眼鏡を外したら

温故知新

眼鏡を外したら

「眼鏡を外した方が可愛いって!」



 中学の時から仲のいい友人と飲みに行く度に言われるアドバイス。



「あぁ、うん。時間があったらやってみるよ」

「もう、そう言ってメガネ外したことないじゃん!」

「アハハハッ......」



 膨れっ面の友人に、私はお決まりの苦笑いで誤魔化した。


 友人が本心で言っているのは理解している


 でも、眼鏡を外したところで、地味な顔立ちであることは変わらない。


 むしろ、眼鏡をしていた方がマシにすら思える。


 小学生の頃、私を虐めていた子から眼鏡をつけた私を見て、『少しはマシになったね』と言ってくれたのだから。


 だから、長い付き合いのある友人に言われても、眼鏡を外すつもりは無かった。


 職場の人に言われるまでは。



「眼鏡を外した方が可愛いと思うなぁ」



 職場の忘年会で、大して仲良くない人から言われた言葉。



「えっ、そうですか?」

「うん、眼鏡を外した方が良いと思う」



 お互いアルコールが入っていたから、単なる酔っ払いの戯言で聞き流そうと思えば出来たと思う。


 実際、愛想笑いで『そうなんですね』と相槌を打って話を終わらせたから。


 でも、その時に私は怒りを覚えて決意した。



『そこまで言うならやってやろうじゃないか』と。



 何故、怒りを覚えたのか分からない。


 でも、何となく言われっぱなしも嫌だなと思ったから。


 その数日後、私は眼鏡を外してコンタクトデビューをした。


 鏡に映るのは冴えない顔。



『毎朝見ているけど、この顔のどこが良いのやら』



 そんなことを思いながら、私は試しに自撮りをして、それを友人に送った。


 すると、友人から『良いね! やっぱり、眼鏡を外した方が全然可愛いじゃん!』と返事が返ってきた。



『それ、本気で言ってる?』

『本気本気! めっちゃ可愛いから!』

『そっ、そう......ありがとう』



 付き合いが長い友人が私に対してお世辞を言うとは思えない。


 けど、やっぱり信じれなかった。


 そして、そのまま職場に出勤。


 すると、職場の人が私を見てビックリした。



『ほらね、冴えない顔なんだからそういうリアクションになるって』



 そう思い、自席に着いた瞬間、忘年会の時に声をかけてくれた職員さんが私のところにきた。



「おはよう! 今日は眼鏡じゃないんだね!」

「おはようございます。えぇ、今日は気分転換にコンタクトにしてみました」



 本当は、怒りを覚えて眼鏡を外したんだけどね。



「そうなんだ! 眼鏡を外したら可愛いからビックリしちゃった!」

「えっ?」



 本当に? 本当にそうなのか?


 職員さんの言葉に面食らっていると、他の職員さんも私のところに来て、眼鏡を外した私を褒めてくれた。


 友人以上に大して仲良くない人達からの褒め言葉。


 それを真に受ける程、私は純粋な人間じゃない。


 でも、少しだけ、ほんの少しだけ『たまには眼鏡を外そうかな』と思ってしまった。

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