怪異のような客と、その客に驚きながらもプロとして平常通り対応する不動産屋のやり取りで話が進んでいく。
お話の中にふざけやフック・かましが次々と散りばめられていくのが楽しい。一方でそうした要素に過度に縋らず、作中人物や地の文はそれらを淡々と受け止めて進んでしまうのも読んでいて心地いい。
客の態度を好もしく感じていた不動産屋が、2件目の内見で起こった「トラブル」にうろたえる客に接し、ふいに嗜虐的な欲情を抱く。単純に「かわいいお客さんだな」だけでは済まない、負の感情が生じる転倒がリアルだ。不動産屋と客を超えた生々しさが一瞬立ち上がってくるが、それでも不動産屋はそれを表に現すことはなく、あくまでプロとして振る舞い続ける。彼に一線を超えてほしいような、しかしそうしてほしくはないような、彼の抱く両面的な感情に読む側も少し巻き込まれながら、お話はそこもまた軽々と過ぎ去っていく。
3件目の内見に至って、オチと呼び得る大きな転倒が待っている。これまで語られていた(怪異のような客を除けば)それなりに私達の現実と変わりのない不動産屋への申込みと内見の経過が、たまたま私達のそれと似通っていただけだと知らされてお話の全体が転倒していく。
見事で端正な短編。
(KAC第2回アンバサダー企画お題「住宅の内見」/文=八潮久道)