第10話 俺たちはゲームに夢中で時間が過ぎるのを忘れる
ゲームと一口に言っても、様々な種類のものがある。
だが、その中で俺がカセットを持っていて、かつおそらくゲーム初心者である嶋森もプレイしやすいものとなると、かなり数が限定される。
俺はしばし悩んだ末、よく巷で見かけるミニゲームがたくさん入ったソフトを選んだ。
コントローラーを嶋森に手渡しながら、俺は投げかけられる質問に答える。
「これは、どうすればいいんですか?」
「右のスティックで左右の操作ができて、左のスティックで上下の操作ができる。ただ、細かい操作は各ミニゲームによって違うから、その都度最初の説明を見たらいいよ」
「なるほど……! ちなみに、最初はどのミニゲームをするんですか」
「そうだなぁ……よく見かけるメジャーなやつだし、これかな」
俺は画面に表示されたコマの中から、ある一つを選択した。流れてくる障害物を避けながら、どちらがより長くダメージを受けずにいられるかを競うというものだ。
これなら嶋森とも和気あいあいとプレイすることができるだろう。
俺は久々に感じる闘志に胸を高まらせながら、コントローラーを強く握りしめた。
◇
結果は、俺が六勝、嶋森が四勝。そこまで勝っているわけでもなく、負けているわけでもない。まずまずな状態だった。
「あ! 見てください有坂くん! 自己新記録です」
「おめでとう」
「このまま勝ちますよ……!」
予想外だったのは、嶋森に好戦的な一面があるということだった。
明らかに嶋森が不利な状況でも、その熱量で戦況を覆し、さらにはそのまま勝ってしまったことも何度かあった。
普段おとなしいことが多いだけに、すごく強烈な印象を抱いた。
やる気に満ちている嶋森を横目に、俺は次の試合に移ろうと、画面を操作する。
しかし、事件はそのとき起きた。
――ピンポーン。
「――っ!」
響くチャイムの音に、嶋森の表情がこわばる。慌てて嶋森は時計を確認すると、「もうそんな時間……!」と呟いた。
「有坂くん。出ちゃだめです。あれが夢で見た――怪人です」
「そ、そうなのか?」
俺は恐る恐る後ろを振り返り、備え付けられたモニターを見る。確かに嶋森の言う通り、そこには黒いパーカーを着た人物が表示されていた。
あれが、例の怪人なのか……?
俺は目に力を込め、その姿を凝視する――って、あれ?
「もしかして……」
「!? 有坂くん! だめです行っては!」
後ろから聞こえる嶋森の制止を振り切り、俺はモニターに近づいてみて、先程の直感が確信に変わった。
俺は内心で結末に安堵しながら、玄関先に向かった。
鍵を開け、ドアチェーンもかけずに、一息にドアを開ける。
確かにそこには、黒いパーカーを羽織って、マスクを付けた人物が立っていた。身長は俺の目線ほどで、薄茶色の髪が被ったパーカーからはみ出ていた。
「あ!」
ふと、俺のすぐ後ろで嶋森の声が聞こえる。来客の姿を間近で見たことで、その正体に行き着いたのだろう。
俺はもったいぶることなく、相手の名前を呼んだ。
「……柚木崎。どうしてまた急にやってきたんだ」
「冷たいですねぇ、先輩。せっかく遊びに来てあげたのに」
そう言って柚木崎は被っていたパーカーを脱ぎ、いたずら気な笑みを浮かべた。
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