第8話 そして次の物語が始まる

 ①から⑫までの12種類のサビアンシンボルによる一年間の占いが出来上がった。

 もうすでに選んで、この一年を表わしている象徴や傾向を知ったという人たちもいるかもしれない。


 気になった人にはいつでもこの占いを参考にしてもらいたい、そう考えて七色はタロットのように360種類ある中から12種類のサビアンシンボルをタロットカードのように一枚ずつを引いていた。


 (今回ご縁のある方々は、①から⑫の何番の数字を選んでいるでしょうか?)



 今回は春分からの1年間を占う、という形にしたのだが、それは占星術の世界でのお正月とも言える1年の大きな節目だからだ。



 地球の地上社会ではまず一月一日という元旦、正月がある。これはグレゴリオ暦という暦によってのもので、社会的な活動においての多くの国々で共有されている一年の節目だ。それまで日本では太陰太陽暦を使用していたが、明治改暦でグレゴリオ暦一八七三年(明治六年)一月一日からグレゴリオ暦が使われ始めた。これは私たち人間の社会的都合によって作られ、活用しているものなので人工的なものと言える。

 また、月の満ち欠けによるものが太陰暦である。新月から満月へ、満月から新月へと続く流れのサイクルを元にしている。新月から次の新月までの期間は約二十九日。ゆえに旧正月は日にちに固定されておらず毎年日付けは変わるということになる。旧暦元旦は、二月一九日頃の直前の朔日(新月)であり、一月二一日ごろから二月二〇日ごろまでを毎年移動する。これは月の引力の影響を受けるとされている潮の満ち引きがあるように、自然界の働きによる動きや流れを元にしているため、実際の私たちの身体と心に合うものだとされている。満月には高ぶりやすいとか、新月満月が女性の月のものと関係するなどという話もある。


 わりと知られているところではユリウス歴、他にも様々な暦が現在も世界には存在し使われているのが実際であり、世界中がたったひとつに統一されているわけでは無い。それが現在のカレンダーという実際の有り様なのだ。


 こうやって見ていくと、地球上での1年の始まりにも何種類かあるのだということになる。七色は多くの地球社会の人たちが使っている社会的な暦からでは無く、今回は占星術の世界でいうところの一年の始まりであるお正月という節目を採用することにした。これが春分である。たった一つだけを採用しなければならないというルールも無いわけなので、この際最低二~三つは併用していくということが逆に便利なのでは無いかと七色は考えていた。


 一つは、社会活動で便利な「グレゴリオ暦」毎年変わること無く一月一日が一年の始まりの日という過ごし方。

 もう一つは、体と心に合う「月の暦」で、新月を始まりとし、満月を成就の時とする呼吸のようなサイクルと共に生活していく一年という過ごし方。

 さらにもう一つは、春分という占星術での一年の始まりを意識した過ごし方。

 以上、これで三つの暦を同時に採用して生きる、生活していくことになる。三つの暦を同時に使う、と頭で考えるよりも自然に出来そうな気がしてくるだろう。


 加えて2024年、2025年、地球では大きな時代の節目となるタイミングだ。すでに今年の1月に冥王星という天体が二度目のお試し状態で山羊座から次の星座の水瓶座へと移動している状態である。これは9月頭には山羊座29度台へと戻る。それが今回で最後の山羊座入りである。11月下旬には再び水瓶座0度台に入り、そこからは先へ先へと進んでいく。もう後ろを振り返ったりはしない。


 さらに天王星、海王星という二つの天体もそれまで滞在していた星座を移動するのが2025年だ。三つの公転周期の大きな天体たちが揃って星座を移動していくということが続くのがこの二年の間なのである。


 これは時代の境目と言っていいだろう。社会も個人も大きな影響を受けることになるだろう。渦中には何も見えないし言えないが、通り過ぎた後にはどういう時代だったのかを語ることが可能になる。それはひょっとしたら歴史に大きく残ることになるのかもしれない。

 いずれにしてもひとりずつの人生において、大きな境目を越えていくために、何かしらのヒントになり得るものがあることで、それが役に立つこともあるかもしれないと、七色は考えた。



「これでよし」


「準備は万端です。いつ何時どなたがその気になってこの「春分からの一年」に出会って占うことになっても大丈夫です」


 少しでも役に立てるかもしれないことを想定して、店主はこの占いのセットを今回作っていた。その準備が終わったのだ。

 

 気が付くと地球ではかなりの時間が過ぎていたようだった。

 地球の風景の中にある数多くの世界中にある街という街は、とても忙しく人々は朝から晩まで時間に追われるような毎日を過ごしているようだ。というのは、この「七色書房」にやって来る方々から常々聞いているお話。

 けれど店主の七色は、追われて忙しすぎるというような体験をすることはない。

 この「七色書房」は街の中では無く森の側にあり、時に地球では無く星々と地球との間の何処かに存在しているのだ。


「街と森と、片方は人が住み活動する人工的な場所、もう片方は野性が生きている自然という場所。街の入口の先には人々の作り出した社会生活が広がっていますが、森は奥に進むほど大自然が広がっています。人の世の常識は通用せず、そこには人外が存在しています。相反しているようですが、これらは深く繋がっています」


七色はさらに呟いた。


 「地球をひとつの街だとしたなら、宇宙に存在している人間の居ない天体たちが様々な森でしょう。一見バラバラに天体は空間に浮いて点在し、それぞれが繋がっている道というものなど無いように思えますが、天体はその外側にある太陽系内の宇宙の空間というものに隙間無く包まれ満たされ触れられていて、どの天体にも例外無く、それを通して天体同士は繋がっています。地球という大地の上では、大気というものに隙間無く包まれ触れられている街と森があります」



 街の音は遠く、それは七色書房には聞こえて来ない。

 店主の七色が日々聴いているのは声無き声、音無き音の調べである。



 ころんからん、からん

(七色書房の扉の開く音)


 七色書房にこの日の一人目の旅人がやって来たようだ。


(今日は、地球では日食の日。日食は約半年ごとにやって来る大きな新月。この日食に七色書房ここにやって来るのだから、人生においての大きな節目であることは間違いないでしょう)


「いらっしゃいませ。ようこそ七色書房へ。お待ちしておりました」


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