦1回戦で蓮は藤森翔と戦った。
 相手モンスターは一般種最強と言われている恐竜、ティラノサウルスだった。
 かなり蓮に分の悪いバトルになると思った。それでも蓮とブルーならきっと勝つと信じた。
 でも、バトルが始まってみれば驚きの連続。
 まさかスライムが防御スキルや魔法を使うとは想像もしなかった。
 そして気づいたら準決勝まで勝ち上がって来た。俺も蓮もここを勝てば決勝戦っていう最高の舞台でバトルできる。
 まあその前に蓮は莉菜に、俺はオリヴィアに勝たないといけなかった。
 結果は俺も蓮も負けた。初めて同世代の奴にゲームで負けたと思う。
 とにかく悔しかった。でも、すぐに割り切れたよ。
 強い人同士のバトルを見ることは勉強になるって今までの経験からよく知っていたから。
 それに同世代の奴に負けるのは初めてだと思うけど、負けること自体が初めてってわけじゃないしな。

 その後、莉菜やオリヴィア、蓮とパーティーを組んでダンジョンに挑戦した時は正直、まだ俺とコンの方が蓮とブルーよりも強いと思ってたし、実際にバトルしたら勝てると思ってた。
 それがギルドマスター決定戦で蓋を開けてみたらブルーに2体抜きされた。
 結果的に俺は1勝2敗だったけど、この1勝もオリヴィアは初見殺しとも言えるネメアやコンの新スキルに対応できなかっただけの話。
 次、バトルして勝てるとは俺には断言できなかった。
 もちろん、勝負に絶対はないけど、次にもう一度バトルして勝つ自信が俺には無かった。
 そんな状態で常夏の|白黒《モノクロ》|祭《フェス》に参加して薫先輩と琴音先輩に実力の差をまじまじを思い知らされた。
 1年後、俺はあんな風にバトルできる気がしなかった。

 そんで俺は一晩考えた。どうするべきなのか。
 このままじゃダメだと思った。このままチーム1で『闇の祭壇』に挑戦しても俺たちは強くなれない。
 先輩たちにおんぶに抱っこで終わる。
 そう結論付けた俺は翌朝、一番早い便で|白黒《モノクロ》リゾートを後にした。


 こうして俺はチーム1を黙って離脱した。言えばきっと蓮たちは止めるから。
 この時は思いもしなかったよ。莉菜とオリヴィアも俺と同じでチーム1を離脱しているとは。


 チーム1を離脱した俺が向かったのは最も馴染みのあるダンジョン『妖魔の社』だ。
 ここはランク変動型ダンジョンだからいつ挑戦してもモンスターのLvは適正値。
 ここで一度、原点に立ち返ろうと思った。
 そうして最奥にいるボスモンスター烏天狗とのバトル。

「コン、稲荷狐の祈り、稲荷狐の祟り、影分身、陽炎、蜃気楼、狐火!ネメア、デスサイズ、影渡り、ウインドサイズ!」

 コンと一緒にバトルする時、ネメアはゴーストタウンを使わない。
 バフやデバフそれに状態異常を敵味方関係無しに反転するフィールドはコンの使う祈りと祟りとの相性が最悪だからな。
 ゴーストタウンを使ったら烏天狗に付与した筈のデバフがコンとネメアに、コンとネメアに付与した筈のバフが烏天狗に付与されてしまう。
 自分たちを弱体化し、相手モンスターを強化するという最悪の状況に陥る。

 烏天狗は空を飛べるから空中にいる限り、ネメアに攻撃手段がない。
 強いてやるならチェーンリストレイントで拘束してコンの攻撃が当たりやすくすること、あとは地上に引きずり落とすことくらいだ。
 影分身のおかげで陽炎と蜃気楼のコンボが途切れずに済んでいる。
 その為、烏天狗の攻撃はあらぬ方向にしか飛んでない。

 途中、ネメアが上手くチェーンリストレイントを使って烏天狗を地上に引きずり落としたことでコン本体と影分身、ネメアによる一斉攻撃で一気に烏天狗のHPを削り切れた。
 そしてボス部屋には虹色に光り輝く宝箱が。

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