月の感情

@bigboss3

第1話


 眼下に月夜が光か輝き、地面に転がる機械と血肉を照らし出していた。それは幾重にもわたって混ぜ込んだサラダのようにかき混ぜられて、部屋を散らかしていた。そして壁には絵の具で乱暴に筆を使って赤く塗りたくられた赤い液体が帯を作っていた。

少年は黒いグローブに包まれた手で眼前にいる美しい薄い青色の長い髪に全身を包み込むバトルスーツの少女にカービン仕様のHK416を向けた。その少年は茶色がかかった髪に女の子に近い顔つきと、その細見を覆う、黒のコンバットマッスルスーツが月夜に照らし出されている。

「私を、ここで手に掛けるの?」

 彼女は笑いも怒りもせず、ただ冷静に少年に質問する。

「それが僕の目的であり、上に命令された任務だから。」

少年もまた笑いもせずにただ無表情に、目の前のターゲットに照準を合わせる。

「自分がやろうとしていることが、どれほどの罪か知っても。」

彼女は紺の手袋に覆われた両手でお腹を摩りながら少年に質問する。彼女の左手にはFNP90が握られていた。

「そのために、ここにいる人間や機械はこの世から退場してもらったんだ。」

そういって少年はスクリームのように恐怖で歪んだ男の頭部をサッカーボールのように蹴飛ばした。頭は変な歩行にねじ曲がり口から血が流れ出た。それを行った少年の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。彼女もそれに気が付き一つのしずくを流した。それは彼女にはありえないものであった。

 二人は互いに銃口を向けあい、引き下がることのできないラインに足を踏み入れようと指に引き金を引く力を与え始めた。

突然、黒ずくめの赤いゴーグルをつけた大人達が、銃を構えて二人を囲い込んだ。少年と少女は一瞬口が開いて事態に困惑したようであった。

「あなたが呼んだの?」

「違う、これは僕には聞かされていない命令だ。」

彼女は銃を彼から突入してきた隊員に向けた。少年もまた持っていたライフルの方向を敵に向けた。

「今は一時休戦だ。」

「その方が現実的ですね。」

 二人がそのような会話をした直後二人の顔はまるで遊びを楽しむ無邪気な子供のような表情をしたかと思うと瞬間移動のような身のこなしで、目の間にいた二人の頸動脈を切断した。

隊員の喉からチューブから出る水のように赤い液体が飛び出た。二人の瞳はまるで実験を楽しむ子供のような輝いた瞳であった。



ミキスト・サトルは体半分が地球人類ではない。彼の遺伝子は地球で起きたジーン・インパクトとによって人間とは別の方向に進んだ生物になりつつあった。

ジーンインパクトとは21世紀の中ごろに降り注いだ隕石群によって起きたい遺伝子の急速な変化とそれに伴う進化事件である。これはある天文台が発見した流星群の襲来が予想された。幸いにも直接的な被害はほとんど出ることもなく。誰もが流れ星に願い事をかなえる程度の思いで見つめていたが、この流星群には別のものが混じっていることを後に知ることになった。

それから数日の後に子供たちを中心に、肉体頭脳に至るまで成人はもとより鍛え抜かれた人間をはるかに凌駕する人々が登場し始めたのである。そして、その人々を中心に自らを新たな人類、もしくは人類を超えた種と宣言し、旧人類の交代を宣言した。

後になって分かったことなのだが、燃えずに残った流星群の中から未知のDNA体が見つかった。さらに、そのDNAは新人類のそれと同一のものであることが判明した。

それはパンスペルミア説の実証を証明するものであった。そこから科学者が導き出した答えはこうである。流星群に乗ってきた遺伝子は地球に飛来して、そこで燃え尽きずにやってきた遺伝子はウィルスか何かと結合しそれが人に感染して、遺伝子の結合と進化を促したというのが推測であった。

これを重く見た各国政府はワクチンの開発や感染者の隔離などを行い感染拡大に力を注ぐが、新人類を自称する感染者たちは人権侵害だと強く訴え、隔離したい感染者たちの救出やテロ活動に終始し、いつしか戦闘状態にまでなっていった。

話をサトルに戻そう。サトルは親子とそろって流れ星を見つめ、立派に育つように願った。その時彼に感染したと思われる。そして彼は人間ではありえないくらいに頭脳身体、心に至るまで発達していった。

そして政府の検査で感染が発覚し、彼はすぐに親元から引き離され、隔離病棟に監禁された。そこで彼はいろいろと検査実験を受け、何度も返してほしいと訴えながら苦しんだ。そのようなことが2年半続いたある日、謎の部隊が隔離病棟を急襲し監禁されていたサトルを含む複数の感染者を助け出した。

後にサトルはその部隊が新人類を中心に結成された特殊部隊であることが分かった。彼等は自分達が神こそ信じる信じないは別として、自分達はチャールズ・ダーウィンの進化論とパンスペルミアによって生まれた新たな生命体であることを伝える。幼く、疑うことを知らない彼にとってその言葉はまさに魔法の洗脳術そのものであった。

