第12話 俺たちは暗くなるまで一緒に勉強をする

 数時間後。


 嶋森と柚木崎は、諸々の必要なことを済ませに出ていった。その間に俺もある程度の用意は済ませており、ちょうど落ち着いたところだった。


 これから嶋森と泊まるのだと考えると、せっかく落ち着いてきた心拍が上がってくる。


 そうこうしているうちに、再び家のチャイムがなった。


「有坂せんぱーい、ただいまです」

「おう。……ってここ、お前の家じゃないけどな」


 戻ってきた嶋森と柚木崎は、ラフな服装に着替えていた。嶋森は髪を後ろでくくっていて、柚木崎は下ろしている。手には荷物を抱えていて、そこから本のようなものがはみ出していた。


「先輩もお風呂入ったんですね。よかったー、少し早かったら気まずい展開になるところでした」

「そんなことあるか」

「ありますよ。というか、嶋森先輩はちょっと期待してましたよね」

「きっ、期待なんてしてないです!」


 嶋森は慌てたように顔の前で手をブンブンと振る。

 俺は相変わらずのため息をつきながら、二人とともにリビングへ向かった。


「それでその荷物は何なんだ。行きは持っていなかっただろ」

「あ、先輩聞いちゃいます? 女の子のヒミツ」

「有坂くん、違いますからね。ただの勉強道具です」

「ああなるほど。ちなみに柚木崎の話は最初から聞いてないから大丈夫だ」

「えぇ! それは流石にひどくないですか……!」


 柚木崎は抗議するように俺をじっと睨むと、荷物を机の上に置き、椅子に腰かけた。

 嶋森も柚木崎の向かいに腰掛ける。

 俺は二人に習って、自室からワークを持ってきて、嶋森の隣に座る。

 嶋森が良い頃合いに、「では」と声を上げた。


「そう時間もないですし、始めましょうか。勉強」



 それから数時間、俺たちは黙々と各々の課題を終わらせていた。

 ぐーと体を伸ばし、時計に目を向ける。時刻はとうに八時を回っていた。


 もうこんな時間かと思い、顔を上げる。するとこちらを見ていた柚木崎と目があった。


「そろそろ遅くなってきたので、私はお暇しようかな〜と思います」

「そうか」

「嶋森先輩も疲れているようですしね」


 柚木崎はそう言うと俺の隣に目をやった。

 見ると、嶋森が机の上に突っ伏して、すうすうと寝息を立てていた。

 今日は何かと活動的だったし、仕方がない。

 柚木崎はそっと椅子を引くと、荷物をまとめて立ち上がった。


「というわけで、先輩。また週明けに――」

「いや。もう暗いし送っていくよ」

「いやいや、そんな心配しなくても大丈夫ですよ」

「いやいやいや。普通に危ないから、な?」


 小声で、お互いに引かない言い合いを繰り広げる。

 結局折れたのは、柚木崎の方だった。


「……そこまで言うなら……お願いします」

「おう」


 俺は手早くジャケットを取り出すと、柚木崎とともに玄関へと向かう。

 少し寒そうだったので、家を出る前に嶋森に毛布を掛けてあげた。

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夢は絶対じゃないんだよ、嶋森 夜野十字 @hoshikuzu_writer

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