【KAC20248】未来視メガネ

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

彼女の見た未来

 生まれて初めて彼女ができた。


 眼鏡フェチとして生まれて、好みのタイプは眼鏡をかけている女の子と言い続け「もう眼鏡と結婚しなよ!」と振られ続けて幾星霜。

 ようやくできた彼女は図書委員タイプの文学少女ではなく、しっかり者の学級委員長タイプでもない。

 俺と「漫画でよくある眼鏡を外したらキレイな少女設定についてどう思う?」「許せない」という熱すぎる議論の果てに意気投合した眼鏡が本体タイプの眼鏡女子だった。

 委員は無所属だ。

 眼鏡に所属しているので余計な組織に入らなくていいのである。


 そんな彼女と付き合ってすでに二ヶ月。

 その間、彼女が眼鏡を外したところを見たことがない。

 彼女の眼鏡はラーメンを食べるときも曇らず、どんな激しい運動にも耐え、プールに行っても外してないので水陸両用なのだろう。

 素晴らしいことだ。

 けれど俺の中にある疑念が浮かんできた。

 俺の彼女が万能過ぎる問題だ。

 成績優秀スポーツ万能なのはまだいいとしても、あらゆる嘘を見破り、予知レベルで未来のことまで言い当てる。

 彼女は「眼鏡のおかげ」としか言わないが、もしも彼女が言葉が全て本当だったら……俺はどうすればいい。

 本当に眼鏡が本体の彼女だぞ。

 俺は意を決して質問することにした


「なあ一つ聞いていいか」


「なに? 日本の首都なら福井県の鯖江よ」


「そんな常識をわざわざ質問しねーよ」


 今日も彼女の眼鏡には曇り一つなかった。


「まさかあなた……私に眼鏡を取ってほしいなんて戯言をのたまうわけじゃないわよね」


「それは……」


 俺が質問しようとしたことは最終的にそういう意味かもしれない。

 その事実に気づき、答えを躊躇ってしまった。


「……別れましょう私達」


「ちょっと待て! そのノータイムで別れを決断するメンタルに惚れ直した。もう一度俺にチャンスをくれ。眼鏡に誓うから」


「眼鏡に誓われたら仕方ないわね。それで何が言いたいの?」


「いや……俺の彼女の眼鏡が万能過ぎると思って」


「そんなこと? ……あなたは眼鏡をしてないものね。この世界の隠しジョブを知らないのも無理ないわね」


「隠しジョブ?」


 彼女は眼鏡をクイッとして光らせた。

 そして語りだす。


「この世界には眼鏡に選ばれた者しか就くことが許されない隠しジョブがあるのよ。その名も『眼鏡』。眼鏡をつける時間が長く、眼鏡を外した時間が少ないほど力を得るわ」


「なんだと!? いやいやいや……さすがに無理があるだろ」


「そう……信じないなら別にいいわ。最初は曇り止めやブレ防止程度の力だし。でも私ぐらいになればどんな真実も見抜けるし、未来も見えるようになるのに」


「それは全て『眼鏡』の力だったのか!? いや……だ……騙されないからな」


「あと服も透けて見えるわ」


「ぜひ詳しく教えてください! お願いします」


 土下座したら、彼女からどこまでも冷たい視線をいただいた。

 これも『眼鏡』の力かもしれない。

 身も心も凍らせる魔眼とは……隠しジョブは実在したのだ。

 その日から俺も眼鏡をかけるようになった。

 伊達眼鏡だが。


 それから数年後、俺達は結婚した。

 俺は片時も眼鏡を外していない。

 さすがに俺の中で疑念が渦巻く。


「なあ……隠しジョブの発生しないんだけど」


「本気で信じていたの!?」


「まさか嘘だったのか!?」


「……あなたに眼鏡をかけさせたいだけだったのだけどね。この騙されやすすぎるところが心配だから離れられないのだけど、まさかここまでとは」


 妻になった彼女が小声で呟いていた。

 うまく聞き取れない。


「なにか言ったか?」


「……なんでもないわ。やはり幼少期から眼鏡をかけていないと難しいみたいね」


「そっか……まだ人生の半分も眼鏡かけてないからな」


「まあ眼鏡かけ続けても服が透けるようにはならないけどね」


「なんだとやっぱり嘘だったのか!?」


「でも未来視はできるわよ。だってあなたと出会ったときに一緒になる運命が見えたもの」

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