髪色交換

ちかえ

従姉と髪色を交換したら?

 私、ミレイア・デ・アイハと、従姉で友人のラケル・レトゥアは顔がそっくりだ。


 年は一つ違う。そして髪色も違う。でも、それでもなお何も知らない人には双子に間違えられる。いや、私達はどちらも一国の王女だから、顔を知らないなんていう人はあまりいないけど。


 それでもきっと、髪色を交換したら、私たちの事を間違える人はたくさんいるだろう。そういう事を題材にした小説を前世でも今世でも読んだ事がある。


「と、いうわけで一回髪色を交換してみない?」

「……何言ってるのよ、ミレイア」


 私の提案に、ラケル従姉様が呆れた様に笑っている。でも、面白そうだとその表情が言っている。


 それにしても、なんだか従姉様の顔がによによしているのは私の気のせいだろうか。まあ、賛成してくれているのだからいいと思う事にする。


 入れ替わるとしても授業や試験を受けるとなると大問題になってしまうので、実行は放課後という事にする。当たり前だ。

 それに、ラケル従姉様の副専攻は剣術なので私には無理だ。実力ですぐバレてしまう。

 そう言うと、ラケル従姉様が大笑いした。


「そうね。わたくしの剣術は完璧だもの」

「……自慢してるし」


 呆れるが、従姉様は気にしていないようでまだ笑っている。もちろん従姉様が冗談で言ってる事は私にも分かってる。


***


 髪はかつらを使うという事も考えたが、それだとしっかりした髪色が出ないので、変化の魔術を使う事にした。髪色を変えるくらいなら高等部一年の魔力持ちの必修の授業でもう習っている。


 お互いがお互いに魔術をかける。それがなんだかおかしくて魔術をかけながら二人で顔を見合わせて笑ってしまった。


 それにしても、髪の色を変えるだけでもなんだか自分に違和感を感じる。本来従姉のものであるストロベリーブロンドの髪が私の頬の横で揺れるのを見ながらしみじみとそう思った。


「背もほとんど同じだからみんな騙されるかもね」

「それが目的だもの」


 そんな事を言い合う。


 これで完璧かもしれないが、念のためにドレスも交換しておいた。


 さて、みんなは騙されてくれるだろうか。楽しみだ。


「ではお互い適当に学園の廊下を歩いてみましょうか、


 ラケル従姉様がノリノリだ。もう私になりきってる。私は『分かったわ、ミレイア』と返す。そしてまた顔を見合わせて笑った。


「さてと、では私はいつも通り上流ゾーンに行ってくるわ。では従姉様、後で」


 ラケル従姉様はそう言ってさっさと立ち去っていく。


 さっきと言ってる事が違う。つい『ええ!?』と言いそうになって堪えた。


「え、ええ。後で……」


 かろうじてニュアンスを変えてそう答えた。でも、心配なのでこっそりと後をついていった。


 従姉妹同士とはいえ、『大国の王女の後をつける隣国の王女』というのはすごく怪しすぎる。だからなるべく不自然に見えないように気をつけた。そしてなるべくラケルらしくみえるようにした。この事で大好きな従姉の評判が下がるのは避けたい。


 心臓はもうばくばくしてる。


 私達が上流ゾーンに着くと、ちょうどこの国の王子であるネッドが、彼のサロンの入り口に向かう所に出くわす。私は慌てて物陰に隠れた。気付かれたら大変だ。


「ごきげんよう、ネッド殿下」


 ああ、話しかけた。どうしよう。ネッドはどう答えるのだろう。


「こんにちは、珍しいですね」


 珍しいって何が? ここに来るのが? 私は時々ここのカフェとか利用しているし、全然珍しくはない。

 それにネッドのサロンに入った事だってあるのに……。


「珍しいって?」


 ラケル従姉様は私らしく小首を傾げて……って、私、そんなにぶりっ子しないよ! ラケルのバカァー!


 それにしても、ネッドの雰囲気もいつもと違う? いつもはもっとふざけた雰囲気を出しているのに今日はかなり真面目に見える。


「レトゥアナ王国の王女殿下がここにいらっしゃるとは」


 その言葉にドキッとした。

 わ、わかるの? どうして?


「あら、私のどこがラケル従姉様に見えるの?」

「ごまかしてもだめです。ミレイア王女はどちらにいらっしゃるのですか?」

「あそこにいますけれど?」


 従姉様はそう言っていたずらっぽい表情で私の隠れてる物陰を示す。


「ラ、ラケルっ!」


 思わず声を出してしまう。


 二人の視線がこっちを向いた。


「何をしているの」


 ネッドが呆れ顔だ。私は仕方なく二人の前に出た。


***


 結局、ネッドのサロンで事情を話す事になった。


 ただのくだらない話だ。私が入れ替わりものの小説を読んで私達だとどんな感じになるのか興味を持って従姉様に入れ替わりを提案した。それだけだ。


「こんなイタズラが先生に見つかったら叱られるだろう?」


 ネッドの言葉はごもっともだ。


「ええ、だから短時間ですませたのよ」


 ラケル従姉様はさらりとそんな事を言う。


「気づいてくれてよかったわね」


 おまけに追加でそんな事を私に言ってきた。


 つまり、何が気になったのか。私が何に不安になっていたのか、従姉様は最初から知っていたらしい。


「そんな、私はそんな……」

「あら、ミレイア、髪色とお揃いよ」


 ラケル従姉様が私の赤くなっているのであろうほっぺを見てからかってくる。そういえば、髪色をまだ戻してなかった。


 私は恥ずかしくなってそっぽを向いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

髪色交換 ちかえ @ChikaeK

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