非色
銅座 陽助
第1話
時に、人間が色を見る仕組みは知っているだろうか。
網膜の細胞が光を受けて、それを脳に伝達する。
そして網膜が受容できる、およそ360~830nmの波長を持つ光が、私たちが認識することの出来る「可視光線」である。
ところで、眼球内の網膜に光が当たる前には、レンズである水晶体を通過する。
この水晶体は加齢に伴って黄変し、短波長の光、青色系統の色合いが見づらくなる。
つまり、人間は加齢によって「青色を失う」のである。
話は変わるが、絵についてまだ学んでいない初心者は、得てして太陽を赤く塗る。
疑問に思ったことは無いだろうか。
私たちが目にする太陽というのは、多くの場合白色である。
水も同様だ。コップの水は青く塗られる。
私たちが目にする水は、たいていの場合無色透明だというのに。
なにも絵に限った話では無い。例えば黄色と黒色との組み合わせ。
私たちはその色を危険なものの知らせとして認識する。
何故、その色なのだろうか。
何故、緑色は安全で、赤色は危険なのだろうか。
何故、桃色に色欲を抱き、紫色に高貴を見出すのだろうか。
何故、赤色に食欲を掻き立てられ、青色にそれを喪失するのだろうか。
私たちは、いつからそれを知っているのだろうか。
はじめに述べた通り、人間は通常、一定範囲内の色を認識できる。
そして人間は加齢によって、認識できる色を喪失する。
それでは、こうは考えられないだろうか。
私たちがもっと幼い頃。
例えば幼児の頃。
例えば乳児の頃。
例えば、それよりも前の頃。
私たちにはもっと多くの色が見えていたのではないだろうか。
幼児以前の記憶は鮮明だろうか。
乳児以前の記憶はあるだろうか。
私たちは記憶を失うように、色覚も失っているのではないだろうか。
色覚と記憶を失う前の私たちは、いったい何を見ていたのだろうか。
目の前にあるにも関わらず、私たちは見えなくなっているのでは。
否。見ないようにしているのではないだろうか。
無論、真っ赤な嘘である。
非色 銅座 陽助 @suishitai_D
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