第13話
ポスター。
そこでやっとあっと思った。そうだ、そうだった、中尾は確かに責任あるけど、もっと原因を作った犯人がいたんだ。佐々木。
私は三段下に足をかけたところの佐々木のシルエットを見下ろした。そしてその時、佐々木は言った。
「だけど警察って、わりと早くに来るもんだね。驚いたよ」
それって、スタート時間を知ってる人間の発言じゃあ・・・・・・。
「……おまえ。自分で呼んだの?」
中尾の声は静か過ぎた。語尾か疑問形に上がっているけど、答えなんか聞かなくたってわかっている。
だけど友達と言うほど親しくなくても、知っている人間にはいい人でいて欲しいって気持ちで、否定してくれたら私たちは嬉しかったのに。
佐々木はそんなこっちの思いなんてかけらもわかっちゃいないらしく、答える声は明るかった。
「校内に不審な人影ってさ、入る前にそこの電話で。さっさと犯行証明貼り付けて、遠くから見てるつもりだった」
「すげ近いんだよ。なんだよ、これは」
佐々木の手から紙を奪い取り、広げてみたらしい音がする。見えるわけない、暗すぎる。
「ライト、芽久だっけ?」
「ううん。私の置いて来ちゃった」
「じゃあ、修平?」
「おう、ここだ」
かちっという音がして、丸い光が中尾の手元を照らした。薄くぼんやり文字が見えてきた。ご丁寧に定規を使って書いたような字で。
「盗難報告……。バカかおまえはっ」
「本格的ってか、凝ってるなぁ」
おそらく掲示板に残されるはずだったその『犯行証明』に、修平は感心している様子だった。
私に言わせりゃテレビの見すぎ、よりは佳き時代の怪盗モノの読みすぎ、が近いかもしれない。
アルセーヌとかサインが入ってたり、花のイラストが描いてあったりしなくてこれは、まだマシなのか?
なんでだ、佐々木。なんでこんな真似をするんだろう? そう言えば理由を聞いていなかった、今回このようなバカげた行動に出た理由。
そう思って佐々木を見たら、なんだかにっこり笑っている。えぇとー、――修平を見てる? あ、そうか。
「あの、西野先生ですよね?」
「そうだよね、お隣。聞いたよ。いいねえ」
「いいよー。すごい羨ましい立場だよ、小野里さんの立場って。代わりたい人たくさん居るよ」
スーパーのイカレタおもちゃ売り場での会話を思い出した。そんなことを言っていたんだよ、この人わ。
「いかにもそうだが」
『先生』という言葉に反応し、修平はふさわしい返事をしたらしい。言われることが滅多にないので、先生、ちょっとぎこちなさが見えてしまっているんですが。
芽久が目をぱちぱちしている。『先生』と『修ちゃん』がつながらないのだと思う。誰よりも修平の作家力を疑っている人間。それはなんと芽久なのだった。
「僕、西野先生のファンなんです。西野先生目指して作家になるのが夢なんです。いつもご活躍、楽しませてもらっています」
「非常にいい心がけだな」
見事に対照で、佐々木の方は持ち上げすぎだ。あぁ、そんなことをしてしまったら、修平の奢り高ぶりは止まるところなんて持ち合わせていないのにー。ご活躍、
楽しんでいいけど本買ってくれてありがたいけど、作者本人にだけはそんなことは告げないでくれ。
ライトたった一本の光の中では、ただでさえ力の薄い私の眼力はまったくもって役に立たん。さらに興奮している佐々木に、何が届こうわけもない。
佐々木の語りも、止まるところを持っていないらしく、滔々々と続きは続く。
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