色 ~Fairies 短編~

西澤杏奈

僕のお母さん

 僕の名前はライアン。フランスにお母さんと二人で住んでいるんだ。

 お父さんもおじいちゃんもおばあちゃんも、僕にはいない。お母さんは彼らがいなくなっちゃったのは自分のせいだって言うんだけど、僕にはなぜだかわからない。


 お母さんは絵を描くのが好きなんだ。いつも白いキャンバスにいろんな色を使って、綺麗な絵を描くんだ。

 お母さんは若い頃、いろんな場所に旅行していたみたいで、そのときの風景を描くのが好きなんだ。


 例えば、赤と黄色のスペインの町とか、青と緑のアマゾンの森とか、灰色と白の高層ビルとか、茶色と水色のインダス川とか。

 お母さんの親と一緒に行ったこともあるし、一人で、あとはお父さんとも旅行したことあるんだって。そのときの話をするお母さんの顔はとても楽しそうなんだ。


 僕も絵を描くのが好きなんだ。お母さんの隣で、カラフルなクレヨンで花を描くんだ。花って本当に綺麗だよね。いろんな色があって、形はみんな違ってて。


 今年、お母さんはフランスから出てブラジルに引っ越す計画を立てているんだ。僕、フランス好きなんだけど、これ以上暮らすのは危ないんだって。お母さんはそれも自分のせいだって言うんだけど、なんでなんだろう。お母さんが何をしたと言うんだろう……。

 でもブラジルも嫌なわけじゃないよ。綺麗な花がいっぱい咲いているって聞いたんだ。楽しみだな。


 僕はお母さんが大好きなんだ。強くて、優しくて、一緒に過ごすと楽しいんだ。僕の髪と目の色はお母さんと一緒の金と青なんだけど、それもとっても嬉しい。

 これからも、住んでいる場所を変えても、ずーっとお母さんと一緒に暮らしていくんだ





 _________なんて呑気に考えていた時期が俺にもあった。




 その年、突然現れた異能力者によって、西ヨーロッパは崩壊した。

 俺の町も巻き込まれ、自分は家の下敷きになった。そこでお母さんは「力」を使った。

 その力こそが、父さんもじいちゃんばあちゃんも俺にいない理由だったんだ。


 お母さんは水と風の能力を使って、俺を瓦礫から出した。でも、それを辺りで「救助活動」をしていた軍に見られて、撃ち殺された。


 お母さんはあんなに素敵な色を絵具からたくさん作れたのに、最後に出したのは血の、赤い色だけなんだ。


 その赤色は、今も脳内にこびりついている。そして、その色は、僕に燃える怒りをもたらすんだ。

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