そして彼等の言葉を真に受けたうえで、彼らの組織に参入。そして一種の選民思想が負の形で彼らの中に浸透し、感染していない人々を豚や猿以下に見下し、その駆逐もしくは彼等にも同じ遺伝子を与える戦いを始めた。

特にサトルの戦闘能力は他の新人類よりずば抜けていて、単独に潜入し、単独で敵の部隊を壊滅させるなどその戦闘能力は新人類の中で、史上最年少の力を持っていた。それは新人類の間では伝説として語り伝えらえるまでになったほどである。

そんな彼にある任務が与えあられた。それは天才科学者Drニールスの研究施設の破壊と彼女を含む一族の抹殺であった。

Drニールスは二十一世紀の中ごろにヨーロッパの小国の没落しかけた特権階級の一族ニールス家の娘として生まれる。幼少期から英才教育と知能強化実験で高い頭脳を発揮し、飛び級で欧州の大学を最年少で博士号を取り、更に遺伝子学、生物学の分野で高い才能を発揮し各地で賞をもらった天才女性である。しかし、彼女は幾多の研究上からの誘いを蹴り、彼女は独自の研究を進められていると伝えられる。勿論自分の遺志で病院には務めていることは知られていたが。

 なぜ、自分が選ばれ、なおかつ単独なのか聞いてみると、Drニールスはかつて僕がいた隔離病棟で勤めていたことがあり、そこでサトルの遺伝子を研究所の意向を無視して、勝手に入手して、更に彼の遺伝子を使い大量のクローンの増産を企てているのだという。彼女はそれを各国の兵器産業や軍、テロリストや民兵組織に至るまでそのクローン兵や新人類の増産技術を世界に売りこみ、没落したニールス家の復権を目論んでいるのだという。

勿論、全て話を鵜呑みにしたわけではないのだが、自分の遺伝子を兵器運用することは彼のモラルから完全に逸脱していることを受けて、彼はこの任務を了承。単独で各重鎮たちを招いて行われるパーティーが行われる、ニールスの邸宅に向かっていったのであった。


ニールスの邸宅から500mは離れた小高い丘にサトルは双眼鏡で中の様子を窺った。中には各国の軍の関係者や首脳陣、更には兵器関係の重役に至るまで、いろんな人物がワインや高級料理が載った皿を片手に愉快な話をしていた。

「そりゃ、楽しいパーティーになるだろう。最もこれからお前達は楽しいサプライズが待っているけどな。」

 そういうとサトルは双眼鏡をしまい込み、潜入の準備を始めた。それは小型のグライダ―を準備して、小型動力を無音の設定にして、飛行準備にかかった。

「よし、この坂なら助走がついて浮き上がるぞ。」

 そういってサトルは、丘のてっぺんから勢いよく駆け出し始めた。そして簡易の翼とエンジンは紙飛行機のようにふわりと浮き上がりそこから揚力を得て高く飛びあがった。

 その空はダークブルーをさら黒くしたかのように暗く吸い込まれそうなくらいに闇がつらない李其間を赤や青といった明るい点が暗闇を照らそうとしていた。しかし、その光は彼を照らし出すにはあまりに非力で小さい。その中で力強く照らし出されていたのは地球から最も近くにいる月の明かりだった。その光は月面の月が肉眼でも見えるくらいに明るいがそれは太陽の力を借りているからわかるからだった。

 その光に照らされてサトルの乗ったグライダーはニールスの邸宅に音を立てずに飛んでいく。不意に誰かの視線を感じ取った彼はその視線の方向に肉眼で拡大してみた。それは警備のためについた人間と思われた。その人物は全身を戦闘用スーツで身に包み顔を見られないようにマスクで覆っていた。その人物は肉眼を拡大して無線機に手を伸ばそうとしたのをサトルは見逃さず、即座にサプレッサーのついた銃で照準を合わせて引き金を引く。プシュッというこもった音をした数秒の後、その警備員は心臓を一突きにされてその場で崩れ落ちた。そのことを見ていた人物もいたようだがサトルはそれもまた見逃さず引き金を引き沈黙させながら、屋根に向かって飛んでいくのであった。


 天井の上に着陸するとサトルは監視塔の警備員たちの目線をよけながら天窓についた。そしてその天窓に箱状の物体を準備してそのパーティーの客の下にめがけて落とした。人々はガラスの割れる音とその音と共に落下した物体に驚き、慌てて逃げ出す。その後、その音のする物体に恐る恐る近づき、その物体に近づく。

 一方のサトルはその物体から全力で離れある程度まで離れたところで端末にタップをした。次の瞬間凄まじい爆音と光がとどろき、その光と共に爆炎が部屋からあふれ出て、周りにいた多くの人々に破片が突き刺さり、それに合わせて巨大な火炎が彼らの皮膚を焼き焦がして、後方に蝶の形を作って吹き飛ばした。中には窓を突き破って、そのまま崖から転落して海の中に消えていくものまでいた。

