湊音先生の呼び出し
「久々利さんのご実家は隣町の眼鏡屋さんですよね?」
「はい。もうお父さんの代で潰すとか言ってたよ」
我が家はひいおじいちゃんの代からやっている眼鏡屋さん、と言っても量販店が増えてきてこぢんまりしてきたけどさ。
「なんで」
「ほえっ?」
子供は私しかいないし、女だからと。どこか眼鏡屋の倅とお見合いさせるかとか言ってたけど……今時眼鏡屋単独ではやっていけないからって。
私はそう伝えた。たいていの大人たちはそうだな、と言ってたし。だから私は高校卒業したら短大か就職かなぁだなんて思ってた。
すると湊音先生は眼鏡をぐいっと中指で持ち上げた。よくする彼の仕草が私はいつもよりもドキドキッとする。素顔を見たから?
でも鼻当てがぐらついてるからしょっちゅうメガネがズレるわけであって。
……やばい、意識しちゃう。なんでだろ。
「もったいないな、それ」
「しょうがないですよ、決まったことですし」
「久々利さんの成績なら大学行けるのに……短大、勿体無い」
あ、こないだの進路希望のことだ。来週親との三者面談で話すとか言ってたけど。
「この成績なら〇〇大学推薦できる」
〇〇大学ぅ!!!!??? いやいやいやいや。名門中の名門?!
「ここなら視能訓練士、眼鏡作製技能士の国家資格が取れる。もしご実家を廃業になるのなら眼鏡屋でも働ける」
「……眼鏡屋にはそこまで執着はしてないけど」
と私も眼鏡をくいっとあげた。私は毎日調節してるし、綺麗にしている。
お父さんが仕入れてきた眼鏡を大事にしてる。
ずっとお店でおじいちゃん、お父さんが眼鏡を売っている姿を見ていた。
だからいつかは、とか思ってたし気づいたら私の視力も落ちて眼鏡かけるようになったけど私が女ということだけで実家の店は継げないんだという事実も小5ぐらいで知って。
とりあえず進学して就職して結婚して子供を産んで……。
「今からでも遅くない。来週の三者面談までに推薦で取れないか主任と相談する、いいか?」
と最後に湊音先生がまた眼鏡をぐいっと上げた。
今まで何気ない仕草だったと思っていたのに。眼鏡を持ち上げる仕草なんていろんな人のを見てきたのに今までにない感情、どきり。
「はい、お願いします……」
私の中で蓋をしていた、眼鏡屋さんを継ぎたい気持ちがパカーンと開いた。
湊音先生の眼鏡を直してあげたい!!!!!
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