3.不等式
そのときだった。
下の方から母の声が聞こえた。
「美咲ご飯よー」
何も状況を知らない母の声はいつものように優しかった。
親には迷惑はかけたくなかった、でも辛かった。
階段を上がってくる音がしたのと同時に母の声が近づいてきた。
「ちょっと美咲寝ているの?入るわよ」
母が部屋の扉を開けた。
母が見た先には涙を流している私と、窓の前に置いてある椅子だった。
そこで母は勘づいたのだろう、なにも言わず窓を閉めて私のところに来て「ほら、寒いでしょう。おいで」とだけ言い、私を抱きしめた。
夜の風で寒く感じていた体は徐々に温かくなっていったのが感じれた。
「さぁ、ご飯にしよう。早くしないと冷めちゃうわ」
「うん、、、」
一階に行くと、机の上にはもうご飯が並べていた。
今日はたまたま私の好きな生姜焼きだった。そして夕食中に最近の話をした。
敏生の話を色々とすると気持ちが軽くなったような気がした。母はその話を真摯に受け止めてくれた。
夕食を食べ終えると母は冷凍庫から二人分のアイスを取り出してきた。
私はアイスを受け取り袋から取り出すと、母は横に座って来た。
「今だから言えることだけど、あなたが子供の頃は本当に大変だったのよねー。当たり前だけど赤ちゃんの頃は夜中もずっと泣いてて、お母さんも困り果てて、育児を投げ出しそうになったことがあるわ。でもね、それでもなんとかここまで育てて来れたの。それはあなたがこれからどう成長していって、どんな人と結婚していくのかが楽しみでね。それをちゃんとこの目で見たいからちゃんとこの手でがんばって育てようと決心したのよ。それから困ったときはいろいろな人に頼らせてもらったわ」
そして続けて母は言った。
「もしいま美咲がなにかに困っているなら、私でも良いし、友だちの由香ちゃんだって良い。誰かに助けを求めると良いわ。案外気持ちが楽になるわよ。完璧を求めなくて良い、求めるのは生きる気力よ。なにを糧にしたって構わないのよ。小さななにかに美咲が救われるのであればお母さんはそれで良い」
真剣に聞いていた私の目から涙が出てきた。
日頃から溜まっていた ”不安" と ”ストレス” が今、この涙から出てきたような気がした。
私は母に抱きついた。そしてその胸の中で気が済むまで泣いた。そして母は何も言わず優しく私を抱きしめてくれた。
終わりが始まり かんきつごんめ @mimude8729
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