東京・渋谷から色が消えた
睡蓮
色が消えても
東京・渋谷のスクランブル交差点。
無数とも思える人がそこを歩いて行く。
白、黒、赤、青……人々の服装、ビルの看板、巨大なディスプレイ、走る車も色とりどり。
そんな景色をとあるビルの屋上から見ている私。
「なぜその色が必要なの……」
ハッキリ言ってうっとうしい。
服の役割が防寒と肌の保護だけだったらどんな色でも良いじゃないか。
看板や広告だって理解できる文字さえあれば一色で事足りる。
物を運ぶのが目的の車なんか錆さえ防げればそれで良いはずだ。
眼が落ち着かない。
私は両手を空に向かって大きく広げた。
魔法の詠唱は久しぶりだが、自らの魔力を言葉に込め、一気に放出させる。
街から色が消えた。
モノトーン。
白黒になった世界に私は歓喜し、人々は戸惑い、恐怖する──はずだった。
私の目に映るのは相変わらず五月蝿い世界で、視界の中の人々は誰一人今までと変わらない動きをしている。
何なんだ!
色がなくても何も変わらない!
光があれば影ができるから、どうしても何らかの映像はできてしまう。
だが、それだけか。
私は恐くなった。
「魔法が……通じない」
いや、確かに私の視覚から色が消えている。
色が消えているのは私だけ……
そんなことはない。確かに魔力を感じたし、魔法が発動する感触もあった。
ならば、ここにいる人間は何を見ているのだろう。
私は急に恐くなった。
ひょっとして何も見えていないのだろうか。
視覚ではなく、別の感覚で動いているのだろうか。
数万年の時を経て復活してみれば、人間は進化の過程で変わってしまったのだろうか。
ならば何故あれほどカラフルな世界を作ったのか。
数日間寝ずに考えたが、結局何もわかりそうにない。
頭を動かすことをやめた。
私が知っている人間と目の前の彼等は違うと理解した。
歴史は繰り返すから、いずれ昔の人間のような生き物が生まれてくるだろう。
その時まで存在を消そうと私は自らに冬眠魔法を掛けた。
「その時まで生きていてくれよ。人間ども」
東京・渋谷から色が消えた 睡蓮 @Grapes
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