第12話

「佐々木くんが持ってるの? 祐のポスター。ボール遊び禁止って書いてある芸術だよ」


「向坂さん」


「こんばんは」


 にっこり。


「ポスターは、まとめて社会科資料室の棚の上にあるよ」


「捨てたりしてなかったんだね。良かったね、祐」


 ポイ、と佐々木くんの腕を投げ捨て、中尾は資料室のある方を見上げた。とんで行って確かめようかと迷ったんだと思うけど、また厳しい顔で振り向いた。


「何でこんなマネしてんだよ」


 ポスターの無事の確認が取れたことで、声の調子は丸くなっていた。質問というよりは、ひとりぼやきのようにも聞こえる。


 犯人が知っている人間だったことに、戦闘意欲は逃げ出したのかも。中尾としても予想なんてしてなかった相手だし。


 佐々木くんはすぐに答えた。


「向学のために」


「なんだって?」


 なんですと?


「おーい」


 窓の側から修平が声をかけ、私たちはそっちに目を向けた。手招きするから近くに寄っていくと、窓ではない横の壁に位置をつけられる。


 んん? 隠れた状態で横目で外を見てみれば、校門をスライドさせて開けている人がいるわ、その向こうにのろのろと進む車があるわ。


「え。パトカー? だよね、あれ」


「警察のお出ましだ。騒いで通報されちゃったか?」


「芽久、中尾っ、早く伏せて! 見つかっちゃう!」


「これだけ煌々と灯りつけてて、隠れたとこで手遅れだろう」


「やらないよりマシじゃんっ」


 だったら、なんであんたはそんなとこにへばりついてるんだってのっ。自分だけ隠れてたらいいってこと?


「まずいんじゃないか? ひょっとして」


 ホントに伏せた中尾が言った。芽久も横に転がっている。


「かなりまずいと思うんだけど。隠れた方がいいかもしれない。ロッカーの中とかロッカーの中とか」


「掃除ロッカーは各クラスに一つだろ?」


「みんなで別々のロッカーに入ればいいじゃん。とにかくとにかく、場所移動しようよっ」


 ここに居ますよってところにそのまま居続けることはない。


 学校は広いから隠れとおせる場所があるかもしれないと、私は先頭に立って移動しながら忙しく考えていた。


 いろんな場所を思い浮かべるけど、浅はかな感じがして決められない。もう本当にお掃除ロッカーでいいのかも。

 

 灯りのついている廊下を離れ、また暗がりへと戻るしかない。とりあえず階段を上に、


「とりあえず上に向かうのって、逃亡者の代表心理かね」


「たいていのラスト見せ場は屋上だよね。最悪、近付いたら飛び降りるって脅しもかけれるってところでしょ」


「だったら下でもいいよ?! どっかいい道があるんならそっち連れてってよっ」


 とりあえずの考えが浅はかなんだと指摘され、私の血も上に上った。修平も中尾も、そんな分析、楽しそうに話してるところじゃないってのにわかっていない。


 まさしく私たちは逃亡者なんだよ。なんでこんなことになっちゃってるんだか、考えてみたらわかるけどっ。


「いいよ、のぼろうよ。端の用具倉庫かなんかなら見つからないかもしれないし」


 私のあんたのせいオーラに気付いたのか、中尾はおさめるようなことを言った。


 ここを無事に切り抜けられたら、言ってやりたいことがある。もう二度と、あんたの話には関わらない。


 だいたい、たかだかポスターごときでどうして、使われる予定もない謎モノばかりが詰まった倉庫なんぞに追い込まれなきゃならんのだ。


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