ドレスの試着【KAC20247】
郷野すみれ
第1話
「うわあ、すごい……」
私は、目の前に立ち並ぶドレスに圧倒される。定番の白、そして、虹色のようにカラードレスが並んでいる。
今日は、ドレスの試着に来た。別に一人でも……とは思ったが、母親と、義母親となる卓人のお母さん、卓人の妹の千智ちゃん、そして卓人自身も着いてきた。
卓人曰く、
「なんで花婿となる俺が、ドレスを選べなくて俺の母さんと妹が先に見られるんだ!」
とのこと。
「これもいいんじゃない?」
「あれも似合いそう!」
「佐紀子ちゃん、あれは?」
女性陣三人に一斉に話しかけられて、私は混乱する。
「あの、えっと、待って……」
「佐紀子のウエディングドレスなんだから、決めるまで待っててくれ」
卓人が止めに入ってくれた。正直ありがたい。
「ちょっと、一通り見てきます」
私の体型は中肉中背。この間結婚式を挙げた私の友達は、小柄で、選べるドレスの幅が狭まったと言っていたが、幸い私にはそういう心配はない。
白いドレスと、お色直し用のドレスを一着ずつ選ぶために、二、三着ずつ試せるらしい。
「これと、これでお願いします」
まず白いドレスは、普通のシンプルな形のビスチェのものと、レースが全面に付いているマーメイドの形と言えそうな長袖のものを選んだ。
一着目。
「おお、似合う!」
「いいね!」
卓人が真っ先に似合うと言ってくれた。他の人たちの反応も良い。私自身も鏡を見て特に違和感は覚えなかった。
二着目。
「うん、上品。いいね」
「顔が負けてない?」
「レースの方が派手」
服の試着では全肯定botと化す卓人は置いておき、他の人たちには辛辣な意見を言われる。私も、鏡を見て、「これはもう少しスラっとしていて顔が派手な人が似合うものだな」と思っていたので、特に異論はない。
「一着目でお願いします」
「こちらですね」
次はカラードレスだ。卓人と一緒に回ってみる。
「卒業式の袴は何色だっけ?」
「オレンジ。どうせだったら違う色の系統がいいかな」
「くそっ、見に行きたかった……」
「はいはい。あとで写真見せるから」
虹色の中を歩いているが、なかなか決まらない。
「うーん」
ふと、ピタッと足が止まる。
「青、とか紺色?」
「うん」
目が惹かれた。
「小学生の頃、水筒とか佐紀子、水色とか青持ってたもんな」
「あれ、そうだっけ?」
卓人に言われたのは、まさかの私が忘れている思い出だった。
「最近の小物も紺色が多くね?」
「たしかに……」
青から紺色のドレスから、試着をして、裾に向かってふわっと広がる柔らかさと、刺繍の繊細さが特徴的なドレスを選んだ。
「次は卓人だね」
卓人のタキシードを選ぶ。
オーソドックスなタキシードを選んで、試着室から出てきた決まった卓人を見て私は呟く。
「やっぱり、あなた、顔が派手でいいわねえ……」
卓人は苦笑し、他の三人は惜しいという顔をしていた。
ドレスの試着【KAC20247】 郷野すみれ @satono_sumire
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