第8話

 しかし、学校中の掲示板に貼りまくっていたらしいものに、私は気付かないでいたわけか。


 私事で恐縮ですが、私の学園生活、それでいいのかって気がしてきた。


「全部で何枚くらい作ってたの? 全部手書きなんでしょ?」


「勝負はインパクトだぞ。カラーコピーなんて姑息な手段はオレは嫌いだ。全部で二十二枚、デザインは六パターン。美術部の怪人たちフル稼働して、コーティングまでした立派なもんだよ」


 立派に……、お金かけて。予算、余ってんだろうか、あの学校って。


「納得いかないのは、掲示板そうざらって行ったってことなんだよな。オレらの力作だけが抜かれたなら、話はわかる。よっぽど気に入ったんだとか、それでもポスターとして役目を全うしていない段階だから、やっぱり腹は立つけどさ。献血だのクスリだののと同一に考えられてるってのが、頭くるとこなわけ。クスリはダメって、アイドルポスターだぜ?」


「まぁ、変な話だな」


「不可解だよね。それで不愉快」


「なんの価値もないポスター盗むってのはなぁ」


「オレが精魂込めて作り上げたげいじつさくひんを盗んでいくとは不届きなヤロウだ、って話だよ。わかってる? 修さん」


 思い切り失言をして、中尾に脅すように睨まれた修平は、年上だなんてところに優位の根拠を見つけられなかったらしい。話をスライドさせてごまかす。


「盗むっていうか、嫌がらせじゃないか? それ」


「嫌がらせ。なんで。オレが誰かに恨まれてるって?」


「それはないよー、祐には」


「ねぇ」


「うん」


 ……うーん。そうなんだよねぇ。


 修平が私の顔を見るので、私は小さく首を振った。芽久と二人でうなずき合っている通り、中尾は誰にも恨まれないのだ。


 わりに好き勝手する頭良過ぎ勉強でき過ぎ君が反感を買わないのは、本人がさっぱりしてる人情派性質だと言うこともあるけど、大きなところではとにかく芽久の存在だ。


 中尾は『芽久の祐』なのである。中尾を攻撃することは、芽久を悲しませることなのである。誰も芽久を傷つけたくはないのである。故に中尾は恨まれない。


 芽久はそういう、――子なのだ、そういう。


「万が一だとしても、中尾のだけじゃないんだもん。個人的にって、違うよね」


「犯人の目的は、『ポスター』だと判断すべきとこだろな。おまえらのピエタだけでなく」


「ついでに盗られたなんて、さらに気に入らない。屈辱だよ、他のポスターごときと同レベルかよ、あれが」


 今度はそんなことに怒るし。いろんな風に塞がるなぁ。


「でさ、犯行張り込んでみることにしたんだけど、修さんはこれは参加したいだろ」


「何決めてんだ」


「犯人捕まえたら真相わかるでしょ」


「それじゃ探偵の存在揺らぐんだよ。他に真相知ってるヤツがいるんだったら、そいつに聞けばいいんじゃん」

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