朱紅の唇
あぷちろ
独白
私の志桜里への情愛を意識したのは、私自身が思春期にあったときであった。
志桜里は私の妹である。五つほど歳が離れている実妹で、身内ひいき目に見たとしても見目麗しく、当時の幼い時分であっても利発さと器量の良さが十分に伝わる容貌であった。ただしそれは彼女を構成しうる要素の一つであって、彼女の全てではなく、ましてや私の情愛に影響を及ぼすほどのものではない。
十代真っ只中の私に対して志桜里は、まだ幼齢といってもよい風貌であったが、同時に女性としての色気を感じるようになっていた。艶やかに濡れる朱色の唇に未成熟であるにも関わらず、匂い立つような色香を感じたのだ。
それから数年と時を重ねるにつれ、志桜里はより一層に美しさに磨きがかかっていった。緑の黒髪に切れ長の瞳、白磁の肌に朱色の濡れ唇。四肢は家族のだれにも似ず、すらりと長く細く。女性的な豊かさと艶めかしい曲線を描く。
本人の齢が二十を超える今ではより一層に美貌が際立っていた。
時が経つにつれ、私の中の劣情は肥大していった。暗澹とした私の色情は
志桜里が二重の瞳を細めて私を見つめる。艶やかな唇から澄んだ声が漏れ出る。滑らかな四肢を捩らせて
同じ屋根の下で過ごす彼女。私の内心も知らずに色香を振り撒く。
くらりと脳が震える。この手で彼女の髪を梳くと絹の如き黒髪がしっとりと手に吸い付くも、間もなく流砂のように流れ落ちる。
魔が差した。
私は静かに彼女の髪へと口づけをした。気づいたときには彼女の茶色がかった瞳が私を見上げていた。
いたずらを見咎められた、ばつの悪い感情が吹きあがる。長年、隠し通してきたはずであるのに、私はへまをしたのだ。
志桜里は微動だにせず、私の顔を見つめる。彼女のよく見せるような豊富な感情はなく、ただ無表情に私を見つめ上げる。
断頭台の上、幻視をした。私は執行の時を待つしかできないのだ。
薄らと志桜里の唇が横に延び広がり、心地のよい声がふわりと匂いたつ。
朱紅の唇 あぷちろ @aputiro
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