第15話
校庭に車からの光が踊っている。自首って言うか、―――自首なのか? もう警察の人に出会ったのか、どうなっているのか。
なかなか車の側に佐々木君の姿は現れない。どこかで一通り事情を聞いているのかな。
なにを好き好んでこんな真似を、しかも警察に捕まるんだって時になっても、まったく飄々としちゃって、信じられない。怖くないのか?
怖くないのか。怖い大人相手にイタズラじゃ通らないだろう。
「ま、なんだな」
やけに静かに思える廊下に、その修平の声は響いて聞こえた。灯りが点いても、やっぱり夜の学校は夜の学校だった。私には慣れない、知らない空間。
「静佳がちゃんと話聞いてやってたら、こんなことは起きなかったんじゃないか? オレんとこ来たら、聞いてやったし、オレは」
はいぃ?
「てそれ、誰のせいよ。私に余裕がなかったのって、すごい修平のせいなんだと思うけどっ」
誰の原稿にかかりっきりだったと思ってるんだ、そこの人。
「だいたい調べたらわかることなんだから、やってみなくたっていいんだよ。警察に電話して聞いたっていいんだし! なんでシミュレーションなんて――」
口を閉じた私は、助けを求めたかったのかも、芽久と中尾と目を合わせた。この動きは正解で、私たちは同じことを思い当てていた。
「あぁ」
頭の中を、凧がくるくると舞っている。あぁ。
「作家には必要なんかね、そういう性質って」
中尾が言う。
「修ちゃんを目指してるって言ってたね。ほんとだね」
芽久が言う。
私はため息をついた。
「恐ろしいこと認めないで。許されたって思うから、センセイ」
もちろん修平は満足そうに、胸を張り、
「大物になるぞー、佐々木君」
ならんでよろしい、こんなモノ。
今なら佐々木ととっくり話し合ってもいいような気持ちだ。道を修正するのに、もう遅すぎる年頃? 私たち。
まだ間に合うかもしれない。こんな大人にしちゃいけない。人はいつからでもやり直しがきくはずだ。誰か偉い人がそう言ってたもん。
いつからでもって、もちろん修平は無理に決まってるんだけど。努力する気も起きないんだけど。
「修ちゃん、ほんとはどんな罪なの?」
芽久の邪気のない声が訊く。
「正しい答えを、近日中に」
情けない答えに、私はうな垂れた。だからあんたって人は。
「つまり知らないんだよ、芽久」
「解説すんな」
つまり佐々木は、正しい手段を選んだんだ。たとえ私に面会が可能で、修平に話が通ったとしても、ちっとも力にはなり得なかった。
聞いてやったとかさっき本人言ってたけど、聞いただけに終わっただろう、十中の九は確実に。残りの一がたまたま廻って、機嫌の良さがぶつかっていたら、法律ブレインに質問してみてくれたかもしれない、かもしれない。
私はそのブレインが送ってきた回答の意味さえわからないんだけど。私の知ってる日本語に、どなたかほぐしてくれないと。
「公共物破損? あ、不法侵入か」
ポスターは公共物かと言われれば、確かに公のものだとは思えるが。修平の頭絞った意見は一応、うなずける。その前にこの建物に侵入しているというわけだ。だけど、
「生徒なんだから、学校はいいんじゃない?」
「校則の問題かな。夜間の出入り禁止なんてあった?」
「わかんない。生徒手帳なんて読んでないもん」
「それは言われなくてもやっちゃいけないことだよね」
にっこり。
芽久……。今あんたがいる場所は。
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