第9話

「答えあわせができないと、凄さがアピールできないから生かしとくんだろうね、たいていは。つじつまが合うからって真相とは限らないもん。それは歴史のパターンだよ」


 そうきたか、と私は思って妙な議論をしている二人を見ていた。張り込み。そして犯人を捕獲し、動機を尋ねる。古典的にして即物的な手段だ。


 ポスターなくなって怒っているのは本当だろうけど、途中からこの事態の展開を楽しんでない? 中尾。刑事さんドラマみたいな真似、やってみたい『だけ』とは言わないけど。


「静佳ちゃんも行こうね。張り込み」


「え。私もかい」


「委員会動員すると話が広がっちゃうしさ、誰連れてこうか考えてるとこで、会って良かったよ。修さん暇だしね」


「言葉に気をつけろ。暇になったとこなんだ」


「私、ゆっくり寝ようと思ってたんだけど」


「おもしろそうだと思ってるくせに。後で話聞くより、現場にいた方が楽しいぞ」


「今日も来るなんて決まってないよ? だって」


「オレはまだまだ続くと見たね。まだ持ってってないデザインがある」


「だって別にそれが目的じゃないって話じゃないの?」


「他のポスターはついででカムフラージュだ、とか考えないか?」


 中尾がどうしてもって言うなら、この場はそれでもいいけどね。


 いったいどんな芸術ポスターを創りあげたんだか、一枚でも見ておいたら、思い入れが出てたかもしれない。


 参加してもし犯人が出てきたら、確かにそれはおもしろそうだ。家で寝ていて、明日三人から騒ぎの顛末を聞かされるより、その場で当事者になった方が楽しそうだと思ってしまう。


 行くか。芽久も心配だし。


 中尾は命がけで芽久を守り抜くことを、私は知っているけれど、一人じゃ足りない事態もあるかも。修平が混ざってたら、どんな災難を呼び込まんとも限らない。


「そだ、静佳ちゃん」


「ん?」


 いろいろな種類の災難を考えてたのを、頭の奥にしまい込む。できたら二度と出て来ないように、叩き出してしまいたいけれど。


「佐々木くんが探してたよ。商店街で」


「見失ったとか言ってたけど、ほんとはまいただろ」


 まーたっ、佐々木かよー。


「昨日でしょ? だって、凧探して急いでたんだもん。ちゃんと学校でって言ったよ、私」


 そうだよ、ちゃんと言ったんだよ。なのに家まで来るなんてやっぱ改めて迷惑。一晩中ひねくり回し、ついさっきまでいじっていた色だの恋だのが、中尾たちを目の前にして霧消した。


 そう、これが現実だ。修平だけでは私は、確かなものをつかめないらしい。


「なにおまえ、男に追っかけられてんの? 快挙じゃん」


「言葉だけ純粋に受け止めるとここはうなずくとこだよな。そう。何度かクラスに

訪ねてきてるけど、いつも会えないんだ、小野里忙しいから」


「あんたのファンだって変な男」


「立派な姿が目に浮かぶようだ」


 ものすごく絶対気が合うんだと思うわ。暇になったから、今度現れたら取り次いでやろう。そいで面倒なことは押し付けようじゃないですか。


 砂を散らかしながら立ち上がり、中尾の指示は、


「集合は闇の中っつーことで、十時ね。黒い服で。忍びの基本」


 忍者だったのか、私たちは。


 横では修平が凧の糸を巻き取りながら、夜の予定となった子供の誘いにうきうきしていてなんともはや。僕らは少年探偵団♪ ―――ふう。


 小林君の方が大人だよ。


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