第13話

 俺とロアを中心として、地面に衝撃が走る。魔物に物理的な攻撃は通らないが、それでも包囲網を崩すのには有効だ。地面が大きく波打って魔物を空中に弾き出したあと、何事もなかったかのようにすぐに戻る。


 宙に浮いた魔物たちをくぐるようにして、一気に駆け出す。左足から魔力を射出して、ロアを抱えるようにして、矢のようにまっすぐ飛び出す。


 包囲網を抜ける。


 よし!切り抜けた!


 その瞬間、右のふくらはぎあたりがカッと熱くなった。上空の魔物が突っ込んできていた。


「ぐぅッ!」


 背中のあちこちから痛み。魔物の刺突攻撃は物理的な攻撃ではないため、「骨で止まる」といったことが起きない。とにかく前にでないことには、死ぬ。


 右肩が貫かれた。抱えているロアを落としそうになる。歯を食いしばって、俺は左脚で踏み切った。


 世界を置き去りにするように、一気に加速する。

 矢よりも早く。風よりも早く。光のように。


 

 気づけば、俺は二日かけて歩いた道のりを十五分ほどで駆け抜けていた。全身の脱力感がひどい。ロアを地面に立たせた瞬間、俺は膝をついてしまった。脚に力が入らない。


「リヒター?リヒター!?」


 ロアの顔が俺を覗き込んでいる。ああ、そんな悲しそうな顔をしないでくれよ。俺は大丈夫だから。


「まずは傷の手当てを……あれ、治ってる……」


 ロアが俺の肩や背中を診ては、不思議がる。同時に、怪我が治っているのに立ち上がれない俺の状況に困惑しているようだ。


「ど、どうすれば……」


 ロアがずるずると木陰に引っ張ってくれる。俺は情けない気持ちになった。


「わるいな、ロア……ちょっと魔力切れみたいだ……ははは……」


 俺の左足で踏み切って魔力を足裏から噴出した勢いで加速する技(勝手に魔力跳躍と名付けている。恥ずかしくて人前で使ったことはないが)は、とにかく効率が悪い。連続稼働は恐ろしいので普段は使わないのだが、今は緊急事態だと思ってついやってしまった。


「魔力切れ……それって、どうすればいい?私になにかやれることある?」


 ロアは荷物をほどき、野外で使うシートを木陰に引いて俺をその上に寝かせてくれた。水筒から水を注ぎ、俺に渡してくれる。


「とりあえず、ごはん食べよ。何か用意するね」


 ロアはそう言って調理に没頭し始めた。食材が足りないと言って弓を持って五分ほどどこかに行った後、鳥を仕留めて戻ってきたかと思えば、鮮やかに捌いて動物が肉に姿を変えていく。


「すごいな」

「えへへ……ありがと」


 思わず感嘆が漏れた。倒れてから一時間ほどが経ち、だいぶ体調も戻ってきたため、さきほどから体を起こしてロアの調理風景を眺めている。


 やがて、俺の前には焼いた鶏肉のスライスと保存食のピクルスと近くでつんできた香草を挟んだサンドイッチと、茹でた根菜、スープが並んだ。


「わぁ……ロア、君、すごいね」

「今日までの旅の間中、ずっとリヒターにごちそうになってたから、今日はちょっと、がんばった……えへへ……」


 今日まで俺の持ち物から食事を提供し続けていた。一人旅の延長で、適当に済ませていた。パンをかじったり、干し肉をかじったり。野外で過ごすならそうなるものだと思っていた。


「今日から食事を君に任せたいよ。こんな素敵な食事にありつけるなんて思ってもみなかった」

「料理は得意なんだ。だから、リヒターがよかったらぜひ私にやらせて」

「ありがとう。俺もなんでも手伝うから、良い食事をしよう」

「うん」

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