第11話

 ところで。


 ただ黙って座っているだけだということで、考えごとを決着させた私は、すぐに眠ることを思い出してしまった。


 中尾にバレたら、真面目に見張れと罵倒されると思うけど、こっそり静かに居眠りこいてたら、気付かれない可能性は、ある。


 私たちは二列で座り、前列に中尾と修平、後列が芽久と私と並んでいた。斜め下に時々動くその頭に、すまんとか心の中でひっそり詫びて、私は芽久ではなく壁にもたれて目を閉じた。


 もしかしてなんか起きて飛び出すよーなことになったら、怖くて腰が抜けたのよー、と言い訳することにしよう。女の子だもん。


「出たなー!」


 ほええぇ??


 寝てる間なかったじゃん、とまず思ってから立ち上がりながら、右足はもう階段を下に向けて蹴りつけていた。


 すごいじゃん、私、と感動しながら、さらに立派なことに、芽久らしき影を自分より後ろに確認して安心している。そしてさらに、男二人が自分よりも前に出てることを確かめもしている。偉いじゃん、私。


「逃げるな、こらっ」


 そんな中尾の声に続いて、暴れ騒ぐ音が始まった。ら、乱闘? 出たってことは、誰か来たってことだ。


 今夜張り込んでいたかいがあって、中尾は犯人を捕まえるために、ただいままさしく熱血デカ状態で、突進しましたところ、だよね?


 取っ組み合うケンカとかって、見たことない。今も見えないけど。こういう時って、こういう時って、えぇと、加勢? 私がー?


 どうしようどうしようと混乱する頭にやけに大きく、芽久のスカートのがさがさいう音が聞こえてる。続いて、芽久の声の方が、


「がんばれ、祐―」


 とか言ってるし。


 それはがんばって欲しいって私も思ってるとしても、ここで言うことは何か違う気がするし、だいたい言うだけではなく、何かできることとかないのか、私には。


――あ。


「おっしゃーっ」


 灯りが着くのと、中尾がそう叫ぶのと、同時だった。


 光。と言うか、妙に真っ白に映る世界。振り向いてみれば、電気のスイッチに手を載せたままの修平が居た。


 あ、それ。私にもできたことだ。思いつかなくて、ゴメン。


 がさがさの音が移動している。きっと中尾プラス犯人に近付いているんだろう。しかし本当に犯人なんてのが現れるとは。


 どれ、私もこの目で見てやろう、なんて顔を前に戻してみれば。


 中尾に腕をつかまれて……いる、男の顔って。


「佐々木、おまえ――」


「佐々木くん?!」


「佐々木くん」


「佐々木君?」


 最後、修平の声がとぼけていたのは、佐々木くんを知らないために。だったら言わなくたっていいのに、別に。


 しかも余計なことは覚えてなくていいってのに、すぐにわかった顔になって私を見るし。ハイ、そうですよ。私を追っかけ回してくれてる男です。


「おまえなのか? 犯人。オレのポスター盗んでんのおまえか?!」


 乱闘言うても殴る蹴るではなかったのね、と廊下に座っている二人の顔を見て思う。そうだ、捕獲したら良かったんだからな。


 迫力の中にもわりと冷静。今声を荒げているのを聞くと、とてもそうは思えないけど。中尾。


「なんだよ、祐。なんでおまえこんなところにいるんだ?」


「オレのポスターどこやったんだって聞いてんだっ」


 喚く中尾を珍しそうに、佐々木くんはきょとんとしていた。腕もつかまれたままで振り解こうとはしない。


 なにが起きたのかわかっているだろうか? 突然の予想しない出来事に、追いついていないということもある。当たり前だよ。ふつうは人は飛び出してこない。


 芽久ががさがさ座り込んだ。

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