 爆発を確認したサトルはHk416を取り出して、再び天窓に向かい、ロープを取り出しラぺリングの準備をした。ここから生き残りがいないか確認し、必要とあればニールスの居場所と彼女の研究施設の場所を聞きだし、残りは処置をするというのが方針であった。彼は縄とロープを取り付けて、降りる準備を始めた。そして割れた天窓を滑り降りるように下に降りていった。そこで彼の目に映ったものは、瓦礫の山に変わった。かつての宴会場とハンバーグになる前のひき肉なった肉片と彼らが食べていたローストビーフと同じ焼き加減になった人の形をした物体であった。死体の中に爆発で吹き飛ばされ、その衝撃で死んだのか、服に血の跡や破片の突き刺さっている様子はなく、ほぼ無傷の状態にもかかわらず、まるで糸の切れた人形のように変な形に体をひねりながら、ものひとつ言わずにただ眼を見開いてじっとしているものがあった。

 そんな阿鼻叫喚の状況をサトルは冷静に辺りを見回して倒れている人物に息がないか、または、その死体の中にニールス本人の物がないか確認した。

「た、助けて……。」

 その声を聴いたサトルは振り向くとお腹に柱が突き刺さった中年の男が助けの手を伸ばしていた。勿論サトルの取った行動はその人物にとどめを刺すことだった。彼は銃を彼の頭に向けるとまるでおもちゃを見つけた子供のような表情をしただけで男の頭蓋骨を破壊した。

「ああう……。」

 振り向くと今度は焼けこげたドレスを身にまとった女性が泣きながら助けをもとめてよろめいていた。そんな女性に対しても彼は楽しむみたいに迷いもなく引き金を引いた。女性は口から出していた血の量とは比べ物にならない量をリバースしてそのまま前のめりに倒れた。そうしながら、彼は生命反応を自分の感覚を手掛かりに虫の息のパーティー参加者にとどめの一撃を加えていった。目撃者は生かしてはならないと一応の命令を加えられていたからである。

 そして2、3分もしないうちにパーティー会場だった瓦礫のたまり場に生けとし生けるものは粗方、見当たらなくなった。

「よし、これで任務の一つは片付いた。」

 そう思って、今度はニールスと彼女が所有している研究施設の捜索に移ろうとした時だった。瓦礫の音が聞こえてきたかと思うと、そこに自分と同じくらいの年齢をしたメイドが現れた。そのメイド服の女の子は華奢な体からは想像もつかないくらいの力を持っているみたいで、大人ですら持ち上げるのが困難と思えるほどの瓦礫を押しのけて、ケガ一つ負っていないかのように起き上がった。サトルは条件反射的にそのメイドの女の子に照準を向けた。

「まだ、生き残っていた奴がいたのか?」

 彼はその自分と同じくらいの人物に照準を合わせた。その女の子は少し慌てたそぶりを見背ながらも、平然とした態度でこちらを見つめていた。

「お前、名前は?」

 それは今までの彼とは打って変わっての質問タイムであった。

「私は、ニールス・フォーエイ。ここでお世話係をしている物です。」

 その答えに彼は少し首を傾げた。そのかわいらしい姿形とは似つかわしくなく、冷静無上で、笑顔こそ作るものの、その笑顔はどこともなく作り物に近くまるで人形を想像させる雰囲気であった。

「それじゃ、フォーエイ。単刀直入に聞く。Drニールスは今どこにいる?」

「あなたが殺したのではありませんか?」

「遺体は損傷が大きかったが、そのどれもニールス本人ではなかった。」

 彼は警戒の顔色をにじませながら引き金の引く引かないの境界線で彼女をにらみ合う。

「さすがですね、ただ単に爆殺するだけではないということですね。」

「ということは、博士はいまだに生きているということなのか?」

「はい、博士はあなたに狙われているという情報を入手したみたいでしたので、このパーティーの主役でありながら病気名目に部屋にこもっていました。」

「じゃあ、博士の研究施設はそこにあるのだな。」

「残念ですが、そこに博士の研究施設があるのかは知りません。いえ、たとえ知っていてもあなたのような輩には教えるわけにはいきません。」

「それなら、お前の体に聞くしかないな。」

 そいうとサトルは銃口を彼女の足に向けて負傷させようと引き金を引いた。しかし、その銃弾は彼女の愛に命中しなかった。というよりも彼女の足が弾丸を避けたという感じであった。変えは一瞬驚きの顔を見せた。どうやって避けたのか。自分の筋肉を読んで弾丸を避けているのか。いや、というよりも何かを視認して避けたといった感じだった。まさか、弾丸を視認して?人間にそんな芸当ができるわけがない。

