2.方程式

「あ、、、」

私と敏生は互いに目が合った。

そして私は段々と自分の顔が熱くなっていることが分かった。

「ちょっと、なんでここにいるの?」

私は小さな声で敏生に聞いた。

「先生にゴミ袋を持ってきてって言われているんだよ。てかそっちも俺と一緒の理由?」

「うん、でもまさか敏生に会うとは思わなかった」

「俺もだよ」

お互い片手にゴミ袋を持ち、職員室を出て行った。


それからして敏生が話しかけてきた。

「てか、美咲はもう好きな人できたの?」

「そんな急にどうしたの?」

「いやぁ、ちょっと気になったから」

「今はまだ好きな人はいないよ。しばらくはできないんじゃないかな」

これから先、敏生と別れてから好きな人はしばらく作ることは無理だろうと思った。あのときは別れた衝撃というのは少なかったが、今思うとなんで別れてしまったのだろうかとか後悔ばかりが募ってしまう。

思い出してみると少し泣きそうになったがなんとか涙を飲んだ。

気づけばもうすぐ教室の前という所まで来た。

「そっかー。まぁそうすぐにはできるわけないよな。でも、美咲がどんな恋愛がどんな恋愛をしようが自由だし、それになにか言うこともないから安心してくれよな!」

「そんなこと分かってるって」

「あ、そうか。なんかごめんな気安く話してしまって。今度からは気をつけるよ」

「うん、じゃあまたね」

そしてお互い自分のクラスへと戻った。


傍から見れば今の私たちはカップルが二人で話しているように見えていたと思う。

それが私にとっては苦しかった。

ここまで来るのに何人もの人の前を通った。

先生の前だって通ったし、中の良い友達の前も通った。

もう別れているのに、付き合っているという噂が広まってしまえばもう私は限界に達する。

敏生の彼氏ということは嫌ではない。むしろ付き合っている頃は敏生の彼氏ということが嬉しかった。みんなに自慢したかったし、良い噂も広まってほしかったし、毎日が幸せだった。

でも今となっては自慢もしたくないし、そのことを誰かに話したいとも思わない。そして噂も広まってくほしくない。

もう一回あのときに戻りたい。そうすればきっと今も良い関係が続いていたのに。


家に帰り自分のベッドで横になりながらスマホを見ていると、ある動画が流れてきた。

その内容が『恋の方程式!これをすればあなたもきっと両思いになれる!!』というものだった。バカバカしいと思ったがとりあえず動画をひと通り見てみた。

(なにこれ、こんなの当てにならないでしょ)

動画の中で言っていることは全てでたらめのようにも感じた。


(こんなの信じるくらいなら早く行動したほうが良いに決まっている)と今の私はそう思うが、敏生と付き合う前の私だったら

『もっと早く知りたかったな』とでも思うだろうな。

これが心境の変化なんだと実感した。

昔の私はこういうのばかり信じていた、手当たり次第スマホなどで『両思いになれる方法』や『恋みくじ』などを見たり、していたりした。

でも今は違う。恋みくじの結果が良くても、行動するのは私自身だし必ずしも結果通りになるという保証は無いと捻くれた考えを持つようになってしまったのだ。私はスマホの画面を閉じ、天井を見つめた。


そんな自分が大嫌いだ。


私はスマホの画面を閉じ、天井を見つめながら考えた。

だから私は敏生にも振られるし、長続きしないんだ。

もういっそのこと消えればいいんだ。

ベッドから降り部屋の窓を開けた。外はもうすっかり暗くなっており、肌に

冷たい風が当たる。

下を見ると心臓の鼓動は速くなって手と足は震えていった。


こうなるなら、恋愛なんてしなきゃ良かったんだ。

        ごめんね敏生

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