第18話

***


 俺は街をうろつきながらベルクラフトの話を探し回ったが、めぼしい情報は見つからなかった。ベルクラフトは技術書は死ぬほど書いているくせに、自伝のようなものが無い。俺が幼少期に読んだ「大魔術師ベルクラフトの旅」が売っているのも見つけ、パラパラと中を見てみたが、どうやらこれは後年になって寄せ集められたベルクラフトの逸話にもならないような思い出話を集めたような、いわば民俗学のような本だった。


「何の収穫もないな」


 少し肩を落としながら宿に戻ると、食堂には旅装備を外してゆったりしたシャツとパンツ姿でくつろいでいるロアの姿があった。


「ただいま」

「おかえり」


 俺も荷物を部屋におき、楽な服に着替えて食道に降りていくと、ロアが頼んでおいてくれた料理がちょうどテーブルに運ばれてくるところだった。


「ありがと」


 ロアは食事が好きだ。食べることにきちんとした執着があるらしい。こういうところで注文を任せると、こんな素敵な食卓になるのだと感心した。主食、メインディッシュ、サラダ、スープにデザートまで。ああ、路銀が少し心配になってきたな。いかん、そういうとこがあるから、俺はいつも食事が適当なのかもしれない。


 食事をしながら、俺は話題を切り出した。


「この街には、ベルクラフトに救われたことを憶えている人がいた。ひどく酔っぱらっていたが、その人は『ベルクラフトに救われた。魔物の群れを追い払ってくれた』と言っていた。あれはきっと酔って世迷言を話していたわけじゃなくて、ずっとずっと、何度も何度も繰り返して話している、あの人のプライドみたいなものなんだと思う」


「私も食堂で似たような話を聞いたよ。絵を飾っていて、先祖代々語り継いでるって」


「ベルクラフトは伝説を残していない。でも、こういう人助けはしていたんだと納得した。『大魔術師ベルクラフトの旅』はいろいろな人の思い出をまとめた本だったけど、確かにそういう感じだった」


「私はその本を読んだこと無いけど、でも『魔物の群れ』というのが気になるよね。普通魔物は群れにならないんでしょう」


「ならない。個体数が少ないから、群れるほどいない。そもそもやつらに仲間意識みたいなものがあるかもわかっていない」


 そう、魔物が群れを為すという事例がすでに過去に存在していて、ベルクラフトはそれに対処することができている。方法があるに違いない。そうでないなら、この世はとっくに滅びているのだから。

 ここは魔術が発達した国、法国。


「首都に行ってみよう。ベルクラフトの遺した物がないか探しに行ってみようぜ」

「うん。そうしよう」


 俺達の当面の方針が定まった。法国の首都へ向かおう。

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