第4話

 あんなんで申し訳ないが、西野修平はミステリ作家であることが事実。


 シリーズによって売れ方に差はあるけれど、新刊はそれなりに積んでもらえる感じでしつこいですが、作家なのである。


 私の役回りは電話応対時においては筆頭秘書で、訪問客には小間使いとか紹介されるものなのだけれど、どんな方向から見直してみても、後者の方が正しく事実。


 時と場合で落ちたり登ったりするとしても、年間通して、本人談だからちょっと持ち上げますが、私は修平のマネージャーなのであった。


 しかしこのような低年齢向けグッズの並ぶ棚と棚の間を行ったり来たりしつつ、絶対にないものを求めて目をきょろきょろさせながら、販売員のお姉さんに怪しいやつと思われないで凧の在庫を尋ねる方法とかこれまた在り得ない物を探してる状態で、マネージャーとは恥ずかしくなる。


 辺りは幼児が走り回ったり、児童がデモゲームでバトルを繰り広げるべき場所。私が次にこの場所にふさわしくなるのは、出産後のことだとゆーんだ、修平。


 凧――なんて、どう考えたってないに決まっている。むやみに怪しいやつになる必要はない、ここは聞かずに撤退しよう。


 小さい弟妹のいる友達んちを当たってみたら、きっとどこかからは出てくるだろう。それすっごく迷惑だと思うけど、自分の評判落としてまでなんで私がやらなきゃなんないんだとも思うけど。


 友達減るよな、こんなんじゃ。


「小野里さん」


「ハイ?」


 それは確かに私の名前、というわけで声の方を見る。らぶらぶキャラクターグッズが山と積まれたワゴンを背負って、声の主は笑顔をたたえ、


「あぁ、良かった。ここで会えて。買い物中?」


「……そう。買い物……」


 とは、あまり言いたくはない場所だけど、他になんて言えるだろう。そいで誰? あんた。うちのがっこの制服。あ。


「もしかして佐々木君? 三組だとか言う」


「あ、聞いててくれたんだ。向坂さんに伝言で心配だったけど、伝わったんだね」


「芽久からはちゃんと聞いたけど……」


 そうか。私が対応しなかったら、芽久が役目果たしてないって思われるとこだったんだ。悪いことをしてしまってた。


 急いでフォローをする私の中で、佐々木君はすでにランク落ちしてる。私も悪いけどそっちも悪い。


 私に対して向坂芽久のマイナス方面に向いた発言は禁止条項だったのだ。


 そりゃ知らないことだとはわかるけど、動いてく感情を止める術なし。


「小野里さんが西野先生と親しいって聞いたんだけど、あと、お兄さん、警察に勤めてるって」


 なんの話だ?


「お兄ちゃんは警察の人だけど。西野センセイの仕事も手伝ってるけど? 隣住んでるから」


 もちろんそんな理由でこんな使われ方が許されるわけないんだけど、すべてはそこから連動しているわけだから。


 それに初対面に近い得体の知れない相手に、くどくどと涙なしには語れないを広げてみても仕方あるまい。


「そうだよね、お隣。聞いたよ。いいねえ」


「そう、かな」


 そうなんでしょうか。本当は。


「いいよー。すごい羨ましい立場だよ、小野里さんの立場って。代わりたい人たくさん居るよ」


 代わっていいぞう、もちろんだとも。特にたった今は見事にそういう気分だよ。


 あぁ、もう。面倒くさい。凧なんてもう自分で作っちゃえばいいのかも。小学生の時、手作りおもちゃ企画で一度作ったことがある。


 覚えてるとは思えないけど、探したら作り方を紹介してるホームページとかが見つかるかもしれない。大したことない材料で作ったと思うし、誰かんちの物置を荒らしてまわるよりはよろしいんじゃない?


 厚紙、割りばし……。こんなものじゃなかったか――


「あ!」


 記憶の中をさまよっている間に、ひっかかったよ、検索に! 手作りなんて言い出したら、用意してあるところがある。


 凧凧、そうだった。凧は伝統芸能だ!


「ごめん、今ちょっと急いでるから、また話は学校でっ」


「待って、小野里さん、聞きたいことがあるんだ――」


 フェイドアウト。


 引き止める声の途中から聞こえなくなるスピードで、私はエスカレーターを目指し、それも駆け下りた。


 目指せ、歴史資料館! なところなのだ。


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