さみしさの女神
@aono-haiji
第1話 さみしさの女神
小さな教会の北側の 白い壁の下
白い髪に黄土色の糸をいっぱいからめた
少女がいたのでした
彼女の胸に うっすらと書かれた文字
読める人いるのかな
ただの汚れた少女にしか見えないから
彼女が見つめ返してくれた人にだけ
読めるのです
「
だれも彼女の温もりなんか ほしくありません
やせた少年がひとり来ました
彼女の前に膝まづいて
彼女の胸にある文字を見ていました
彼女は目を閉じて静かに息をとめ
やわらかく目を開けました
「あなたに読めるの? 読めるなら読んでみて」
「………さみしさ ほしいですか」
「読めたのね」
「うん」
「じゃあ、そばに来ていいよ」
少女は白い手を伸ばした
少年はそこに自分の手を置いた
少女は目を閉じて くちびるを少しだけ開ける
温もりは わたしをずっと探し続けなければいけない
永遠にそれをすることは 無理なの
さみしさは ずっと離れずに
ひとつでいられる
あなたが選ぶのは さみしさでいいのね
うん
いっしょに行く?
うん
少女の白い髪の中から
黄土色の糸が一本 ほぐれ
風に吹かれて
頭上に舞い始めた
ゆくら ゆくら 上へ伸びていく
髪にからまっていた黄土色の糸は
その一本につながって ほぐれていく
そして ずっとずっと 高く
空へ伸びる
髪から うなじへめぐっていた糸もほぐれて
空へ 空へ 伸びてゆく
その糸の始まりは 彼女の胸だった
糸は彼女の胸の奥から
とぎれなく つらなり 伸びてゆく
ゆすら ゆすら 空へ伸びてゆく
糸は すこしずつ 彼女の姿をときほぐし
彼女のはじまりの前の姿に変えてゆく
彼女が生まれる前の その前に
やわらかい やわらかい いのちの始まりの前に
一本の糸になった彼女に導かれ
少年も 指の先から 糸になってゆく
指から 腕から 肩へ るるらん しゅるらん
糸になってつらなり 空へ 空へ 導かれる
ふたりが 遠い空に昇り 初めて見る世界
それは とても とても うつくしい光に満ちていました
親子が歩いていました
子供がお母さんの手を引いて言います
おかあさん ほら ねこちゃんが寝てるよ
あら ほんとね
手を つないでるよ
ほんとね 仲がいいのね
あっ だめよ そばへ行かないで
ここから バイバイ しよ
ほら ね バイバイ って
バイバイ ………ねこちゃん
さみしさの女神 @aono-haiji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます