【小説】ド派手なサウンドに負けないアルバムジャケットを作ろう
安明(あんめい)
僕たちの似顔絵を描いたそれぞれの四角を、その4色で塗るんじゃないよね
レコーディング作業が終盤を迎え、アルバムの完成が見えてきたその日、フレディがメンバー全員に声を掛けた。
「ちょっとこれを見てくれないか」
スタジオ内の打ち合わせスペースに集まったメンバーの前で、フレディが楽譜の裏の白紙に正方形を描き、さらに縦横に直線を引いて4つの四角に仕切った。
「何だいそれは?」
ロジャー首を傾げた。
「まあ見ていてくれ」
そう言ってフレディはそれぞれの四角に人の顔をさらさらっと描いた。
左上は短髪で口ひげを生やした男性。
その隣は同じく短髪だが前髪がくるくるっと巻いている男性。
その下は髪の毛全体がふわっとしたカーリーヘアの男性。
その左は髪を肩まで伸ばした女性……ではなく男性か?
「これもしかして僕たちかい?」
覗き込んでいたジョンがそう言った。
「何でいきなり僕たちの似顔絵を、いや、四角ということはアルバムジャケットかな?」
ブライアンがそう続けた。
「二人ともご名答!」
フレディが両手を広げたオーバーアクションでそう答えた。こういう仕草にも、フレディのエンターテイナー性が見えて取れる。
「このアルバムはポップでファンキーなものだから、こういうイラストを使ったジャケットいいかもしれないな。で、どんな色使いをするんだい?」
「そう、そこなんだよ!ロジャー」
そう言ってフレディは、机の上にあったカラーペンから4本を抜き出して、紙の余白にそれぞれの色で小さな四角を書いた。
スタジオには、楽譜や歌詞のチェックのためにカラーペンが備え付けられている。
フレディが抜き出したのは、赤、青、黄の色の三原色に、緑を加えた4色。
「これでどうだい?」
フレディはメンバーみんなの顔を見た。
「いや、フレディ、わからないよ」
ロジャーがまた首を傾げた。
「まさかと思うけど、僕たちの似顔絵を描いたそれぞれの四角を、その4色で塗るんじゃないよね」
ブライアンがちょっと不審げな表情をした。
「ブライアン、またご名答だ!」
フレディが一層大きく手を広げて答えた。
「いやでも、そんなどぎつい……いや、派手な色のジャケットというのは、どうなのかなあ」
遠慮気味にジョンが尋ね、ロジャーもブライアンもうなずいた。
「おいおい、ジョン。このアルバムのド派手なファンキーサウンドは君の発案だぜ。ジャケットはアルバムの象徴なんだから、これくらいしないと、このサウンドをアピールできないぜ」
フレディは自信に溢れた表情で言った。
「「どうする?」」
ロジャーとブライアンはそう言って顔を見合わせたあと、ジョンの方を向いた。
まるでジョンに決定を委ねるかのように。
「うーん、そうだね。サウンドでも冒険したのだから、ジャケットでも冒険しないといけないね。わかったよ、フレディ」
しばらく考えてジョンがうなずき、ロジャーとブライアンもそれに続いた。
「よし!決まりだ!」
フレディが手を叩いた。
「じゃあ、今日はこれでおしまいだな」
飲みに行きたそうな表情でロジャーが言い、あとの二人も立ち上がりかけた。
「いやいや、大事なのはこれからだ」
手でメンバーを制してフレディは言った。
「まだ何か?」
腰を下ろしながらブライアンは言った。
「誰をどの色にするかだよ。あ、俺は赤がいいな。何と言っても情熱の色だからね。あとの青、黄、緑は好きなように選んでよ」
どっしりと構えてフレディは答えた。
「どの色なんて選べないよ。フレディ、決めてくれよ」
ブライアンがそう返した。
「そうはいかないさ。QUEENは民主的なバンドなんだぜ。さあ、論議してくれ。俺はここで見ているから」
そう言われたロジャー、ブライアン、ジョンはやれやれといった表情で顔を見合わせた。フレディがこう言ったら引かないことはみんな知っている。
長い1日になりそうだ。
【小説】ド派手なサウンドに負けないアルバムジャケットを作ろう 安明(あんめい) @AquamarineRuby
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