 彼の思案はすぐに次の展開によって大きく吹き飛ばされることになった。事態を受けてやってきた警備員たちが次から次へとなだれ込んできたのだ。サトルは考えるのをやめて、すぐにその場から逃げ出すことになったのだった。

 

 サトルは慌てて隠れながらDrニールスの居所を探し回った。ここは奴と奴の一族が暮らす邸宅。その部屋を一つ一つしらみつぶしに探し、彼女と彼女の研究施設を探すのはいくらなんでも時間と労力がかかりすぎる行動だった。そこでサトルは頭の中で推理をすることになった。生き物の中で一番エネルギーの消費の激しい脳をフル稼働させてサトルは思案した。

 もし人間が病欠を理由に部屋の中でこもるのであればどこであろうか。少なくとも他人の部屋ではないことは確かだ。では、人間が一人になりたいところか。それなら、自分の部屋だ。よし、まずは奴の部屋を見つけることにしよう。

 そう考えたサトルはすぐに部屋の見取り図を出すと、部屋の状況を確認した。部屋の中こそ入り組んではいたのだが、場所をくまなく見通してみた。するとある場所が目についた。それは普通よりやや大きめの部屋であった。その部屋はかなり奥まった場所にあり、そこは普通は誰も入ることができないところであった。サトルは直感的にここかもしくはこの部屋の隠し部屋か何かにニールスはこもっているに違いないと考えた。サトルはすぐに行動に移った。まず警備員の一人を捕らえ情報の一部分でもいいから聞きだすことに決めた。彼はここらエスケープからハンターに切り替わったのであった。

 彼は耳を研ぎ澄まして、足音がどこから響くのか確認した。そして足音の一つがこちらの方向に近づいてくることを察知して彼は息を殺した。そして警備の一人がその足の音をばたつかせながら、彼の隠れているところを通り過ぎようとした時だった。彼は近接格闘術で相手の銃と警棒を弾き飛ばし、格闘戦に持ち込み、背後に回り込んで警備の人間の首元にナイフを突きつけた。警備の人間は必死になって振りほどこうと抵抗するが、締め技がうまいらしくほどくことができなかった。

「Drニールスの部屋まで案内してもらおうか?」

「いやだと言ったら?」

「また別の警備員を探すまでだ。」

サトルはナイフを警備員の喉元になぞるように突き付けた。

「この角を曲がって、奥の行き止まりになった所に隠し扉ができている。」

その警備員はマスクをしているせいか電子音声で声が機械的に部屋を引き渡らせていた。

「わかった、この奥の方角だな。」

尋問が終わるとサトルは喉元に突き付けたナイフを一気に深々と突き刺しその血しぶきを、部屋全体にいきわたらせた。

警備員は失血性ショックを起こして、意識を失いそのまま心臓と脳の機能を失った。

口封じを終えたサトルは血で染まったナイフを手で拭き取り、男の話した方向に進んでいく。角を曲がってその奥まったところについた。そこはどういうわけか、扉が全く見当たらず、ただ壁だけがあるだけに見えた。しかし警備員の話だと、この先に隠し扉があってそこがニールスの部屋になっていると話していた。サトルは念のため壁の周囲を叩いてみた。古典的だが、この方が正確でなおかつ、装備に頼らない方法だった。身長に叩いてみると人一人入れる大きさ、つまり扉サイズの縦長長方形に空洞ができているということである。

「ここに空洞があるということは、どこかに仕掛けか何かあるはずだな。」

そうつぶやいたサトルはどこかに扉を開ける何かがないか調べ始めた。さっき見つけた空洞は勿論のこと、左右上下の壁や天井床に至るまで叩きながら調べ回った。しかし、おかしなところはどこにも見つからない。サトルは首をひねった。ではニールスや研究職員はどうやってここを出入りしているのか。頭の中を高回転させながら知恵を絞りに絞りまくるが答えが出てくる様子が全くなかった。

サトルが芯にふけっていた時に不意に誰かが近づく足音が近づいてきた。サトルは銃を構え、迎撃の構えを見せた。しかも、複数の足音が聞こえてきた来た。ここは袋小路。逃げ道も隠れる場所も見つからない。どうすればこのままだったら、いくら自分でも不意を突かない限り、生き残ることができない。待て、不意を突く、誰も思いつかない場所に。その時頭の中に電灯の明かりがともる感覚をサトルは感じ取るのであった。

2分もしないうちにその足音の主たちは現れ出た。それはニールス・フォーエイとそれを守る警備員の一団だった。彼女はサトルが博士と研究施設を狙っていることを警備員に伝え、彼女を守るためにやってきたのだ。

「扉の様子はどうですか。」

警備員は丁寧な言葉使いでフォーエイに質問をする。どうやらこのメイドの女の子は一族たちと同じ扱いのようだった。

「見た所細工された様子はありません。」

「博士の身の安全を確認した。開けてもらいますね。」

「はい、待っててください。」

そういうとフォーエイは壁に手を置き、目を大きく見開いた。すると扉が何かの言語のようなものを口走り、それと共に何もなかった壁が上にスライドして、人が入れるサイズの穴が開いた。どうやら、彼女自身が鍵の役割をしていたみたいであった。

