10年後の湊音先生
「いらっしゃいませ、あ……湊音先生!」
「おいおいやめてくれよ、先生は辞めたんだから」
そうだった。先生は数年前に高校教師やめたんだっけ。
湊音先生が〇〇大学の推薦を取ってきてくれた、約束通り。クラスメイトの幸也に聞いたら
「あそこの大学、他のハイクラスの生徒が推薦希望してたのをもぎ取ったらしいぞ。お前、湊音先生のお眼鏡にかなったな、眼鏡屋の娘だけに」
と笑われたけど私は好奇心で顧問室に勝手に入って眼鏡を取って素顔を見たという事をしたのに、お眼鏡にかなったとかそんな事ない。
「久々利さんは学生時代からコツコツ頑張ってましたからね、だからこうしてお店もこうしてリニューアルオープンできたんですよ」
と湊音先生が後ろに隠し持っていた花の植木鉢をくれた。
くたびれた担任だなぁと思っててハズレをひいたと思ったけど……ちゃんと見てくれていたのかな、普通に過ごしててよかった……のかな?
あれから十年。私は大学に通い大変だったけども資格もとって。卒業後に父親を説得させて継いだこのメガネ屋。しばらく父に付き添い、ようやく五年目で店主として任せられた。
経理として税理士になった幸也がうちの店の経理、そして婿入りしてくれて支えてくれている。
私がふと湊音先生の眼鏡の下の顔が気になる、それだけでここまで。
すると先生はまた中指でぐいっと眼鏡をあげた。その眼鏡も私の店で選んで買ってくれたものだ。
「眼鏡は修理できましたか?」
メンテナンスをずっとしに来てくれている。だからもうずれないはずだけど、癖は抜けきれないようね。
「はい、出来ています」
先生は目の前で眼鏡を取って素顔になりニコッと微笑んで修理した眼鏡を掛け直した。
終
【KAC20248】湊音先生の眼鏡 麻木香豆 @hacchi3dayo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます