第19話
この街から首都までは、歩いて一週間ほどかかる。馬には俺もロアも乗れないし、馬車に乗る金もない。
どうしようかと考えたあげく、首都を目指す商人一行を見つけて用心棒を買って出た。最初は俺達の実力を疑っていたが、街を出てすぐに現れた盗賊をボコボコにしてやったらすっかり信用してもらえた。
商人一行のリーダーに話を聞いてみた。
「ベルクラフト?ああ、まぁたまに話は聞くなぁ。なぁ!いつだっけ!……ああ、そう、そのときだ、あんときにな、布を大量に買い付けて孤児院に寄付した金持ちがいて、そいつが、ええと、そう!『これはベルクラフト様から受けたご恩を配っているだけだ』とかなんとか言ってな。大昔にベルクラフトが子供たちを助けたってんで、そのときからずっとやってる孤児院らしい」
どうやら、この大陸の人は普段話題にはしないが、ベルクラフトについて何かある人が多いらしい。俺の生まれた村の村人からは「ベ」の字も聞いたことがなかった。
「そうなんですね。どんな人だったんでしょう、ベルクラフトって」
ロアの無邪気な質問に、リーダーは少し考えた後答えた。
「さあな。でも、きっとものすごいお人好しだったんだと思うぜ」
三日ほど馬車に揺られて、俺達は首都についた。街も大きかったが、首都はそれどころではなかった。巨大な川に領土の北と東を守られ、西に山が広がり、南は森が覆いつくしている。多くの人間が多くの年月を費やして作られたであろう、巨大な道路が森を貫き街道として街までつながっているわけだ。
と、いうのは地図で見た知識。
人口、約百五十万人を住まわせる巨大都市の目の前まで来ると、城壁はもはや無限に思えるほど広がっている。
城壁のすぐそばにはこれまた巨大で深い堀がめぐらされており、頑強な作りの跳ね橋が掛かっている。
「首都に来るのは、初めてだ」
「私も」
俺は法国の東海岸沿いの村をめぐっていたし、今回初めて中央山脈に近づいた。こんなに北上するのも初めてだ。
人間というのは、こんなにも巨大なものを作ることができるのか。自分がちっぽけに思える。いや、そうでもないか。
「身分証を」
重厚な鎧に身を包んだ衛兵による、街よりもずいぶん長い入城審査のあと、やっと首都に入れた。街と同じように、ロアの身元は俺が保証金を払って保証書をもらった。
「さて、まずはどうしようか。昼食をとるには遅いが夕食にはちょっと早い」
「まずは宿に荷物を預けましょう。それから、ベルクラフトのことを調べられそうな場所を探してみるっていうのはどう?」
「そうだな」
ロアの提案に賛同して、俺達は宿を探した。いつもの通り二部屋を取り、それぞれ荷物を置いてから、宿を出る前に宿屋の主人に質問してみた。
「おやじさん、魔術師ベルクラフトについて知りたいんだけど、どこに行けばいいかな」
「お前さんたちは法国の身分証は持ってるか?おお、魔術学校の卒業証か、なら城の近くの図書館に行ってみると良い。俺も何回か行ったことあるが、なんでもかんでもわかる。あそこァすげえぞ、ああでももうじき閉まっちまうから、明日ゆっくり――」
俺達は主人の言葉も聞き終えないまま宿を飛び出して図書館を目指して走り出していた。
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