「扉が開きました。皆さん。早く博士をお守りに」

フォーエイがそう言いかけたとき、彼女は驚くべきものに視線が向いた。その視線の先、正確には天井の真上に、サトルがトカゲか虫のように張り付いて、こちらを見下ろしていた。その瞳と表情はまるで新しい発見をして無邪気に喜ぶ子供の顔であった。それを見つめたフォーエイは指を指して警備員に示した。警備員は思わず後ろを振り向こうとk日を動かすが、それよりも先にサトルの動きが一瞬早く、即座に天井から一回転して、目にもとまらぬスピードで着地した

その間と着地後にライフルの弾丸を放ち、警備員の頭蓋骨や心臓付近に弾丸を放って、倒しにかかる。頭に銃弾を受けた警備員は即死をしたみたいであるが、心臓近辺にはなった銃弾を受けた警備員は、倒れて30秒もしないうちに起き上がり始めた。どうやら特殊房団服を着込んでいるみたいで、しかもその防弾能力は通常のアイフル弾を完全に封じてしまうものであったようだった。

地面に着地したサトルはすぐに事態を把握して、近接戦闘術に切り替えナイフを取り出すと、まず、最初に起き上った一人を盾にして弾が撃てない状況に陥らせた。しかし、警備員は動じる様子もなくただ平然とP90をこちらに向けた。そして何のためらいもなく、むしろ何のためらいもなく、引き金を引いた。弾丸は人質の盾に何発も命中し、さすがの防弾服も貫徹して警備員の肉体に蓄積された。

 人質の意味がないことを悟ったサトルはすぐに息の新井人質を一人の警備員に押し当て、その勢いに乗じて、ナイフを一本で相手の首を一人、また一人を深くえぐり、そこに通っている動脈や神経を破壊して即座に機能を停止させた。

最後に残った、警備員はフォーエイを守るために盾になったが、サトルは迷うことなくナイフを首に突き刺し戦闘不能にした。フォーエイはその様子を楽しそうな笑みでみつめているだけであった。

一方のサトルは今までの行為をまるで遊びに興じる子供の用に無邪気な顔をしていた。

「楽しかった?」

このような修羅場の状態に出た言葉がそれだった。普通ならドン引きするような言葉である。

「ああ、人間を殺すのはトランプをするより楽しいよ。」

その異常としか形容しがたい言葉に異議を唱える者はいなかった。ここにいる誰もが物言わぬものに姿を変えていたのだから。

「扉を開けてくれてありがとう。後僕が代わりに行くから。」

今までの無邪気の顔からシリアスな真面目顔に早変わりして、銃口を彼女に向ける。

「博士を殺すのですか?」

「命令ではそうなっているけど、場合によっては生きたまま捕らえることも視野に入れるけど。」

「実は、貴方にはまだ行っていないことがあるのです。」

「なんだ、言ってないことって?」

「それは全てが終わってから話します。」

サトルは疑問を感じてはいたのだが、今は彼女にかまう暇がないことを理解していたため、すぐに開いた出入り口に向き直り、ニールスの部屋の中に入っていった。その様子をフォーエイはお腹を摩りながら見届けるのであった。


部屋に入ったサトルが目に入ったものは、自分が考えていた科学者の部屋とは多きかけ離れたものであった。彼の想像として部屋は散らかり放題で、書類や研究論部が床に積み上げられたという考えの物であった。しかし、それとは違う意味で大きく変わっていた。部屋は子供ができたときに使う、おもちゃやケージなどが置かれていた。それはあたかも子育てのために用意されたものそのものであった。

サトルは、その光景に圧倒されながらも、博士の研究施設がこの部屋のどこかに繋がっていることを想定したうえで、どこにそれがあるのかを考えながら探索した。

府と、どこからか風が流れていることに気が付いた。サトルはその風の吹く方向を振り向くとさっきのゲージから風が出ていることに気が付いた。

サトルは、そのゲージを軽く押してみた。ゲージは軽々と横にスライドして、舌に地かえ通じる扉があった。普通に扉を開けるとしたは階段状になっていた。サトルは確信が付いたと思い、海中電とを片手に下に慎重に下りていくのであった


「ここが、研究施設か。」

サトルが地下に歩いて、200m位進んだ時に、目の前に厳重にシールドされた扉が聳え立っていた。彼は情報端末に記載されていた暗証番号を打ち込んでその扉を開けに入った。情報は正しかったみたいで、あっけないほど扉が金庫のような動きで開き始めた。巨大なハンドルが重い音を立てながら回転を始めて、厳重に差し込まれた巨大な金属の棒が左右に動き始めて、仕込み口から完全に離れていった。そしてすべての金属の棒が外されると、その重苦しい、重厚な金属の扉はゆっくりと重い音を立てながら開いていき中に封じ込まれた研究施設を露わにしていく。

 研究室の中には、いろいろな機材が部屋に立ち並び、そしてその中に入っている培養層の中には、人体の一部と思われる肉片が培養液にいれられた状態で保存されていた。

 サトルは、それが自分達から取り出されたものだと感づくには数秒の時間で事足りた。

「ひどい、いくら何でもこんなことするか?」

 サトルはひどい嗚咽を感じる思いをしながら、部屋の散策を始めた。ふと、耳もとに人の耳には聞こえない、撃鉄を上げる音が聞こえた。彼は秒単位の動きで察知して振り向く。次の瞬間彼の目に写ったのは、科学者風の恰好をした美人女性がコルトガバメントを構えた状態で引き金を引き、その団が飛び出るところであった。本来は秒単位以下のスピードであったが、彼の時間間隔では分単位の事に感じられた。彼はその長い時間を十分に生かして、弾丸を視認してスルリとかわして、即座に銃口を飛んできた方向に向けた。

 その方向には白衣を身にまとい、割れ欠けた眼鏡をかけ、髪が乱れた女性が鬼の顔をしてこちらを見合っていた。

「Drニールスだな。」

 サトルは目を凝らしながらその人物に質問する。その女性は子供のように頷く。

「あなた達には抹殺指令と研究施設の破壊を任せられている。素直にここで覚悟を決めてください。

「サトル君、だったわよね?」

 彼女は笑みを作りながら機械のスイッチを押した。サトルはいったい何をしているのかわからないでいた。

「未然に防ぐつもりだったのでしょうけど、もう一足遅かったわね。見なさい。」

 彼女がそう言うのと同時に床がせりあがると、たくさんのカプセルが現れ出た。そこには自分と全く同じ男の子が培養液の中を漂っていった。

「まさか?」

「そうよ、もう生産が始まったの。」

 サトルは苦虫をかみしめた。もう手遅れだったのか。しかも数を数えてみると2,3ダースはあるみたいだった。

「もう輸出するつもりだったのか?」

「いいえ、輸出はパーティーでのお披露目の後にするつもりだったのよ。まあ、試験的に出してはいたけどね。」

「クライアントはどこにいる。?」

「大丈夫よ、言ったでしょ輸出はまだ先だって。」

「じゃあ、どこに?」

「あなたが撃ち殺したでしょ?」

 それを聞いたサトルは顔が青白くなった。まさか、さっきのやけに幼い警備員が。しかも、その警備員はやけに戦闘能力が高かった気がした。

「そんなハッタリ、信じるとでも思ったか?」

「なら、いいもの見せるわ。」

 そういってニールスは指を鳴らすと周りに警備の人間たちが来た。そして彼らが顔を隠していたマスクを外した。それは何とも異様な光景であった。自分を少し大人にしたかもしくは女性に性転換したかのような人物がずらりと並び、その機械的な無機質の表情を浮かべていた。

「これで信じてもらえたかしら。」

「貴様、一族の復興という欲のために俺の複製品を作っていたのか。」

「一族の復興?そんなもの私にはどうでもよかったわ。それはあいつらが魚のえさのようについてきて始めたことだから。」

「じゃあ、なにが目的だ?」

「私は子供ができないの。放射線を浴びすぎて妊娠ができないの。だからいろんな遺伝子を見つけながら、研究を重ねてきたの。そしてついにお前にたどり着いた。喜びなさい。あなたと私は実質これの親になったのよ。」

 その喜びに震える彼女の言葉は親としての性分には映らなかった。自分が警備員をこの子と呼ばなかったことがそれを映していた。

 そして、それに眉一つ動かさなかったのはサトル本人であった。彼は何のためらいもなく、まるで射撃場の的を射抜くように自分の複製品を早打ちの要領で心臓と眉間に2つずつ打ち抜いた。その血は人間とは違う色をしていた。普通人間の場合は赤く暗い色をしているが、その複製品の色は青い色をしていた。それは彼等もまた人間とは違う種であることを証明していた。その事態にニールスはとっさの判断で再び銃口を向けようとしたが、素人の彼女に戦いのプロとなりつつあるサトルがかなうわけがなく、胴体に6発分の弾丸を受け、赤い白衣を血染めに変えた。彼女は息が絶え絶えになりながらその少年を見合った。

「貴様、自分の子供に手をかけるとは思わなかったぞ。」

「それはそのままお前に返す。とても母親の言葉とは思えなかったけどな。」

「私が死んでここを破壊しても、私とお前の命の」

 そう言いかけたとき、サトルはためらいもなく引き金を引き彼女の頭蓋骨を卵のように割った。何か彼女は言いたげな様子であったが、奴が死んだ今、これで今回の任務はこれでおしまいである。

 その後、サトルは至る所にある機械群の破壊を敵が持っていた警棒を使いながら始めた。自分のデータは勿論、すべてのデータを物理的に破壊して、研究のために培養されたクローンも蜂の巣にして新たな増産を阻止した。そして彼が研究施設から出ようとしたとき、さっきのメイド服姿の少女が現れた

「すべて終わりましたか?」

「ああ、終わったよ。」

「それじゃ、さっきの会場までついてきてください。」

彼女の言葉に警戒の色を出しながら元のパーティー会場に戻っていくのだった。

パーティー会場だった瓦礫は舵が沈静化したみたいで、こ撃砕においだけが辺りを包み込んでいた。

フォーエイはさっきの怯えた表情とは打って変わって機械的かつ冷静に言葉を発していた。

「博士を手に掛けましたね。」

「そうだ、僕が殺してきた。ついでにここのクローンと培養品も破壊した。とりあえずは僕の複製は出来なくなった。」

サトルは自信を持っていったのだが、フォーエイの言葉がすべての可能性を露わにさせた。

「いいえ、あなたの子供は今も生きています。」

 その言葉に首を傾げたサトルであったが、そのような考える式を少女は持たさなかった。彼女は即座に銃を取り出し、彼めがけて発射する。彼も即座に体が反応してかわすが、跳弾を利用してきたためかわすのが容易でなかった。何とか2、3発はなって反撃に転じるが彼女はすぐにかわして、銃口を向きなおした。

「お前も、旧人類じゃないな、さっきの弾を避けたのも完全に視認して避けたのだろう。

「はい、しかし、あなた達の言う新人類でもありません。」

 そういって着ていたメイド服を脱ぎ落した。そこには紺色の全身を覆う服が着こまれていた。そして、体のなんか初夏に機械の継ぎ目の部分やケーブルの先込みがあった。

「私は博士が生まれたときから付き人と護衛を任せられたアンドロイドです。」

「ロボットなのか。」

「平たく言えばそうです。そして私は博士の代理母でもあるのです。」

「どういう意味だ?」

「私に博士が入手した人工子宮が組み込まれているのです。そしてその子宮の中にあなたと博士の遺伝子が組み込まれた命があるのです。」

 その言葉を聞いてサトルは目を丸くした。あの女狐め、最後の最後でとんでもない仕掛けを残してくれたものだ。その時の彼はそう感じた。

「なら、お前もここで死んでもらうしかない。禍根は残さないようにするためにね。」

 サトルはそう言い名が銃口を彼女に向けるのであった。


  月は新月に近くなり当たりに残されたのは血にまみれの黒装束と黒息吹を携えた屍の山だけであった。

サトルは楽しかった遊びを終えると再び本来の任務に立ち直った。言うなれば自分の目の前にある命をこの場で絶やすという選択であった。彼は銃口を再び目の前のお世話ロボに照準を合わせ、互いに笑みを消しながら見つめあった。

「命乞いはしないんだね?」

 少年は美しい少年ボイスで質問する。

「私は作られた機械です。感情の起伏は通常はしないのが常識です。」

「じゃあ、さっきの涙は何だ。機械にも涙を流す機能が備わっているように見えるけど。」

「あれは、博士が可能な限り人間に見せるためです。」

 さっきの子供のような無邪気さから機械帰化した無機質な音声に変わって返答をする。

 サトルは引き金に力を0コンマ以下の力を加えようとする。ふと頭の中に何かがほとばしった。それは自分の体の細胞が人間だった頃の記憶だった。彼には両親が実の子供をあやし、幸せになりなさいと口走る両親と思われる人物の顔だった。二人の顔は幸せに包まれた優しい笑みがそこにあった。二人は自分を幸せになりなさいだの立派に育ってだの、そんなベタなことばかり聞かされた気がした。そして、その願いは果たされることになった。ただし、それは二人との別離と、周囲からの迫害、そして流された二人分の血液という等価交換である。

 添えはよく聞く走馬灯のようなものだったのかもしれない。サトルにとって家族のぬくもりは知らないか、もしくは忘れ去られた存在だったのかもしれない。

 彼は頭を振りもう一度力を指に込めるが引き金がトン単位になっているかのように重かった。そして再びある言葉が頭に浮かんだ。「あなたも、私たち以上に幸せになりなさい。」というセリフだった。なんとベタな言葉だ。だが、その時その言葉がより一層重くしたように感じた。

 サトルは全身全霊を込めて自らの引き金を引いた。セミオートで放たれた弾丸は火薬から放出されるエネルギーを放出した。放たれた弾丸は普通の人間ならば見ることのできない速さで飛び出し、彼女のテンプルをかすめ壁に着弾した。

 それを確認したサトルはフォーエイに向けていたライフルの銃口を上に向けて彼女に近づいった。彼女もまた銃口を上に向けて抵抗の意思がないことを示した。

「どういうつもりなの?」

「気が変わった。一緒にここから逃げよう。」

 サトルはそういって転がっている人形もどきを漁り始めた。それは動いているときとは大違いなくらいに重いものだった。

「何をしているの?」

 彼女は追剥にも似た彼の行動に疑問の声を上げた。

「自分と同じ格好をした人間を探している。僕と君が死んだように偽装するために。」

「なるほど、死んだことを相手に気づかせないための偽装工作ですね。」

 彼は黙って頷いた。このままにしておけば相手が気づくことを恐れての行動だった。

「君も、自分と同型の物を探せ。」

「そのことなら心配いりません。既に心当たりがあります。」

 そういって、彼女は彼を手招きして一緒に運ぼうと誘う。それは、破壊したカプセルに入れられた、自分のクローンと彼女と同型のロボットであった。彼女の考えは普通の人間やロボットでは自分達が生きていることを証明しているため、全く同じであるいわば自分と同じ存在を用意する必要があったのだ。

「遺伝子に細工らしいことをしていないよね?」

「あなたの方はほぼ100%純水です。細胞の寿命も見受けられません。」

 彼女は解析装置を見ながら、隣居る自分の同型機に視線を向けた。同型機は髪型や色が違っていたためそのままだとすぐに見抜かれるのはわかっていた。

「お前の方は少し細工をしないといけないみたいだがな。」

 そういいながら彼はどこから持ってきたの可燃性の液体の入った入れ物の蓋を開けて、それに2体を中心にして大量にまき始めた。

「なるほど、これを燃やしてある程度、焼死したようにするのですね。」

「そうだ、しかし、明日程度僕らであることを残しておいてね。」

 そういってある程度部屋中に薬品が充満してきた。それは全盛期に盛んに採掘された液体化石燃料の薬品とは違う、別の何かであった。

 サトルは近くにあったオイルライターを拾おうとしたときに、フォーエイが伸びる手を掴んだ。

「何をする?」

「このライターにはオイルが入っていません。」

 サトルは

首をひねりながらライターの丸い部分を回転させる。火花は小さいが出ることは出るみたいだった。しかしオイルの匂いがしないことを見ると火がつかないのは確かであった。

「じゃあ、他に火が付きそうなものはない?」

「それには心配いりません。」

 そういって博士の死体をあさりだすと、何かを取り出した。それはリンを使わないマッチであった。

「ニースは葉巻を吸う癖があるのか。」

「いいえ、博士は妊娠できない体になってから健康に気を使う人でしたので、タバコ類は電子タバコを含め嫌っていました。これは、来客と万一に見つかった際に気を使うよう私が進言して渡していたものです。」

そういってフォーエイは箱からマッチを一本取り出し、初めてなのか不器用ながら擦り、火をともした。

「これで、しばらくは時間が稼げるよね。」

「はい、しかし、遅かれ少なかれ、あなたの組織は気が付くと思われます。」

「確かにそうだね。」

その言葉をフォーエイは聞いた後持っていたマッチの火をまき散らされた液体が染みついたマット脳に落とすのであった。


 二人の乗るボートの向こうに火炎に包まれ地面から崩落するように焼き崩れる巨大な邸宅がそこにあった。そしてその光景をまるでキャンプファイヤーを見つめるみたいに目を輝かせる二人がいた。彼等には後悔よりも子供心の気持ちがあったのかもしれない。

「きれいだね。」

「そうでしょう。私にはただ燃えて崩れる炎の壁にしか見えませんが?」

 二人の対極的でなおかつ論理と美意識の対立というのを現したような会話であった。ともにその会話の内容の発した言葉が異常なのであるのだが。

「僕の子供はどうなっているの。」

「そうですね。心音、体温ともに異常はありません。生後二か月といったところでしょう。」

 サトルは彼女のお腹に耳を当て、彼女はデータを見ながら命の鼓動を聞き入った。しかしその顔は無機物を連想させるようなものであった。

「博士は、私の事を妹や娘のように思っていたみたいです。博士には子をなす能力が現生の人類より弱かったみたいで、一族からも不安がられていたようです。」

「奴の思惑に乗ることになるのは不本意だが、これ以上無駄な血を流す必要もないだろう。」

 そういってサトルは持っていた身分証とタグをボートから捨てた。それを見つめるフォーエイはニールスが生まれたときに自分が抱く写真を消去しようとしたが、それをサトルに止められる。

「思い出を大切に持っとけよ。」

「私も、切り捨てようと思って。」

「僕が切り捨てたのは、新人類としての思い出だよ。」

 そういわれると、彼女は再び見つめ何かを考え始めた。

「消すのはまた今度にします。」

 その言葉を発したあと二人は煌煌と照らし出す衛星に視線を向けた。

「きれいな月だね。」

「はい、この年が一番美しく月が見えると記録されています。」

 二人は笑いもせずその美しい月をただ見上げていた。一方の月はこの日の夜に起きた出来事を何も語ることなくただ沈黙していただけであった。


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月の感情 @bigboss3

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