第11話 クラスメイトは俺の家に泊まりたがる

「どうせ先輩、休日は一人なんだろうなと思って、久々に足を運んでみたのですが……必要なかったみたいですね」


 柚木崎は俺と嶋森を見比べると、心底楽しそうにニヤニヤとしている。

 俺は状況がまだ掴めていないであろう嶋森に向かって、俺と柚木崎について話した。


「言ってなかったが、俺と柚木崎はそれなりに家が近いんだ。徒歩で五分とかからないぐらいの距離だから、ときどきお互いの家を行き来するんだよ」

「つまり秘密の間柄ってことです」

「一旦黙ろうか」

「そうなんですね……へぇ……」


 嶋森は視線を彷徨わせた後、意味ありげな視線を柚木崎に向けた。対する柚木崎も、ニヤついたまま視線を返す。


 周囲の温度がぐっと下がったような気がした。

 俺は慌てて話題をそらそうと、柚木崎が手に下げていた紙袋に注目した。


「そ、それで柚木崎は何を持ってきたんだ」

「んー、差し入れですよ。主に洋菓子です」

「今日は嶋森もいるし、どうせならみんなで食べないか」

「ですね。でもその前に、一体どういった経緯でこうなったのか、じっくりと聞かせてほしいです」

「柚木崎さん、後でゆっくり話したいのですが、いいですか?」

「えぇ、もちろんですよ」

「ほ、ほら、早く行こう。な?」



 柚木崎が持ってきたのは、小分けされたマドレーヌやチョコブラウニーなどの、複数人で食べるのに適した洋菓子だった。


俺たちは銘々好きなものを頬張りながら、話を弾ませていた。


「なるほど、話は大体掴めました。つまり私は嶋森先輩から怪人だと思われていたわけですね」

「それは本当に申し訳ないです……。ぼんやりとした記憶しかなくて」

「いえいえ。言われてみれば私の服装も少し怪しかったので、仕方ないですよ」

「お前、俺に言われても聞き流すくせに。嶋森のときはすんなり受け入れるんだな」

「はて、いつのことでしょうか」


 いつのことだったか思い出せないくらい、何回もだよ。

 柚木崎はどこ吹く風とでもいうような態度を取りながら、嶋森の方に目を向けた。


「それはそうとして、嶋森先輩はどうしますか? もう事件は解決しましたが、それでもお泊りは続行なんですか」

「うーん……せっかく来たので、お泊りはしていきたいですね」

「なら、私は早めにお暇することにします」

「おい待て」


 すんなりと決まった重要事項に俺は目を見開く。


「泊まるというのは聞いていたが、まさか本気なのか」

「そうですよ。……本気じゃないと思ってました?」

「いや、そういうわけではないが」


 俺はてっきり、泊まることになるかもしれない、という嶋森の返信を受けたとき、宇宙人のようにひどく動揺しているのだろうと思ってしまっていた。

 さらに問題だった怪人の件も解決したのだ。もう泊まる理由はない……そう思っていたのだが。

 一女子高生がクラスメイトの男子の部屋に泊まりに来るって……。


「もしかして先輩、年頃の女の子と一晩過ごすのに恐れおののいてますか? 初心ですねぇ」

「誰が初心だ」

「まあ、何かあったら連絡くださいね。あ、惚気はいらないのでその時は追い返しますけど」

「どうして惚気けるんだ、ただ一緒に泊まるってだけで」

「えぇ! そんなの定石じゃないですか! 高校生の男女がひとつ屋根の下……あんなことやこんなことが起こり放題でしょう」

「起こらない!」「起こらないです!」


 好き勝手言う柚木崎に対して、俺と嶋森が同時に反論を唱える。

 柚木崎は終始、からかうような口調をやめなかった。


「嶋森。泊まるんだったら、風呂や食事はどうするつもりなんだ?」

「夜ご飯は、昼のように作るつもりでいました。お風呂は有坂くんお家のものを借りようと思ってましたが、近くに柚木崎さんの家があるのでしたら、そちらを使わせていただこうかと」

「私は全然ウェルカムですので、大丈夫ですよー」

「わかった」


 良かった。嶋森と交代で風呂に入るなんてことになったらまともでいられそうにない。

 俺は胸をなでおろし、大きく息をついた。

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